エンジンの慣性トルクについて考察するスレ
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以下のスレでエンジンの慣性トルクの話をしたらけっこう興味を持ってくれた人がいたので 単独スレを立ててみます 【2021】MotoGP総合520周目【サマーブレイク】 https://egg.5ch.net/test/read.cgi/bike/1625289220/305- いろいろ計算してますが自分は機械工学を学んだわけでもないド素人なので常に眉にツバを つけながら読んでください また計算式やグラフをたくさん用意しながらの投稿でけっこう疲れるので投稿はかなり スローペースになると思いますがご容赦ください まずエンジンの慣性トルクといえばヤマハのMotoGPのボスであった古澤政生氏ですね (ヤマハ時代は「古沢」表記ですが現在は「古澤」とされているようなのでこちらで統一します) その古澤氏ご自身がクロスプレーンクランクについて述べたペーパーがあるので紹介します 「不等間隔爆発エンジンとモトGP」 https://www.academia.edu/37694748/08JSAE_CROSSPLANE.pdf (ページを下にスクロールするか「READ PAPER」の部分をクリックしてください) このペーパーで重要と思う点をいくつか抜き出してみます ----- しかし、なぜこれらの不等間隔爆発がうまく働くのかは明らかにされていなかった。 リアタイヤの路面との接触面に働くトルクパルスが互いに近寄ると、 タイヤをスリップさせ、次のパワーパルスが発生するまでの 長いインターバルの間にタイヤが回復して強くグリップするという、 怪しげな理論が流布されていて、 漠然と信じられていただけである。 (図 3 参照) 筆者は、この理論を全く信じていない。 ----- というわけで2ストローク時代の「ビッグバン」NSR500の大成功以来なんとなく皆正しいと思っていたコーナー立ち上がりでの トラクション云々という話を古澤氏は全く信じていないわけです もう少し引用してみましょう ----- それではなぜ不等間隔爆発にしたのか? それは、 不等間隔爆発そのものが本来の目的ではなく、実は直列4 気筒エンジンの スロットルを閉じた時の回転数変動が最も少ない90度クランクを設計したために、 結果として爆発が不等間隔になったにすぎないからである。 ----- ----- スロットル開度の頻度分析結果を示す。 全開の頻度が全体の25%程度と少なく、ハーフスロットルを多用している点が特徴的である。 特に、 スロットル開度10%以下の頻度が全体の30%以上を占めていることが、4輪車とは大きく異なる点である。 ----- というわけで古澤氏が着目しているのはコーナー立ち上がりのスロットルを開けている状態ではなく、「スロットルを閉じた時」の 慣性トルク(ノイズ)が大きく燃焼トルク(シグナル)が小さい状態である場合ということになります こうした古澤氏の考えはNSR500時代を知る「ビッグバン論者」の方には納得いかないかもしれませんが、なんと言っても古澤氏 は4ストロークのMotoGPとなって以降では最高の技術者です よってこのスレでは古澤氏のいう「スロットル開度10%以下」の場合を想定して思い切って燃焼トルクは無視し、慣性トルクの大小、および 慣性トルクによって引き起こされるクランクシャフトの回転角速度の変動の大小のみを扱うことにします 興味深いなと思い踏んでみたがPDFを開けなかった 抜いて寝るわ さてなにはともあれ慣性トルクについて考えるにはその計算式を知らないことには話が始まりません 単気筒エンジンの慣性トルクをTiとすると、その計算式は以下のようになります(IはinertiaのI) https://i.imgur.com/KC03Uj8.jpg 今日は文章考えるだけで疲れたのでここまで 次の投稿ではこの式について詳しく説明します >>5 「Download PDF」をクリックするんじゃなくて>>2 に書いたように 「ページを下にスクロールするか「READ PAPER」の部分をクリックしてください」 だってば >>7 あ、これURLはpdfだけど実際はWebページなので専ブラによってはダウンロードしようとして失敗するかもしれんから 普通のWebブラウザで開いてね 勃起角度10%以下の場合を想定して思い切って長さは無視し、ブツの太さ、および腰の振りによって引き起こされるマイシャフトのピストン運動の変動の大小のみを扱うことにしましょう あ、うちのAndroidでChromeを単体で開いたあとにURL貼り付けたらちゃんと開けたわ ちなみにアンケートだけどこの話題に興味がある人で Maxima https://maxima.sourceforge.io gnuplot http://www.gnuplot.info あたりのソフトウェア扱える人いますか? もし1人でもいればそれぞれのソフトで扱えるテキスト形式の数式もいくつか貼ります gnuplot はただ単にカンマ区切りのテキストですよね 公開してくれたらそりゃありがとうだけど、わざわざ自分でプロットしたり再利用する人は、バイク板にはいないのでは ぶっちゃけ公開の手間をかけても無駄になるかもと思います ご自分用の記念にgithubにでも放り込んで貰えれば十分かもです いないかどうかは分からん あれば利用する人もいるかもしれん >>13 > gnuplot はただ単にカンマ区切りのテキストですよね 違う とりあえずバカは黙ってて ホイールのバランスの話に似てると思う。 すでにバランスがとれているホイールに 4つバランサーを取り付けるのなら均等間隔でと。 V5エンジンでMotoGPに参戦するホンダも 理想のエンジンは球形であり、現実には星形と 言ってたんじゃないかな。 燃焼させないときのバランスなら特にね。 >>18 まあ理系的な感覚でいえばそのようなぼんやりしたテキトーなたとえ話じゃなくてちゃんとした数式を探し その内容を理解することで物理現象を把握すべきだと思うんですけどね さて>>6 に示した計算式ですが、そもそも各記号の定義を書いていないのでここでまとめておきましょう ピストン・クランク機構を以下の図のように単純化し https://i.imgur.com/f7sAzeW.png x:上死点を基準としたピストンの位置で図の下向きを正とする m:往復質量(ピストンの質量+コンロッドの質量の一部) l:コンロッド長さ r:クランク腕長さ(=ストロークSの1/2) θ:上死点を基準としたクランク回転角度 とします また λ: 連桿比=l/r ω::クランク回転角速度で、近似のためは変動しない一定の値(回転角速度の平均値) とします このとき時間をtとするとθ=ωt またエンジンの回転数をN [rpm]とすると ω=2πN/60 [rad/s] です このときピストンの位置xは https://i.imgur.com/Sj9kJIp.jpg であり、伝統的にはこれを三角関数の足し合わせに展開したあと2次(cos2θ)の項までを用い、 https://i.imgur.com/Imj1bPm.jpg と近似して計算します 両者をMaxima用の数式として表すと ややこしい方の式: r*(1-cos(%theta)+%lambda*(1-(1-sin(%theta)^2/%lambda^2)^(1/2))) 近似式: r*(1-cos(%theta)+1/(4*%lambda)*(1-cos(2*%theta))) です ちなみに昔の技術者はここで連桿比λ=l/rでなくその逆数ρ=r/lを用いて上記式を表現することが多かったようです 確かにそのほうが数式はこざっぽりして良いのですが連桿比の逆数をわざわざ考えるのはやっぱどこか不自然な 気がするのでここではλを用いています さてピストンの位置のグラフを描いてみたいのですが、rを具体的な長さとして定めてしまうと汎用性に欠けたグラフ になってしまうのでxをrで割ったx/rの値をプロットすることにします また、連桿比λを定めないとグラフが描けないのでλ=4とします このスレでは基本的に連桿比の値が必要な場合はλ=4としますが、その根拠についてはまだだいぶあとで記します 先程のややこしい方の式をx1、近似式の方をx2としてプロットすると https://i.imgur.com/PAkZ73D.png となります ピストンの位置の最大値はストロークS=2rですから、当然グラフの最大値は2です 見てわかるように2つのプロットは重なって区別がつかないほどで、十分な精度の近似となっていることがわかります このグラフから装飾を省いた最低限のプロットをするためのgnuplotのスクリプトを示しておきます (gnuplotのウィンドウにそのまま貼り付ければ勝手にグラフが描かれます) set angles degrees set xrange[0:360] set grid set xtics 30 set dummy theta x1(theta)=1-cos(theta)+lambda*(1-(1-sin(theta)**2/lambda**2)**(1/2.)) x2(theta)=1-cos(theta)+1/(4.