■■■■■ アンパンマン総合スレッド ■■■■■
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中は高い所に電燈が一つともつてゐるだけだから、殆ど夜のやうな暗さである。 まづ坑山の竪坑の底に立つてゐるやうな心もちだと思へば間違ひない。 僕はごろごろする石炭を踏んで、その高い所にある電燈を見上げた。 「この頃は折角見て上げても、御礼さえ碌にしない人が、多くなって来ましたからね」 ぼんやりした光の輪の中に、蟲のやうなものが紛々と黒く動いてゐる。 雪の降る日に空を見ると、雪が灰をまくやうに黒く見える―― 亜米利加人は惜しげもなく、三百弗の小切手を一枚、婆さんの前へ投げてやりました。 僕はすぐに、それが宙に舞つてゐる石炭の粉だと云ふ事に氣がついた。 もしお婆さんの占いが当れば、その時は別に御礼をするから、――」 此中で働いてゐる機關兵の事を考へると殆ど僕と同じ肉體を持つてゐる人間だとは思はれない。 婆さんは三百弗の小切手を見ると、急に愛想がよくなりました。 現にその時も二三人、その暗い炭庫の中で、石炭をシヨヴルで下してゐる機關兵の姿が見えた。 「こんなに沢山頂いては、反って御気の毒ですね。―― そうして一体又あなたは、何を占ってくれろとおっしゃるんです?」 外に海があつて、風が吹いて、日があたつてゐる事も知らない人間のやうに働いてゐる。 亜米利加人は煙草を啣えたなり、狡猾そうな微笑を浮べました。 さうして、誰よりも先きに、元の入口をボイラアの前へ這ひ出した。 が、ここでもやはり、すさまじい勞働が、鐵と石炭との火氣の中に、未練未釋なく續けられてゐる。 それさえちゃんとわかっていれば、我々商人は忽ちの内に、大金儲けが出来るからね」 エレヴエタアで艦の底から天上して中甲板の自分のケビンへ歸つて、カアキイ色の作業服を脱いだら、漸くもとの人間になつたやうな心もちがした。 「私の占いは五十年来、一度も外れたことはないのですよ。 それがどこへ行つても、空氣が息苦しい位生暖かくつて、いろんな機械が猛烈に動いてゐて、鐵の床や手すりが油でぴかぴか光つてゐて、僕のやうな勞働に縁の遠いものは、五分とそこにゐると、神經にこたへてしまふ。 何しろ私のはアグニの神が、御自身御告げをなさるのですからね」 が、その間に絶えず或る考へが僕の頭にこびりついてゐた。 亜米利加人が帰ってしまうと、婆さんは次の間の戸口へ行って、 それは歐洲の戰爭が始まつて以來、僕位の年齡のものが大抵考へるやうになつた、或る理想的な考へである。 その声に応じて出て来たのは、美しい支那人の女の子です。 今このケビンの寢臺の上にころがつて、くたびれた足をのばしながら、持つて來たオオベルマンの頁をはぐつてゐる間もやはりその考へは、僕をはなれない。 が、何か苦労でもあるのか、この女の子の下ぶくれの頬は、まるで蝋のような色をしていました。 これは其の後の事だが、夕飯をすませて、士官室の諸君と話してゐると、上甲板でわあと云ふ聲が聞こえた事がある。 何だらうと思つて、ハツチを上つて見ると、第四砲塔のうしろに艦中の水兵が黒山のやうに集まつてゐた。 ほんとうにお前位、ずうずうしい女はありゃしないよ。 さうしてそれが皆、大きな口をあいて、「勇敢なる水兵」 ケエプスタンの上に、甲板士官がのつてゐるのは、音頭をとつてゐるのであらう。 恵蓮はいくら叱られても、じっと俯向いたまま黙っていました。 こつちから見ると、その士官と艦尾の軍艦旗とが、千人あまりの水兵の頭の上に、曇りながら夕燒けのした空を切りぬいて、墨を塗つたやうに黒く見えた。 今夜は久しぶりにアグニの神へ、御伺いを立てるんだからね、そのつもりでいるんだよ」 下では皆が、鹽辛い聲をあげて、「煙も見えず雲もなく」 女の子はまっ黒な婆さんの顔へ、悲しそうな眼を挙げました。 勇ましかる可き軍歌の聲が、僕には寧ろ、凄壯な調子を帶びて聞えたからである。 「又お前がこの間のように、私に世話ばかり焼かせると、今度こそお前の命はないよ。 お前なんぞは殺そうと思えば、雛っ仔の頸を絞めるより――」 主計長の案内で吃水線下二十何呎の倉庫へはいつたり、軍醫長の案内で蒸し暑い戰時治療室を見たりしたら、大分足がくたびれた。 ふと相手に気がついて見ると、恵蓮はいつか窓際に行って、丁度明いていた硝子窓から、寂しい往来を眺めているのです。 そこで上甲板へ出て、水兵の柔道を見てゐると、機關長が氣合術をやつて見せるから來いと云つて人をよこした。 その後で、士官次室へ招待されて皆で出かけたら、浴衣がけで、ソフアにゐた連中が皆立つて、僕たちの健康とSの結婚とを祝してくれた。 恵蓮は愈色を失って、もう一度婆さんの顔を見上げました。 「よし、よし、そう私を莫迦にするんなら、まだお前は痛い目に会い足りないんだろう」 婆さんは眼を怒らせながら、そこにあった箒をふり上げました。 中でも、色の黒い、眼の大きい、鼻のつんと高い關西辯の先生の如きは、赤木桁平君を想起するやうな勢ひで、盛んにメートルをあげた。 誰か外へ来たと見えて、戸を叩く音が、突然荒々しく聞え始めました。 僕に自來也と云ふ渾名をつけたのも、この先生である。 その日のかれこれ同じ時刻に、この家の外を通りかかった、年の若い一人の日本人があります。 これは僕の髮の毛が百日鬘の樣だからださうだが、もし夫れ人相に至つては、夫子自身の方が遙かによく自來也の俤を備へてゐた。 それがどう思ったのか、二階の窓から顔を出した支那人の女の子を一目見ると、しばらくは呆気にとられたように、ぼんやり立ちすくんでしまいました。 そこへ又通りかかったのは、年をとった支那人の人力車夫です。 鏡にさへ向へば、先生自身にもすぐにわかる事である。 あの二階に誰が住んでいるか、お前は知っていないかね?」 この先生は、僕にハムだのパインアツプルだの色んな物を呉れた。 日本人はその人力車夫へ、いきなりこう問いかけました。 支那人は楫棒を握ったまま、高い二階を見上げましたが、「あすこですか? とか何とか云つて、僕のコツプへ無暗にビールを注いだ。 あすこには、何とかいう印度人の婆さんが住んでいます」 「今日靴下一つになつて、檣樓へ上つたのはあんたですか。」 と、気味悪そうに返事をすると、匆々行きそうにするのです。 彼と僕とは今朝雨の晴れ間を見て、前部艦橋からマストを攀のぼつて、檣樓へ上つて來たのである。 が、この近所の噂じゃ、何でも魔法さえ使うそうです。 僕はこの先生とこんな話をしながら、ニコチンとアルコオルとをちやんぽんに使つた。 まあ、命が大事だったら、あの婆さんの所なぞへは行かない方が好いようですよ」 レス数が950を超えています。1000を超えると書き込みができなくなります。