ハンバーガーやステーキなど肉料理を日常的に食べてきたアメリカの若者に異変が起きている。肉や乳製品をいっさい使わないレストランに、行列を作っているのだ。何が起きているのか。NY在住ジャーナリストのシェリーめぐみ氏がリポートする――。(第1回、全4回)

筆者は1991年からニューヨークに住んでおり、いまの住まいはマンハッタンのハーレム地区にある。全米有数のアフリカン・アメリカン・コミュニティーがある場所で、周囲の飲食店といえば「コンフォートフード」や「ソウルフード」と呼ばれる店が多い。要はスペアリブやフライドチキンなど、アメリカ人が「懐かしい味」と感じるような肉料理がたくさんある場所だ。

ところがここ数年、ご近所のとある店に行列ができている。メニューにあるのはスイート・チリ・チキンやチーズバーガーなどだが、お肉は一切入っていない。つまり全て「ヴィーガン」。そうした料理を、スポーティーなアスレジャー・ファッションに身を包んだミレニアル世代の男女がもりもりと平らげている。店の名前は「シーズンド・ヴィーガン」。最近話題になっているヴィーガン・レストランの一つだ。

こうした店は、ファッショナブルな若者でどこもにぎわっている。ダウンタウンではヴィーガンのアジア系エスニック料理やメキシカン料理が人気を集め、ソーホーのヴィーガン・バーガーチェーン「バイ・クロイ」も大盛況。マンハッタンを中心に11店舗を構える「ヴァン・リューエン」は、今1番ホットなアイスクリーム・ショップで、売り物はカシュ―ミルクなどで作るヴィーガン・アイスクリームだ。

こうしたお店でチキンやバーガーとして出されている物は、大豆をはじめさまざまな豆や雑穀を原料に作られている。味も食感も本物の肉にかなり近く、ヴィーガンと知らなければ、食べても気づかないだろう。

2019年夏、ニューヨークはヴィーガン・ブームの真っただ中にいる。

少数派とはいえ、人口は3年で6倍に増加
ヴィーガンとは、お肉や魚など動物性たんぱく質は一切とらない食事のことであり、ライフスタイルのこと。ベジタリアンと違うのは、卵と乳製品は食べるベジタリアンに対し、ヴィーガンはそれより一歩進んで食べ物も身に着ける物も動物性は一切NGと厳しい。

一方でアメリカといえば、ハンバーガーやステーキなどお肉の国というイメージが強いと思う。実は1人当たりの肉の消費量は徐々に減ってはきているのだが、今も日本の2倍以上だ。そんなアメリカで、ヴィーガン人口がここ数年急増しているようなのである。

「ようなのである」という曖昧な言い方をしたのは、例えば世論調査を行うギャラップの2018年のデータを見ると、アメリカのヴィーガン人口はわずか3%、ベジタリアンも5%にとどまっているからだ。

しかし、この数字を見るだけでは、アメリカやヨーロッパの国々で起こっている激変を見逃してしまうだろう。

もう一つの数字を見てみよう。世界のマーケットを調査するグローバル・データの発表によると、2014年から17年の間に、アメリカでヴィーガンと自己申告した人は1%から6%に増加。全体からみれば少ないものの、6倍というのは見逃せない変化だ。

一体何が起こっているのだろう?

「肉を使わずに何が食べられるか試しているんだ」
おそらく日本人から見ると、ヴィーガンといえば仏教の僧侶が食べる質素な精進料理や、不健康に激やせした芸能人や、アメリカの過激な動物愛護の活動家を想像してしまうかもしれない。

しかし今ブームになっているヴィーガンは、日本人のイメージにあるヴィーガンとも、これまでアメリカ人が持っていたコンセプトのヴィーガンとも違う。

まず、筆者が「シーズンド・ヴィーガン」に来ていたお客さんから聞いた話を紹介しよう。

フライドチキンやザリガニのバジル・ガーリックソースをほおばっていた男性2人、女性1人の3人組。「なぜこの店を選んだのですか?」と尋ねると、20代の男性が「ネットで調べて見つけたんだよ」と答えた。この男性はタンクトップ姿。いかにもジムで鍛えていそうな、筋肉質な体つきだ。

「あなたたちは全員ヴィーガンですか?」と聞くと、返って来た答えは全員「ノー」。ヴィーガン・レストランにわざわざ来ているのに、3人ともヴィーガンではないという。「なぜヴィーガン料理を食べに来たの?」と改めて問いかけると、タンクトップの男性はこう答えた。

「実は1年くらい前から肉や乳製品を減らしたいと思い始めたんだ。できたらヴィーガンになりたい。だから今、ヴィーガンでどんな物が食べられるのか、いろいろ試しているところなんだよ」

以下ソース
https://president.jp/articles/-/29388