*lambda)*(1-cos(2*theta)) lambda=4 plot x1(theta) replot x2(theta) 今日はここまで なぜわざわざピストンの位置xなんてものの話をするかというと慣性トルクの式に含まれるピストンの速度vと加速度a がそれぞれxの時間による1階微分、2階微分だからですね まあこのスレはこんな感じで遅々として先に進まないのですがそれでもかまわない、という人だけ読んでください あ、>>23 のgnuplotのコマンドは最後に改行記号が必要です 改行記号をつけるのが面倒くさければ一度描画が止まったあとにgnuplotのメインウィンドウに戻ってEnterキーを押しても 大丈夫です つか読み返すとタイプミス多いな… まあ文意がわからなくなるような致命的なミスはなさそうなので大目に見てください おっ始まった これに正弦波を重ねるとどんな感じになるかみたいので余裕があったらお願い >>27 こういった要望は嬉しいですね 連桿比λの変化も含めてプロットするとこうなります https://i.imgur.com/iiahRqr.png gnuplotだとこんな感じ set angles degrees set xrange[0:360] set grid set xtics 30 set dummy theta x1(theta,lambda)=1-cos(theta)+lambda*(1-(1-sin(theta)**2/lambda**2)**(1/2.)) plot x1(theta,3) replot x1(theta,4) replot x1(theta,5) replot 1-cos(theta) w l dt (20,15) # (改行記号のためのダミーコメント行) ここで連桿比λ=l/rが無限大の状態が1-cosθとも言えますが、コンロッド長が無限大とかクランク腕長さが無限小 というのは想像しづらいので、コンロッドを用いない回転・往復機構であるスコッチ・ヨーク機構の場合と思っておくと 良いのでしょう Scotch yoke https://en.wikipedia.org/wiki/Scotch_yoke ちなみに>>21 では三角関数の級数への展開の話をすっ飛ばしましたがMaximaでテイラー展開をおこなえばけっこう お手軽に計算ができます 興味がある方は以下のコマンドをコピーしてMaximaのウィンドウに貼り付け、Shift+Enterキーを押してみてください (ここではこれ以上説明しませんが) ---↓ここから--- /* Maximaの状態をリセット */ kill(all)$ /* ピストンの位置x*/ 1-cos(%theta)+%lambda*(1-(1-X^2)^(1/2)); taylor(%, X, 0, 6); subst(sin(%theta)/%lambda,X,%); trigrat(%); x:expand(%); coeff(x,cos(%theta)); coeff(x,cos(2*%theta)); coeff(x,cos(3*%theta)); coeff(x,cos(4*%theta)); coeff(x,cos(5*%theta)); coeff(x,cos(6*%theta)); ---↑ここまで--- >>29 早速ありがとう 計算式は読みきれないがこうやってグラフにしてくれると違いが分かっていいな 続きも期待してる さて、次はピストンの速度vです vはピストンの位置xの時間による微分ですから https://i.imgur.com/tfg2NoX.jpg ↑このようにxの角度による微分に角速度ωを掛けたものになります >>21 のややこしい方の式を微分するのは一見めんどくさそうに見えますが、Maximaを用いれば簡単に微分でき、 ---↓ここから--- /* Maximaの状態をリセット */ kill(all)$ /* ピストンの位置x*/ r*(1-cos(%theta)+%lambda*(1-(1-sin(%theta)^2/%lambda^2)^(1/2))); /* 角度θによる微分 */ diff(%,%theta,1); ---↑ここまで--- 結果速度vのややこしい式はこうなります https://i.imgur.com/C1SLPrA.jpg xの近似式の方は手計算でも簡単に微分できて https://i.imgur.com/5QJj8fw.jpg ですね xの時と同様に速度vの式2つを重ねてプロットしてみましょう 今度も係数のrとωが邪魔なので取り除いたものでプロットします (実際のエンジンでの値を求めたい場合はグラフから読み取った値に具体的なrとωをかけ合わせれば良いということになります) https://i.imgur.com/WCmJISZ.png set angles degrees set xrange[0:360] set grid set xtics 30 set dummy theta v1(theta)=sin(theta)+sin(2*theta)/(2.*lambda*(1-sin(theta)**2/lambda**2)**(1/2.)) v2(theta)=sin(theta)+sin(2*theta)/(2.*lambda) lambda=4 plot v1(theta) replot v2(theta) # (改行記号のためのダミーコメント行) 連桿比λを変化させた場合の様子も見てみましょう https://i.imgur.com/0N1hWpb.png set angles degrees set xrange[0:360] set grid set xtics 30 set dummy theta v1(theta,lambda)=sin(theta)+sin(2*theta)/(2.*lambda*(1-sin(theta)**2/lambda**2)**(1/2.)) plot v1(theta,3) replot v1(theta,4) replot v1(theta,5) replot sin(theta) w l dt (20,15) # (改行記号のためのダミーコメント行) >>35 を見ればわかるように、ピストンの速度vが最大値となる角度は連桿比によって変化します この角度は速度vの微分が0になる角度、つまり加速度が0になる角度で以下のようにまとめられます λ=3.0 73.2度 (286.8度) λ=3.5 75.1度 (284.9度) λ=4.0 76.7度 (283.3度) λ=4.5 78.0度 (282.0度) λ=5.0 79.1度 (280.9度) ↑この計算もまたMaximaを使って方程式の解を求めています (順序が逆になりますが、加速度aの式はすでに求まっているものとします) ---↓ここから--- /* Maximaの状態をリセット */ kill(all)$ /* 加速度aの式(係数rω^2除く)をθの関数として定義 */ a(%theta):=cos(%theta) +cos(2*%theta)/(%lambda*(1-sin(%theta)^2/%lambda^2)^(1/2)) +sin(2*%theta)^2/(4*%lambda^3*(1-sin(%theta)^2/%lambda^2)^(3/2)); /* 連桿比の指定 */ %lambda:3; /* 0〜π/2の範囲でa=0の解を求める(解はラジアン単位) */ find_root(a(%theta), %theta, 0, %pi/2); /* ラジアン→度に変換して浮動小数点で表示 */ float(%/%pi*180); /* 360度から引き算 */ 360-%; /* 以下、連桿比を変更して繰り返し */ %lambda:3.5; find_root(a(%theta), %theta, 0, %pi/2); float(%/%pi*180); 360-%; %lambda:4; find_root(a(%theta), %theta, 0, %pi/2); float(%/%pi*180); 360-%; %lambda:4.5; find_root(a(%theta), %theta, 0, %pi/2); float(%/%pi*180); 360-%; %lambda:5; find_root(a(%theta), %theta, 0, %pi/2); float(%/%pi*180); 360-%; ---↑ここまで--- なぜこの角度を求める必要があるかというと、>>6 の式の1行目にあるように慣性トルクの式はピストンの速度vと ピストンの加速度aを掛け合わせた形になっていますから、vが0になる上死点θ=0°と下死点θ=180°、そして 加速度aが0になる>>36 の角度(連桿比λ=4.0の場合76.7°と283.3°)の合計4箇所で慣性トルクが0になる、 という性質がわかるわけですね それはそうとして速度vのMaxima用の式を貼り忘れたので貼っておきます ややこしい方の式 r*%omega*(sin(%theta)+sin(2*%theta)/(2*%lambda*(1-sin(%theta)^2/%lambda^2)^(1/2))) 近似式 r*%omega*(sin(%theta)+sin(2*%theta)/(2*%lambda)) さて次はピストンの加速度aですが、これは速度vをもう一度時間tで微分するだけですから結果だけ貼っていきます ピストンの加速度aのややこしい方の式 https://i.imgur.com/jUWrPfD.jpg 近似式 https://i.imgur.com/6xlcuTJ.jpg それぞれのMaxima用数式 r*%omega^2*(cos(%theta)+cos(2*%theta)/(%lambda*(1-sin(%theta)^2/%lambda^2)^(1/2))+sin(2*%theta)^2/(4*%lambda^3*(1-sin(%theta)^2/%lambda^2)^(3/2))) r*%omega^2*(cos(%theta)+cos(2*%theta)/%lambda) 2つの数式による加速度aのグラフ(連桿比=4) https://i.imgur.com/pUXPs1u.png 拡大して見るとピストンの位置xのグラフの場合よりも誤差が増して紫と緑の色が分かれて見える部分があることが わかる…かもしれません gnuplot用コマンド set angles degrees set xrange[0:360] set grid set xtics 30 set dummy theta a1(theta)=cos(theta)+cos(2*theta)/(lambda*(1-sin(theta)**2/lambda**2)**(1/2.))+sin(2*theta)**2/(4.