米国の大都市では今、「電動キックスケーター」のシェアサービスが人気だ。現地では「スクーター」とも呼ばれる。ブームが本格化したのは半年ほど前だ。

背景には交通渋滞の悪化がある。サンフランシスコでは車なら1マイル(約1.6キロメートル)進むのに30分かかることもあるが、時速24〜30キロメートル前後の速度が出る電動スケーターなら、5〜10分だ。しかも基本料金は1ドルで、1分につき15セントの使用料を払えばよい。

電動スケーターが許可されていないニューヨークでは自転車シェアが人気だが、駐輪場が必要だ。一方、電動スケーターは乗り捨て自由。GPS搭載のため、アプリで場所がわかり、QRコードを読み取って解錠する。

渋滞解決に期待集まる
電動スケーターシェアの3大スタートアップの一角、スピンのユアン・プーン社長は、渋滞に嫌気が差す市民の潜在需要を、新たなビジネスモデルが一気に掘り起こしたと分析する。

同社は自転車シェアが主力だったが、今年から電動スケーターに特化した。「こちらのほうが、はるかに大きな需要がある。収益も自転車シェアより多く見込める」(プーン氏)。すでに首都ワシントンDCやマイアミ、オースティンなどで営業許可を取得した。

許可をめぐっては、問題も起きている。スピンのほか、ライドシェア大手のウーバー・テクノロジーズの元幹部が創業した最大手バード、7月にウーバーとの提携を発表したライム・バイクは、サンフランシスコの市当局から運営の中止を命じられた。歩道での走行や乗り捨てに地域住民の苦情が相次いだのだ。現在、各社は許可申請中だ。

投資熱も高まるばかりだ。バードとライムの企業評価額はそれぞれ20億ドル、10億ドルを超え、いわゆる「ユニコーン」企業の仲間入りを果たした。特にバードは昨年4月の創業で、ユニコーンへの到達は史上最短となった。ライムは、提携したウーバーのほか、グーグル親会社のアルファベットが持つベンチャーキャピタルからも出資を受けている。

今年、初期段階の資金調達として600万ドル(約7億円)を集めたスキップ・スクーターズは、2月にワシントンDCでサービスを開始した。スキップへの投資を主導したAキャピタル創業者のロニー・コンウェー氏曰(いわ)く、電動スケーターシェアは人口密集地域での“ラスト1マイル交通”の需要に応え、スタートアップの成功に不可欠な「最適なサービスを最適な市場に提供する」という条件を満たしている。「何千とある消費者向けビジネスの中では珍しい」(コンウェー氏)。

スキップは行政や地域との連携を重視。自転車専用道路の整備に熱心で、地元のNPOなどとも協業する。サンジェイ・ダストアCEOは、「目標は、車ではなく、現在そして未来の都市に最適な乗り物を普及させることだ」と強調する。

前出のスピンは、電動スケーターの自社開発・生産も検討中。ハードの品質で差別化を図る考えだ。今年6月にはライムが、8月にはバードが相次ぎ欧州に進出するなど、各社は世界展開も狙う。電動スケーターシェアが日本に上陸する日も遠くなさそうだ。
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