0001Socket7742018/08/19(日) 17:22:19.18ID:m58EUO5R
アンパンマン総合スレッド立てました。
支那人の車夫が行ってしまってから、日本人は腕を組んで、何か考えているようでしたが、やがて決心でもついたのか、さっさとその家の中へはいって行きました。
所が、その痛みは士官次室を失敬した後でも、まだ執拗く水おちの下に盤桓してゐる。
すると突然聞えて来たのは、婆さんの罵る声に交った、支那人の女の子の泣き声です。
そこで僕はTに仁丹を貰つて、それを噛みながらケビンのベツドの上へ這ひ上つた。
日本人はその声を聞くが早いか、一股に二三段ずつ、薄暗い梯子を駈け上りました。
僕が檣の上へ帽子をかぶつてゐる軍艦の夢を見たのは、その晩だつたやうに記憶する。
そうして婆さんの部屋の戸を力一ぱい叩き出しました。
明くる朝、飯も食はずに上甲板へ出て見たら、海の色がまるで變つてゐるのに驚いた。
昨日までは濃い藍色をしてゐたのが、今朝はどこを見ても美しい緑青色になつてゐる。
が、日本人が中へはいって見ると、そこには印度人の婆さんがたった一人立っているばかり、もう支那人の女の子は、次の間へでも隠れたのか、影も形も見当りません。
そこへ一面に淡い靄が下りて、其靄の中から、圓い山の形が茶碗を伏せたやうに浮き上つてゐる。
婆さんはさも疑わしそうに、じろじろ相手の顔を見ました。
僕は丁度來合せた機關長に聞いて、艦が既に豐後水道を瀬戸内海へはいつた事を知つた。
して見ると遲くも午後の二時か三時には山口縣下の由宇の碇泊地へ入るのに相違ない。
日本人は腕を組んだまま、婆さんの顔を睨み返しました。
「じゃ私の用なぞは、聞かなくてもわかっているじゃないか?
僅か何日かの海上生活が、僕に退屈だつたと云ふのではない。
私も一つお前さんの占いを見て貰いにやって来たんだ」
婆さんは益疑わしそうに、日本人の容子を窺っていました。
やがて、何氣なく眼を上げると、眼の前にある十四吋砲の砲身に、黄いろい褄黒蝶が一つとまつてゐる。
「私の主人の御嬢さんが、去年の春行方知れずになった。
驚いたやうな、嬉しいやうな妙な心もちではつと思つた。
機關長は相變らずしきりにむづかしい經義の話をした。
陸を、畠を、人間を、町を、さうして又それらの上にある初夏を蝶と共に懷しく、思ひやつてゐたのである。
遠藤はこう言いながら、上衣の隠しに手を入れると、一挺のピストルを引き出しました。
さもなければ、芸術に奉仕する事が無意味になつてしまふだらう。
たとひ人道的感激にしても、それだけを求めるなら、単に説教を聞く事からも得られる筈だ。
香港の警察署の調べた所じゃ、御嬢さんを攫ったのは、印度人らしいということだったが、――
芸術に奉仕する以上、僕等の作品の与へるものは、何よりもまづ芸術的感激でなければならぬ。
それには唯僕等が作品の完成を期するより外に途はないのだ。
しかし印度人の婆さんは、少しも怖がる気色が見えません。
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