*lambda**3*(1-sin(theta)**2/lambda**2)**(3/2.)) a2(theta)=cos(theta)+cos(2*theta)/lambda lambda=4 plot a1(theta) replot a2(theta) # (改行記号のためのダミーコメント行) 連桿比λによる変化 https://i.imgur.com/oWiT7uz.png gnuplot用コマンド set angles degrees set xrange[0:360] set grid set xtics 30 set dummy theta a1(theta,lambda)=cos(theta)+cos(2*theta)/(lambda*(1-sin(theta)**2/lambda**2)**(1/2.))+sin(2*theta)**2/(4.*lambda**3*(1-sin(theta)**2/lambda**2)**(3/2.)) plot a1(theta,3) replot a1(theta,4) replot a1(theta,5) replot cos(theta) w l dt (20,15) # (改行記号のためのダミーコメント行) さて長くなりましたがピストン・クランク機構のx、v、aについての話は終わりです で、みなさんもう待ちくたびれたかと思いますが次は慣性トルクの求め方に移ります まず、「普通の人は」慣性トルクをどう求めるかというと太田安彦 名古屋工業大学名誉教授のサイトにあるように ピストン・クランク機構の「クランク腕接線方向荷重」を求めてそれにクランク腕長さrを掛けてトルクとするわけです (さくらインターネットのページでNGワードとなるためここに直接貼れないので「ピストン・クランク機構 Piston-Crank Mechanism」 でググってください) コツはコンロッドの倒れ角をφと定めて三角関数の関係式を上手く使いながら慣性力をベクトル分解する、といった感じ なんですが正直言って面倒くさいですし、トルクがプラスマイナスどっち方向かも混乱しますし結果がTi=-m・a・v/ω という簡潔で美しい形にまとめられることも気づきにくいです (少なくとも私はこの方法で求めて気づきませんでしたし、太田氏も気づいていないようです) じゃあもっと簡単に求める方法は? ということで以下の資料を見てください 繊維機械學會誌 1955 年 8 巻 7 号 p. 498-504 繊維機械のための機構学 (6) 亘理 厚 https://www.jstage.jst.go.jp/article/transjtmsj1948/8/7/8_7_498/_article/-char/ja/ ページ番号(503)の右側あたりが慣性トルクに関する部分ですが、なにせ古い資料で記号の表現も独特なので、 これを現代風の(このスレで用いている)記号に置き換えながら解説していこうと思います (今日はここまで) 全然書いてある事理解出来ないから結論だけ教えてくれ 2気筒、4気筒、X気筒、それぞれ街乗りに不便無い範囲で一番速いエンジンの形はどれなんだ? 現在の技術で作れる答えと物理的障害を全て無視した概念上の答えをそれぞれ教えてくれ >>43 結論を知った上で考察を読みたいって言うならまだしも分からんから結果だけ言えってw 読まんでいいと思うよ この式をどう文章として説明するか?というのはなかなか難しい(なにせ慣性力というものからしてなかなか人に説明するのは難しい) のですが、並進運動の往復質量の慣性力がコンロッドとクランクピンを介して回転運動に変換されると力のモーメントである慣性トルク となる、といったところでしょうか いや、これじゃやっぱなにがなんだかわからんな まあ解釈はともかく式はこれで正しいことは確かです ところで>>46 の1枚目の画像での数式による導出も亘理先生はあっさり書いておられますが、正直わかりにくいかと思います この数式で線分OCとあるのがクランク腕長さrであることは明らかですが、線分ONが -u/ω (このスレの表記で言うと-v/ω) であると何の説明もなしに置き換えられています で、どうもこれは昔の電子計算機がなかった時代の知識で図学的にピストンの速度、加速度を求める方法というのが知られていて 「図のピストンピンPとクランクピンCを通る直線を延長した線分上の点をNとすると線分ONが v/ω という値になる」 というのがまあまあ常識だったようです (符号の正負は座標系のとり方による) 要するに計算機も数表もなくても例えば実寸で図面を描いて線分ONの長さを測りω=2π*エンジン回転数[rpm]/60を掛ければ ピストン速度vが得られるわけですね (めんどくさいので私自身は本当にそうなっているか試していませんが) ちなみにここまで馴れ馴れしく亘理先生と書いてしまいましたが亘理厚 東京大学名誉教授は日本機械学会会長 も務められたメチャクチャ偉い研究者です 亘理厚 - Wikipedia https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BA%98%E7%90%86%E5%8E%9A 亘理 厚|日本自動車殿堂 JAHFA http://www.jahfa.jp/2006/01/01/%E4%BA%98%E7%90%86-%E5%8E%9A/ 日本における「自動車の振動・騒音研究の祖」と紹介されているようにNVH(騒音・振動・ハーシュネス)の大家として 知られていますが、ヤマハの古澤氏の専門分野もこのNVHですから古澤氏が提唱する慣性トルクのことを調べるうちに 亘理先生の書かれた資料にたどりついたのはある意味必然と言えるのかもしれません ところでこうして得られたTi=-m・a・v/ωという関係式は往復部と回転部だけで構成される機構であれば>>30 で紹介した スコッチ・ヨーク機構や、最近流行しているオフセットクランク(オフセットシリンダー)機構などでもなりたつはずです オフセットシリンダー - ヤマハ バイク ブログ|ヤマハ発動機株式会社 https://www.yamaha-motor.co.jp/mc/yamaha-motor-life/2014/11/post-235.html https://www.yamaha-motor.co.jp/mc/yamaha-motor-life/img/0104img.jpg ピストンの速度v、加速度aはピストンの位置xの微分から得られるわけですから、結局のところ通常のピストン・クランク 機構と異なる往復・回転機構でもピストンの位置xの数式さえ求めればそれを微分して慣性トルクの式はすぐに求まる、 ということになります (めんどくさいのでこのスレではオフセットクランクについては検討しませんが) さて、単気筒エンジンの慣性トルクのグラフを描く前に計算式を再掲しておきます(数式番号を付けています) https://i.imgur.com/SIWQZdD.jpg 式(1-2)を使って連桿比λ=4でグラフを描くと https://i.imgur.com/bCVWJyK.png クランクシャフト1周の360°で十分なのですが、4ストロークエンジンを意識して2周分の720°の範囲まで描いています gnuplotだとこんな感じ set angles degrees set samples 500 set xrange[0:720] set grid set xtics 45 set dummy theta a1(theta)=cos(theta)+cos(2*theta)/(lambda*(1-sin(theta)**2/lambda**2)**(1/2.))+sin(2*theta)**2/(4.*lambda**3*(1-sin(theta)**2/lambda**2)**(3/2.)) v1(theta)=sin(theta)+sin(2*theta)/(2.*lambda*(1-sin(theta)**2/lambda**2)**(1/2.)) Ti1(theta)=-a1(theta)*v1(theta) lambda=4 plot Ti1(theta) # (改行記号のためのダミーコメント行) ついでに連桿比を変化させたものも描きます https://i.imgur.com/YuWepV6.png (gnuplot省略) 亘理先生の「繊維機械のための機構学 (6) 」には慣性トルクを級数に展開した係数も載っていて https://i.imgur.com/y53fhJf.jpg これを用いると(ちょっと読み変えが難しいのですが)慣性トルクは以下のように次数成分に分解することができます https://i.imgur.com/AajsNZZ.jpg 1次(sinθ)〜7次(sin7θ)までの次数成分をグラフにするとこんな感じ https://i.imgur.com/1uVnDAJ.png gnuplotのサンプル set angles degrees set samples 500 set xrange[0:720] set grid set xtics 45 set dummy theta lambda=4 plot (1/(4.*lambda)+1/(16.*lambda**3)+15/(512.*lambda**5))*sin(theta) title "1st" replot (-1/2.-1/(32.*lambda**4))*sin(2*theta) title "2nd" replot (-3/(4.*lambda)-9/(32.*lambda**3)-81/(512.*lambda**5))*sin(3*theta) title "3rd" replot (-1/(4.*lambda**2)-1/(8.*lambda**4))*sin(4*theta) title "4th" replot (5/(32.*lambda**3)+75/(512.*lambda**5))*sin(5*theta) title "5th" replot 3/(32.*lambda**4)*sin(6*theta) title "6th" replot -21/(512.*lambda**5)*sin(7*theta) title "7th" # (改行記号のためのダミーコメント行) ここで最も係数の大きい2次(sin2θ)の成分の変動幅を100%とすると、連桿比λ=4の場合各次数成分の変動幅は 1次: 12.7 % 2次: 100 % 3次: 38.4 % 4次: 3.2 % 5次: 0.52 % 6次: 0.07 % 7次: 0.008 % となります このように5次以降の成分は全く問題にならないほど小さいので無視し、またλの-3乗より小さい係数も無視するものとすると 式(1-4)の色をつけた項目だけが残り>>51 の式(1-3)のような扱いやすい程度の項数の数式になります Excelなどでちょっとした検討をする場合にはこれで十分ですね 4輪分野の技術者はここからさらにsin4θの項目も省略することがあるようですし実際それで特に問題もないのですが、ヤマハ のクロスプレーンエンジンの説明資料には明らかにsin4θの項目(720°区間で8つの山と谷)が見て取れますから、やはりここは sin4θは残しておいた方が気分的に良いかと思います 2009年型スーパースポーツ YZF-R1 https://global.yamaha-motor.com/jp/design_technology/technical/product/pdf/browse/45ss01.pdf https://i.imgur.com/YpseYtX.jpg (今日はここまで) >>53 2次成分は上下死点とその90°ではピストンスピードが違うから慣性トルクに影響するって分かるんだけど3次の成分は何に依存してるんだろう >>55 例えば連桿比λが無限大の場合、あるいはスコッチ・ヨーク機構の場合はx、v、aが単純なサインカーブですから https://i.imgur.com/w4irb4C.jpg この場合慣性トルクTiを計算すると単純な2次のサインカーブになります https://i.imgur.com/Ye13b8v.jpg ところが実際のピストン・クランク機構ではコンロッド長が有限であるためサインカーブからズレた2次以降の項目を持ちます https://i.imgur.com/a6FYw01.jpg この2次までのv、aの近似式から慣性トルクTiを計算すると https://i.imgur.com/uGKxpG3.jpg 最後の行の4つの項をA〜D項としてMaximaで三角関数を整理すると(Maximaはこういった三角関数の操作に向いています) https://i.imgur.com/8e8d7DS.jpg 三角関数が整理された結果のBxとCxの欄にsin3θ、sinθが登場してきます ピストン・クランク機構の計算結果に3次のような奇数次の成分が出てきてしかもそれがかなり大きい、というのは確かに 直感的に理解しづらいかもしれませんが、実際計算して出てくるんだから数式を信じるよりありません ちなみにこの計算結果は>>51 の近似式(1-3)とちゃんと一致します では慣性トルクのグラフをもう少し細かく見てみましょう https://i.imgur.com/aBCx14g.png 慣性トルクの式はピストンの加速度aと速度vを掛けた形をしていますから、慣性トルクが0となるのは速度が0となる 上死点(θ=0°)と下死点(θ=180°)の2箇所と>>36 で述べた加速度が0となる2箇所(連桿比λ=4の場合θ=76.7° とθ=283.3°)の合計4箇所です ここで4つの区間に区切ってそれぞれの区間でコンロッドに働いている力が引っ張りの力なのか圧縮の力なのかを 考えると、 区間1: 0°<θ<76.7°慣性トルク:マイナス https://i.imgur.com/ohJFpAd.png 自らの慣性で反時計回りに回り続けたいクランクシャフトにコンロッドを通してピストンという邪魔者がくっついて いるわけで、この区間ではピストンが下方に加速しているのでコンロッドには引っ張りの力が働きクランクピンには クランクの回転方向に反する力が働くため慣性トルクはマイナスとなります 区間2: 76.7°<θ<180°慣性トルク:プラス https://i.imgur.com/8wefi4A.png ピストンの速度が最大値となる角度を越えて今度は下死点に向かって減速していきますから、コンロッドに働く力 は圧縮力でクランクの回転を助ける方向の力がクランクピンにかかります 区間3: 180°<θ<283.3°慣性トルク:マイナス https://i.imgur.com/DqbelDn.png 今度はピストンは下死点から上方に向かって加速しますから、コンロッドに働く力は圧縮力でクランクピンにはまた クランクの回転を邪魔する力が働くことになります 区間4: 283.3°<θ<360=糾オ性トルク:ャvラス https://i.imgur.com/y18H6VS.png またピストンの最大速度の角度を越えると上死点に向けて減速状態となり、コンロッドには張力が働きクランクの回転を 助ける力がクランクピンになります ピストンが自分の慣性でクランクピンを引っ張り上げる感じですね なんとなく無駄にアニメーションGIFも作ってみました https://i.imgur.com/VxdneXT.gif >>57 最後の区間4のとこの文章が変でした × 助ける力がクランクピンになります ○ 助ける力がクランクピンにかかります さて、ここまでずっと連桿比λ=4でグラフを描いてきましたがMotoGPのエンジンを主に想定した場合これが妥当な 値かどうかを考えてみます ヤマハのクロスプレーン直4エンジンに関しては、様々なところで 「クロスプレーンクランクで取り切れない慣性トルクは3%ほど」あるいは「3%以下」 と説明されています 例えば以下のJulian Ryder氏の記事では https://www.superbikeplanet.com/julian-ryder-explains-big-bang-by-the-numbers-cross-plane-crankshaft-engine/ "The mathematics say that inertia torque is reduced to almost zero before 10,000rpm and?crucially?to only about 3% of the 180-crank’s value at 15,000rpm." とあります この「クロスプレーンクランクで取り切れない慣性トルクは」慣性トルクの4次の成分のことで、>>54 のλ=4での計算の「4次: 3.2 % 」 に相当します これが3%ちょうどになるときの連桿比λを求めると4.14ですから、「3%以下」であればだいたい4より少し大きい程度であることが予想されます また連桿比λ=5の場合は4次成分の大きさは2.0%になりますから、「4から5のどっちかといえばたぶん4に近い」感じです 他のメーカーの場合も見てみましょう 以下のKevin Cameron氏の記事では https://www.cycleworld.com/2013/08/01/technical-analysis-90-degree-v-four-engine-motogp-racing-technology/ ホンダ90度V4の特許図面から"this engine has a 1.8 ratio"とコンロッド/ストローク比を1.8としており、これは連桿比でいえば3.6です おそらくこの特許は後に市販されたRC213V-Sのものかと思いますが、たぶん実際のMotoGPエンジンもそう変わらないでしょう 連桿比3.6となると最近のレース用エンジンとしてはちょっと短めに感じられますが、90度V型4気筒ではヘッドの高さが 前方向にも後ろ方向にも影響する、つまりエンジン全長に大きく影響することを考えるとありえない数値ではないと思います (リアバンク側はV4エンジンでは非常にレイアウトが込み入っており、特にMotoGPでは燃料タンクの位置とも重なりますし) というわけで私自身は連桿比λ=4はMotoGPをイメージした検討の場合にまあまま妥当な数値であろう、と考えています (ついでに言えば>>53 の式(1-4)の係数は全て分母が2の累乗なので暗算による比較が非常に楽になる、というのもあります) 今日はここまで 次は排気量の違うエンジンで慣性トルクがどうなるかを検討したあと、実際に様々な気筒数・気筒配置のエンジンの慣性トルク を比較していきます 排気量と慣性トルクの関係について考えます 慣性トルクがエンジン回転数の2乗に比例すること、一般に排気量が小さいエンジンでは 最高回転数が高いことを考えると一見小排気量エンジンでは慣性トルクが大きくなりそうに 思えますが、実際には慣性トルクの係数は m:往復質量 r^2:クランク腕長さの2乗 ω^2:回転角速度の2乗 ですから、ピストンが小さくなり往復質量mが小さくなること、ストロークが小さくなりrが 小さくなることを考慮しなければいけません ここでボア・ストローク比が等しく全体が相似的で排気量が異なるエンジンを考えた場合、 ・ボアとストロークはどちらも排気量の1/3乗に比例する→rは排気量の1/3乗に比例する ・ピストン質量mはボアの3乗に比例する→ピストン質量mは排気量に単純比例する ・限界平均ピストン速度は変わらない→限界回転数は排気量の-1/3乗に比例する となり、これらを総合すると結局慣性トルクは排気量に単純比例することになります ここで燃焼トルクもまた排気量に比例するわけですが、トルクが駆動する対象であるバイクの 車両重量やライダーの体重は排気量に単純比例しません (例えば250ccの直列4気筒のバイクの車重とライダーの体重は1000ccの1/4にはなってくれません) というわけで個人的には排気量の小さいバイクほど慣性トルクによる悪影響は相対的に小さくなる であろうと思っています このあたりのエンジンのスケールに対する相似則については 「自動車用ガソリンエンジンの設計」pp.12-15 石川義和 著 グランプリ出版 (2015) https://grandprix-book.jp/2015/11/17/post_128/ JFRMC(日本のファクトリーレーシングモーターサイクル) 「排気量と回転数」 http://jfrmc.ganriki.net/zatu/revolution.htm あたりを読んでみてください さて、二輪エンジンについて考える前に四輪の主なエンジン形式の慣性トルクをみてみましょう https://i.imgur.com/HDktkhx.png 近年の市販四輪エンジンの場合1.5Lクラス以上では単気筒あたりの排気量が概ね500cc前後のまま気筒数 が増えていくことが多いので、図は全て単気筒あたりの排気量は同じ、エンジン回転数も同じとして 描いています グラフ上にも記しましたが、もっとも変動幅の大きい2リッター4気筒の変動幅を100%とすると 1.5L 3気筒:28.8% 2L 4気筒(直列、水平対向):100% 2.5L 直列5気筒:0.65% 3L 6気筒(直列、V型、水平対向):57.6% 4L V型8気筒(バンク角90度のフラットプレーン、クロスプレーン):6.4% 5L V型10気筒(バンク角90度):0.91% 6L V型12気筒(バンク角60度、180度):0.2% V型6気筒には様々なバンク角とクランクオフセットのパターンがありますが、市販車の場合大概は 点火間隔が等間隔で720/6=120度間隔なのでそれで描いています (慣性トルクには「点火間隔が同じエンジンであれば慣性トルクのグラフも同じである」という性質があります) V型10気筒はエンジン全体で等間隔点火であれば72度バンクですがF1のV10時代の最後はほとんどの メーカーが90度バンクに落ち着いたのでそちらで描いてみました (72度バンクの場合には直列5気筒の0.65%の2倍で1.3%となります) これらのグラフは単気筒の慣性トルクの各次数の成分が打ち消されたり重ね合わせになった結果ですが、 実際の構成成分で見ると 1.5L 3気筒:3次,6次,9次,…の成分の3倍の重ね合わせ 2L 4気筒(直列、水平対向):2次,4次,6次,8次,…の成分の4倍の重ね合わせ 2.5L 直列5気筒:5次,10次,…の成分の5倍の重ね合わせ 3L 6気筒(直列、V型、水平対向):3次,6次,9次,…の成分の6倍の重ね合わせ 4L V型8気筒(バンク角90度のフラットプレーン、クロスプレーン):4次,8次,…の成分の8倍の重ね合わせ 5L V型10気筒(バンク角90度):直列5気筒の√2倍 6L V型12気筒(バンク角60度、180度):6次,12次,…の成分の12倍の重ね合わせ というわけで単気筒エンジンの慣性トルクの主成分である2次成分が重ね合わせになる4気筒と、2番めに 大きい成分である3次成分が重ね合わせになる3気筒、6気筒では慣性トルクの変動が大きいことがわかります (けっこう計算とお絵かきで疲れたので今日はここまでにします) >>68 1.5次というのは4ストロークでクランク2周に対し3回点火→3/2=1.5次というイメージかと思うんですが、 そもそも慣性トルクは4ストローク、2ストローク、6ストロークといったサイクルに関係せずピストンが 上死点にいつ来るか、だけに依存しますよね (そういった意味では本当は2ストロークエンジンで考えるのが一番まぎわらしくない) あなたの言う1.5次というのが別の意味であるならごめんなさい さて、四輪エンジンの話をもうすこし続けると>>64-65 に示すように90度V8、V10(角度問わず)、60度V12・180度V12といった 伝統的に自然吸気時代のF1で用いられてきたエンジン形式は極端に慣性トルクの変動が低いわけで、MotoGPで慣性トルク 云々と言ってるのに四輪レースでは全然話題にならないというのも納得できる気がします このあたり、>>2 に示した古澤氏の資料での https://www.academia.edu/37694748/08JSAE_CROSSPLANE.pdf (↑URLはpdfですが実際にはWebページなのでスマホ専ブラで開けない場合は別途Webブラウザを立ち上げてURLを貼り付けてください) "最大の推進力を得るためにはタイヤを出来る限りスリップさせないように、むしろ回転数変動の少ない多気筒の等間隔爆発エンジンに する方が有利とさえ考えている。" という文章の「回転数変動の少ない多気筒の等間隔爆発エンジン」というのはV8、V10、V12エンジンを指すと考えれば良いわけですね このようにして見ていくとV12エンジンというのは A:片バンクあたり等間隔点火であり適切に排気集合することにより最高出力が稼げる B;(レース用エンジンではさほど重要ではないけど)エンジン全体で見ても等間隔点火である C:1次、2次の慣性力がバランスし振動対策のバランスシャフトが必要ない (どのみちレーシングエンジンでは普通2次振動は特に対処しませんが) D:慣性トルクの変動が極小である と力学的に完璧なエンジンなわけですが、このV12から気筒数が減るにつれてこれらの要素のどれかで妥協しなければ ならなくなってきます バイクの場合実用的な気筒数としては最大6気筒、実際にはほぼ4気筒以下なわけですからどれかの要素を優先し 他の要素は妥協しなければいけない、その場合にDの慣性トルクの変動を最優先したのが古澤氏のクロスプレーン エンジンであると言えるでしょう さて、じゃあV8以上の多気筒ではない4気筒や6気筒の市販四輪車はどうか?となりますがぶっちゃけまあ市販四輪車 なんてのはバイクに比べればアホみたいに車重が重いですし、タイヤ2本の不安定な乗り物でもないせいか 古澤氏が言うような意味での操縦者の感覚に影響するノイズとしての慣性トルクはあまり議論されていません ただ、クランクシャフトの慣性トルクが変動するということはその反作用としてエンジンが揺さぶられるローリングモーメント が生じるということでこれはエンジンマウントを通して乗員に振動や騒音として伝わります 直列4気筒エンジンでこのローリングモーメントに対処したのが有名な三菱自動車の「サイレントシャフト」で、4気筒エンジン の2次慣性力を打ち消すランチェスターバランサー(反転2軸2次バランサー)の位置を上下にズラして配置したものですね これに関しては以下の書籍で詳しく解説されています 「自動車用ガソリンエンジンの設計」pp.48-52 石川義和 著 グランプリ出版 (2015) https://grandprix-book.jp/2015/11/17/post_128/ ちなみに三菱の「サイレントシャフト」は4気筒用以前の2気筒の時代から用いられていた名称で、両者は原理的に全く 違うものですから注意が必要です https://i.imgur.com/a6Twlyd.jpg ↑こんな感じの360度クランク2気筒+2軸1次バランサーですから2輪でいえばホンダ・ホークシリーズと同じ、というより 左右の気筒をくっつければ分かるように単気筒エンジンの2軸1次バランサーと同じものです ・単気筒エンジンの2軸1次バランサーの考え方 https://www.honda.co.jp/factbook/motor/CB250RS/19800300/008.html さて、元のMotoGPスレで頂いた質問ですが https://egg.5ch.net/test/read.cgi/bike/1625289220/429 > 直5って4輪でも少数派で不自然な構成かと思っていたが慣性トルクの変動がほとんど無いのな > カワサキの松田氏が直5をやりたがっていたのと何か関係ありそう 三栄ムックRACERS vol.57 p.85に載ってる話ですよね "直5は72度クランクで爆発間隔は144度毎(#1-#3-#5-#4-#2)のスクリーマーなのに、慣性トルクはゼロにできる" とありますからまあそういった狙いだったのだと思います 実際レースで走ってみて欲しかったところですが実現しなかったのは残念です > 直6って完全バランスとか言うけど慣性トルク的にはどうなの? モーターファン・イラストレーテッド誌 vol.155の連載「自動車設計者×福野礼一郎 クルマの教室 第30回」でも 匿名のメーカー技術者C氏が「直6というのは皆が思っているほどスムーズじゃない」と述べてますね https://i.imgur.com/sicmY5y.jpg (今日はたくさん文章を書いて疲れたのでここまで) (次はようやく二輪エンジンの話です) >>73 丁寧な回答感謝。正直数式はちんぷんかんぷんだけど、 直線運動を回転運動に変換するのって奥が深のは分かった気がする。 直列5気筒ってバイク用にはかなりの可能性を秘めたエンジンなのかも。 現状走らせられるカテゴリーが無いから市販化も難しいのかもしれないし、 内燃機関の将来すら危ういから日の目を見ないのかもしれないのが残念。 慣性トルクだけで評価すると4気筒で一番ポピュラーなはずの180度クランクって実はバイク用としては最悪の選択に思えるけど、SBKならまだまだ勝てているし、15,000rpm以上を常用するMotoGPマシンでもなければそこまでデメリットは大きくないのか。 >>75 > 直線運動を回転運動に変換するのって奥が深のは分かった気がする。 往復運動と回転運動を組み合わせた機構って一見シンプルだけど実はかなりややこしい、ということ を感じ取っていただけたなら凄くうれしいです > 内燃機関の将来すら危ういから日の目を見ないのかもしれないのが残念。 MotoGPのエンジン仕様も90度バンク非スクリーマーV4かクロスプレーン直4かに収束しましたから これから先びっくりするような面白いものは見られなさそうで残念ですねえ > SBKならまだまだ勝てているし、 個人的な意見としては、現在のSBKエンジンの諸元はほぼMotoGP初期(クロスプレーン直4が登場した 2004年頃)と同等のはずだけど最低車重が168kgらしいので仮にこれが当時のMotoGPの最低車重145kgに 近ければもっとクロスプレーンの優位性が出てくるのかも、と思っています (そんなレギュレーションにはならないしそこまで軽くするのも無理でしょうけど) まあでも最終的にはリザルトを左右する最大の要素はライダーですしやっぱジョナサン・レイは 素晴らしいライダーですよね さて、二輪エンジンの2気筒から考えていきます 主な2気筒エンジンの慣性トルクのグラフを描くとこのようになります(グラフには書き忘れましたが連桿比λ=4です) https://i.imgur.com/QoEFGwv.png ここで180度クランク並列2気筒を100%とすると慣性トルクの変動幅は 360度クランク並列2気筒 = 水平対向2気筒:126% 180度クランク並列2気筒 = 100% 270度クランク並列2気筒 = バンク角90度V型2気筒:34% ほどです 270度クランク並列2気筒やV型2気筒では上死点が90度ずれることで慣性トルクの主成分である2次成分が 打ち消されるわけですね ヤマハTRX850が世に出た当時、「プアマンズ・ドゥカティ」などと揶揄されたようですがスタイリングが(安っぽいけど) ドゥカティ風であるだけでなくエンジンの点火間隔、慣性トルクも含めてまさしくドゥカティの90度V型2気筒を模した ものであったことがわかります ここで、慣性トルクが打ち消されるということはクランクシャフトにはその分の負荷がかかるということを 記しておいたほうが良いでしょう 270度クランクの場合、2つのクランクピンがこじ開けられたり逆に閉じられたりするような力が周期的にかかる、 つまりねじり振動が生じるわけです 2気筒ではクランクシャフトの長さ自体が短いのでさほど問題にならなさそうですが、ヤマハの資料を読むと クロスプレーン直4ではこのねじり振動対策にかなり気を使っています (クランクシャフトからの出力取り出しギヤを中央に配置する、外側のクランクウェブの慣性モーメントを小さくするなど) その点V型エンジンでは2つの気筒で共有するクランクピンのせん断力に対処するだけなので設計的には楽だろう とは思うのですが、私は別にエンジン設計者でもなんでもないので実際のところはわかりません ところで変わり種並列2気筒としてBMW F800系(2006年〜 エンジン製造はオーストリアのロータックス)や ヤマハのビッグスクーターTMAXなど対向式往復バランサーを備えたものがあります https://i.imgur.com/JjSFUFv.jpg https://i.imgur.com/Kblgamp.jpg この場合対向するダミーピストンが2気筒分の往復質量相当であるとすると4気筒分の上死点が重なり、先の 図の紫の線の2倍、270度クランクの慣性トルク変動に対しては実に126*2/34=7.4倍ほどの変動となります BMWがこれを問題としたのかどうかはわかりませんが、後継のF850系(2018年〜)ではヤマハ同様の270度 クランク並列2気筒となっています https://i.imgur.com/FgXmu5g.jpg TMAXに関しては一般のスポーツバイクと異なるスクータースタイルであるためさほど問題ではないの かもしれませんが、「クロスプレーンコンセプト」を全面に打ち出しているヤマハとしてふさわしい エンジンかというと疑問な気もします (ちなみにTMAXに近いカテゴリーであるBMW C600や台湾のKYMCO AK550などは270度クランク並列2気筒です) ちなみにかつてのドゥカティSupermonoも往復式バランサーですがこれは90度V型2気筒の片バンク分を そのままバランサーとしたようなものですからこのような問題は生じません (ちょっと前にスズキの特許図で同様のバランサーを備えた単気筒エンジンが描かれており話題になりました) あ、忘れてました ハーレーが最近発表したパンアメリカ1250やスポーツスターSに搭載されているRevolution Max 1250という最新 水冷V型エンジンがあるのですが、これはバンク角は60度なのですがクランクピンが30度オフセットで点火間隔は 90度バンクのV型2気筒と同じであるとのことです https://young-machine.com/2021/03/15/175972/ ですから、もはや世界中のほとんどのバイクメーカーは大排気量2気筒エンジンにおいて90度V型や270度クランク 並列2気筒と同様の「2次の慣性トルクが打ち消される」レイアウトが良い、と判断しているのかもしれません (長い伝統のBMW水平対向エンジンや空冷アメリカンクルーザーは別として) 以上 >>83 慣性力の偶力どうこうなんてのは慣性トルクに一切関係無いんですが さて昨日の往復バランサーの話でちょっと訂正 BMW F800についてダミーピストンのクランクピンは当然本当のピストンのクランクピンの180度反対側 に位置していると思っていたのですが、図をよく見るとどうもオフセットされているようです Googleで画像を探してみたところこんな感じですね https://i.imgur.com/xqbAN1B.jpg https://i.imgur.com/WwWx0pQ.gif 図や写真からでは角度がよくわからないので、オフセット角45度と30度の場合の2パターンの慣性トルクを計算してみました (ダミーピストンのリンク機構は無視し単純な往復運動とし、ダミーピストン側の連桿比もλ=4とする) https://i.imgur.com/0rx1iOj.png グラフからわかるように昨日の「通常の360度クランクの倍の慣性トルクが生じる」という結論ほどひどくはないのですが どのみち360度クランクや180度クランクよりも大きな慣性トルクであることには変わりはなさそうです このようなクランクピン配置ではバランサーの目的である慣性力の打ち消しは完全ではなくなるわけですが、あえて このような設計とした理由は一生懸命考察してもあまり意味がなさそうなのでやめておきます (このエンジン形式で新規エンジンを開発するメーカーが今後現れることはないだろう、と思っているので) 先に四輪エンジンについて考えた時は「単気筒あたりの排気量は固定で気筒数を変える」という考えでいきましたが、 今度は「エンジンの総排気量は固定」としていくつかのエンジン型式を考えてみましょう (これはx軸を角度θとしたプロットで、時間tのプロットであれば回転数が異なる分スケールが変わることに注意) https://i.imgur.com/uCTozKU.png ここで慣性トルクの変動の割合は シングルプレーン直4:100% 270度クランク並列2気筒:34% 直列3気筒:38% クロスプレーン直4:3% ほどです 270度クランク並列2気筒から1気筒増えて3気筒になっても、2番目に大きな成分の3次成分が重ね合わせになるため 慣性トルクは逆に少し大きい程度になるわけですね 単気筒あたりの燃焼トルクは小さくなるわけですから、シグナル/ノイズ比という意味では悪化している、ともいえます もちろん3気筒は回転数上昇の分出力が稼げますし、燃焼トルクが支配的な低回転域では等間隔点火でスムーズに 回るという面があるのでどちらが良いとか悪いとかいった話ではありませんが まあそれでもシングルプレーン直4に比べれば3気筒の慣性トルクはかなり小さくなっていますから、Moto2エンジンが トライアンフの3気筒になったことはMotoGPへのステップアップということを考えると妥当な判断であったと思います ところでそのトライアンフは近年「T-Plane」クランクという変わり種の3気筒エンジンを開発しましたが、個人的にはこれに ついてはあまり理論的に作られたものはない、思いつき程度のものだと思っています https://young-machine.com/2020/02/19/75327/ https://young-machine.com/main/wp-content/uploads/2020/02/triumph-tiger800-tiger900-crank-768x512.jpg https://young-machine.com/main/wp-content/uploads/2020/02/triumph-tiger900-T-plane_003-768x266.jpg 謳い文句の不等間隔点火うんぬんという話は古澤氏が懐疑的であるとしてきたことですし、なによりこの形式では1次の 慣性力がバランスしない、つまり振動が大きいはずです 実際、海外でのトライアンフTiger900のレビューでは振動を気に入らない、これならTiger800のほうが良かったとしている ものがかなりあります (まあそんなに気にならないよ、としている人もけっこういますが) また排気集合が等間隔とならないことも考えると、この形式のクランクがMoto2に導入される可能性は低いであろう、 というのが私個人の感想です (T-PlaneについてはMotoGPの4気筒の話が終わってからまたグラフ等を示します) (今日はここまでで次からはようやくMotoGPの4気筒ですが、概ね元のMotoGPスレで語ったことそのままになります) さてMotoGPの初期、990cc時代の主なエンジンの慣性トルクを比較していきますが、まず元のMotoGPスレの以下 の投稿で描いたRC211VのV型5気筒のグラフが正しく描けていませんでした https://egg.5ch.net/test/read.cgi/bike/1625289220/422 (gnuplotのコマンドでミスをしてたのです、ごめんなさい) で、描き直してみたのがこちらです https://i.imgur.com/3FSZPKY.png これが正しいかどうか、ホンダV型5気筒の気筒配置の考案者である山下ノボル氏が書かれた資料と比較してみましょう レースバイクの速さ「エンジン爆発間隔の不思議」山下ノボル https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsmemag/109/1054/109_KJ00004374770/_article/-char/ja/ https://i.imgur.com/GejJApE.jpg 山下氏の図5は慣性トルクと燃焼圧トルクの両方を足し合わせたものですが、400度〜540度の区間にある1つの山 と1つの谷は燃焼圧トルクの影響を受けていなさそうですからここで比較することにします 私の描いたグラフでこの山と谷の部分の角度とy軸の値を計算すると、 山:角度 445.8度、y軸の値 0.94 谷:角度 526.8度、y軸の値 -0.79 山下氏のグラフでのシングルプレーン直4のグラフの最大値1000から換算すると 山:y軸の値 0.94*(1000/2)=470 谷:y軸の値 -0.79*(1000/2)=-395 となり山下氏のグラフと概ね一致していますから、たぶん正しく描けているのでしょう ちょっと煩雑で見にくくなりますが、スズキの75度バンク360度クランクV4とヤマハのクロスプレーン直4まで重ねて 描くとこのようになります https://i.imgur.com/pvcZKPK.png 結論としては「ホンダのV型5気筒やスズキの狭角V型4気筒の慣性トルクはそこそこ大きかった」となります gnuplot用のサンプルは以下の通りです (もうミスが無いとよいのですが) set xrange[0:720] set xtics 45 set yrange[-2:2] set mytics 2 set grid set key opaque box set samples 500 set angle degrees set dummy theta v1(theta)=sin(theta)+sin(2*theta)/(2.*lambda*(1-sin(theta)**2/lambda**2)**(1/2.)) a1(theta)=cos(theta)+cos(2*theta)/(lambda*(1-sin(theta)**2/lambda**2)**(1/2.))+sin(2*theta)**2/(4.*lambda**3*(1-sin(theta)**2/lambda**2)**(3/2.)) t1(theta)=-v1(theta)*a1(theta) lambda=4 plot t1(theta)+t1(theta-180)+t1(theta-180-180)+t1(theta-180-180-180) title "KAWASAKI singleplane inline 4" replot t1(theta)+t1(theta-90)+t1(theta-90-270)+t1(theta-90-270-90) title "DUKATI 360 deg crank V4" replot (4/5.)*(t1(theta)+t1(theta-104.5)+t1(theta-104.5-180)+t1(theta-104.5-180-77.5)+t1(theta-104.5-180-77.5-284.5)) title "HONDA RC211V V5" replot t1(theta)+t1(theta-285)+t1(theta-285-75)+t1(theta-285-75-285) title "SUZUKI 75 deg bank 360 deg crank V4" replot t1(theta)+t1(theta-270)+t1(theta-270-180)+t1(theta-270-180-90) title "YAMAHA crossplane inline 4" # (dummy comment) 元のMotoGP用のミスしたグラフはしばらくしたら消しておきます (今日はここまで) >>76 >MotoGPのエンジン仕様も90度バンク非スクリーマーV4かクロスプレーン直4かに収束 これは今のMotoGPがレギュレーションで4気筒以下に縛られているから・・・ せめて5気筒が認められれば・・・ >最低車重145kgに近ければもっとクロスプレーンの優位性が出てくるのかも 回転数ではなくて車重? 高回転になるほど180度クランクのネガが顕著になるのでMotoGPほど高回転を多用しないSBKではまだスクリーマーが通用しているのではと思うのだけど、車重が軽いほどクロスプレーンの優位性が出るとされた理由を教えてくだされ。 車体が重い方が反応がダルで挙動が出にくくなるというのはあると思うけど。 >>91 > 回転数ではなくて車重? まあこれは私個人の考え方なんですが、現在のMotoGPと現在のSBKで比較するとエンジンの諸元も車重も 違うので2つの要素が違うことになってしまい、比較が難しくなる それが例えば以下の記事だとアクラポヴィッチ製のエクゾースト付きのパニガーレV4Rで234PS/15500rpm ですからこれなら990cc最後のシーズンのスズキGSV-R(236PS/16400rpm)とだいたい同じですから、 まだこの990cc時代と比較したほうが良いかな、と https://young-machine.com/2018/11/05/16510/ 理系的な考え方だとパラメーター2つ変わる条件での比較より、1つパラメーターを減らしての比較ができるなら そちらのほうがよいかな、と あと違うジャンルや年代のエンジンだと回転数が上がったからといって単純に慣性トルクがその2乗に比例するわけじゃ ないですよ (バルブ系の制約がないとして)エンジンの回転数の上昇にわかりやすく貢献するのは往復質量の軽量化、つまりピストン とコンロッドの軽量化ですから、現在のMotoGPのエンジンは慣性トルクの係数であるm・r^2・ω^2のうちmがそもそも 他のジャンルや過去のエンジンよりも小さいのです このへんは実際に慣性トルクの式をいじってあれこれ計算してみないと理解しづらいかもしれません > 車重が軽いほどクロスプレーンの優位性が出るとされた理由を教えてくだされ。 トルクが最終的に駆動するのは車体ですから私にとってはそれが当然なんですが F=maのFの元がトルクになっただけで物理の基本でしょ? さて、昨日は990cc時代のエンジンについてグラフを描きましたが、もう少し最近のMotoGPエンジンについて考えてみましょう 慣性トルクのグラフですが、ここから先はV型エンジンは全てバンク角90度という前提で進めます (アプリリアも狭角V型やめちゃったし) https://i.imgur.com/s4t7b31.png この先かなり冗長な説明になり「そんなもんいまさら説明されんでも知っとるわ!」と言いたい方も 多いかと思いますがそこはテキトーに読み飛ばしてください どこから手をつけて良いかわからないくらい考察すべき点があるのですが、まず議論の前提として 排気集合について ・2気筒単位で2-1集合とした場合、点火間隔が360度-360度(360度±0度)に近い →排気干渉を避け、集合部で生じる反射波による掃気効果で最高出力が高められる ・2気筒単位で2-1集合とした場合、点火間隔が180度-540度(360度±180度)に近い →排気干渉のため最高出力が低下する と勝手に決めつけます まず360度クランクV4から考えてみましょう 360度クランクはV型2気筒をそのまま横に2つ並べたものですから、慣性トルクは単純に>>77 のバンク角90度 V型2気筒の慣性トルクの2倍になります 点火角度まで同じV型2気筒を並べると左右同時点火(900cc時代のドゥカティは実際そう)になってしまうので、 片側のV型2気筒の点火角度を360度ずらすことで前バンク・後バンクそれぞれ360度間隔の等間隔点火と なります (4ストロークエンジンというのは任意の気筒の点火角度を360度ずらせるエンジンなのです) 片バンクあたり等間隔点火なので音の周波数が単気筒の倍、といった単純なものではないにしろ排気干渉が生じない ことから排気音が高くなるので、V4エンジンでスクリーマーというのはこの360度クランクのことを指します ちなみに直4エンジンのスクリーマー(シングルプレーンクランク、180度等間隔点火)のようにエンジン全体 で等間隔点火であると勘違いしている方をよく見かけますが、例えば片側のV型2気筒だけ見た場合270度-450度 または90度-630度の間隔でしか点火できませんから180度の整数倍でない間隔を含むことになり、エンジン全体で 180度等間隔点火とならないことがわかります この90度バンクV型4気筒の360度クランクはRC30やRC45といったホンダのレース向けV4で長らく使われてきた 形式で、MotoGPでは2012〜2016シーズンのRC213Vがこれです また、ドゥカティは800cc時代の2007〜2009シーズンがスクリーマーであったとされています RC30の排気管を示すとこんな感じで、前バンク2-1、後バンク2-1で集合し、さらにそれを1つにまとめています https://i.imgur.com/KXR3QPz.jpg RC45時代の最後の頃のレース用排気管は4-2-1集合でなく前バンク2-1、後バンク2-1でその後集合せずマフラー 2本出しだったみたいですが、私は当時レースにあまり興味がなかったのでよくわかりません (まあMotoGPも2015シーズンからしか見ていないのでそれ以前のことはあまりよくわかってませんが) 現在のMotoGPは皆さんもご存知のように前バンク2-1、後バンク2-1集合でそのまま2本出し排気管です ちなみに先に述べた990cc時代のドゥカティの同時点火(ビッグバン)エンジンですが、同時点火では集合効果が 使えませんからそのまま4本の独立排気管になっています(なんかもったいないですね) 次に180度クランクV型4気筒です 伝統的にホンダのレース向けではない市販車(VFR750F、VFR800等)に用いられてきた形式ですね バンク角90度のV型2気筒というのはそれ自体1次の慣性力の釣り合いが取れていてバランサーなしで成立 していますから、横に2つ並べてV4にする場合何度の組み合わせでもかまいません 慣性トルクについて考えると、バンク角90度V型2気筒では2次成分が消えても3次、1次、4次の成分が残って いたのが、180度クランクV4では https://i.imgur.com/C79inMr.jpg と3次、1次の成分が消え4次成分が残ることになり、結果クロスプレーン直列4気筒と全く同じ慣性トルクと なります 実際簡単な図を描いて見ると、どちらのエンジンもクランク90度回転毎にどれかの気筒が上死点になるという 点で全く同じであるとがすぐにわかります (面倒くさいのでここでは省略) さて、ヤマハのクロスプレーン直4がレースで実績を残しているんだからそれと同じ慣性トルクの180度クランク V型4気筒をレースに使ってもよさそうなものですが、排気集合の問題があります まず現在のMotoGPのように片バンク2-1集合とした場合180度クランクでは点火間隔は180度-540度(360度±180度) ですから、排気集合的には最も不利な形であり最高出力の低下が避けられません では他に良い集合方法がないかというと、例えばホンダの市販車180度クランクV4ではこんな感じの排気集合です https://www.boonstraparts.com/en/part/honda-vfr-750-f-1994-1997-vfr750f-rc36-exhaust-header-downpipes-1996/000001059101 https://i.imgur.com/kbQZatI.jpg https://i.imgur.com/GzWvRF4.jpg こうやって前後のバンク毎ではなく前と後の気筒で2-1集合とすればそれぞれの集合では270度-450度(360度±90度) の集合になり180度-540度(360度±180度)の場合よりもマシになります しかし、このような非常に複雑な排気集合ではスペースを取りますし、排気集合までの長さや合流角度など設計上の制約が 多くなるでしょう このあたりBikers Station誌 2018年10月号「ホンダが目指した2輪車に最適なV型4気筒」でホンダOBの小澤源男氏は 以下のように説明しています "小澤:(略)180度クランクのV4を作ってみたら、360度より滑らかに回ることに気づかされた(略)" "小澤:(略)180度のほうがスムーズに回って高回転域の伸びも少し良かった" "B/S編集部:(略)ならばなぜ、全部のV4を180度クランクにしなかったんですか" "小澤:それは排気系をどう配置するかと関係あるんだ。360度クランクの場合は、前2気筒のエキパイを集合させて、 それをさらに1本にまとめるやり方ができるのに対して、180度クランクだと、前後の1気筒ずつを集合させたほうが いいことがある。でも、これをするにはスペースを含めて大変なことが多い" ※ここで小澤氏は180度クランクのほうがスムーズな理由として1960年代のCB72やCB77(並列2気筒で360度クランクと 180度クランクの両方がラインナップされていた)を引き合いに出していますが、これらはどちらもバランサー無し のエンジンで1次振動の関係で180度クランクのほうがスムーズだったわけですから、最初から1次振動が問題と ならない90度V型エンジンに関する説明になっていないかと思います ※一応180度クランクV型のほうがメインジャーナルの荷重は低そう、という程度の違いはあるかもしれませんが 計算はしていません まあ以上のようなことを総合すると、2017シーズン以降非スクリーマーに変更されたホンダRC213Vのクランク角は 180度ではないだろう、というのが私の考えです ここでついでにクロスプレーン直4勢の排気集合についても確認しておきましょう 現在のヤマハMotoGP機YZR-M1の排気集合は写真からは少し確認しづらいのですが、ありがたいことに デアゴスティーニから週刊 YAMAHA YZR-M1なるものが出ており、その組立の様子をYouTubeにアップ してくださっている方がたくさんいます https://www.youtube.com/watch?v=PXIoPjMAyLo& ;t=305s https://i.imgur.com/OksCEZW.jpg このように1番気筒と2番気筒で2-1集合、3番気筒と4番気筒で2-1集合でそれらをさらに集合しています ※ちなみにバイクのエンジンの気筒番号は通常車体左側から1番,2番と数えます ヤマハの(たぶんYZF-R1の)クロスプレーン直4の点火間隔は1番-3番-2番-4番で270度-180度-90度-180度と されていますから、図にまとめるとたぶんこんな感じで、集合される2気筒のペアの点火間隔は 270度-450度(360度±90度)となります https://i.imgur.com/8JneTGr.png (YZR-M1ではクランク回転方法が逆なので気筒番号とか違うかもしれませんが基本は同じです) (以前R1とM1の両方ちゃんと調べたはずなんですがメモとか探すのめんどくさいので…) スズキGSX-RRはクランクピンの配置を公表していませんが、排気集合は明らかにヤマハと同様の 1番気筒と2番気筒、3番気筒と4番気筒の集合ですから普通に考えればクランクピン配置もヤマハと 同じでしょう https://young-machine.com/2020/03/01/78655/ https://young-machine.com/main/wp-content/uploads/2020/02/suzuki-gsxrr-motogp-18.jpg 次はドゥカティの70度クランクV4の話です ドゥカティのMotoGP機についてはこれまで特にクランク角は明言されていませんが、市販車で2006年発表のデスモセディチRR と2017年発表のパニガーレV4が70度クランクを採用しています さてドゥカティが公表しているパニガーレV4の点火間隔は以下の通りです (一般的な気筒間の角度表記ではなく、1番気筒を起点としての回転角表記) https://i.imgur.com/d7IL1FO.jpg 見ての通り4ストロークの720度の1サイクルのうち380度で4つの気筒の点火が終わるという変わった点火パターンで、一般には 古くからのビッグバン理論に基づいてタイヤのスリップ・回復によるトラクション云々といった説明がされていますが、果たして それが本当の狙いなのか?というのがこのスレでのお題です まずこのエンジンの集合は前バンク2-1、後バンク2-1ですが、前バンクの点火間隔は290度-430度(360度±70度)、後バンクも 380-90=290ですから前バンクと同じ290度-430度(360度±70度)の点火間隔です よって排気干渉が最も大きい180度-540度(360度±180度)からは十分遠いと言えるでしょう 一応点火パターン図も描いてみました https://i.imgur.com/gnXmc8Q.png (今日はここまでです) 等爆、不等爆って言ったほういいんじゃね? スクリーマー、ビッグバンって2ストNSR時代には言われていたが 4ストではあまり聞いたことない ちなみに不等爆は回転上昇時のトラクションに優位性があるとされてるが クロスプレーンはこれを狙ってるモノじゃないからね 滑らか回転実現が目的で、不等爆は結果的にそうなっただけ >>99 後半はそれを言うためにスレ主がこのスレ立てたんやで >>98 の点火パターン図には吸気バルブ(水色)と排気バルブ(赤色)の開区間も示しています (テキトーなレーシングエンジンから引っ張ってきたものなのでMotoGPエンジンとして妥当かどうかはわかりません) 集合したペアの気筒でそれぞれ排気バルブの開区間が重なっていないことを確認してみてください (私がなにか勘違いしていて作図が致命的に間違っているかもしれないので注意してください) さてデスモセディチRRとパニガーレV4が70度クランクなのは確かとして、ドゥカティのMotoGP機についても クランク角を推測してみましょう 2019年頃ドゥカティは「Ducati Memorabilia」という企画で過去のMotoGPエンジンのパーツを一般に販売 しました https://www.ducati.com/jp/ja/home/memorabilia クランクシャフトの写真もあるのですが、これではオフセット角が何度なのかはっきりしません https://i.imgur.com/Nlngjwh.jpg (ちなみにこれはGP14かGP15あたりのクランクシャフトと思われます) そこでカムシャフトの画像にCADで線を引き、角度を計ってみました https://i.imgur.com/uQ9Zto2.jpg 図の角度が37.4度ということはカムシャフト作動の位相差は180-37.4=142.6度、カムシャフトはクランクシャフトの 1/2の速度で回転していますからクランクシャフトでの角度に直すと142.6×2=285.2度相当となります。 つまり点火間隔は285.2度-434.8度(360度±74.8度)で、クランクピンのオフセットは74.8度ということになります (まあ最初から37.4度を単に2倍すればよかったのですけど) 私が引いた線の誤差とカメラのレンズ収差による誤差もありそうなので結局のところドカティのMotoGP機の クランク角は70度とみて問題なさそうです >>99 > 等爆、不等爆って言ったほういいんじゃね? 二輪業界の人はよく「爆」という言葉を使いたがるんですが、燃焼の専門家によると 日本マイクログラビティ応用学会誌 Vol. 29 No. 1 2012 「微小重力実験による燃焼の限界に関する研究」丸田 他 http://www.jasma.info/journal/archives/report/%e5%be%ae%e5%b0%8f%e9%87%8d%e5%8a%9b%e5%ae%9f%e9%a8%93%e3%81%ab%e3%82%88%e3%82%8b%e7%87%83%e7%84%bc%e3%81%ae%e9%99%90%e7%95%8c%e3%81%ab%e9%96%a2%e3%81%99%e3%82%8b%e7%a0%94%e7%a9%b6 "閉空間における燃焼(火炎伝播)に伴って,圧力の上昇(や場合によっては衝撃波の発生)による建造物の破壊や 大きな音を伴った場合を「爆発」と総称する. 一方,着火して火炎が生じこれが伝播性を有する火炎となる燃焼現象は,あくまでも「燃焼」であってこれを爆発と呼ぶ のは誤りである. 例えば自動車に使用されているガソリンエンジンのシリンダ内で起きている現象は火炎の伝播,すなわち燃焼であり, これに伴う温度・圧力の上昇を利用してはいるものの,これを爆発というのもやはり誤りである." としておりエンジンの燃焼についいて「爆発」というのは不適切です 四輪業界ではこの知識はかなり前から浸透していてモーターファン・イラストレーテッド誌のような自動車機械 オタク向け雑誌では必ず「燃焼」であり「爆発」という言葉を使うことはまずありません (たまに変なゲストライターとかが書く場合を除き) 二輪業界では古澤氏や山下ノボル氏のような偉いエンジニアまで爆発という言葉を使いますが、まあ慣習というか ジャーナリストやファンがその表現を使い続けてるのでなんとなく合わせてる程度のものでしょう 私は四輪エンジンのことを調べていた時期のほうが長いのでこのスレでは「等爆」などといった言葉を使うことは ありません(燃焼のきっかけとなる点火で考えて「等間隔点火」「不等間隔点火」です) まあ二輪だと2ストエンジンがあるのでなんとなく排気音から爆発してるようなイメージがあったのかもしれませんし、 そこに「ビッグバン」なんてさらに爆発のイメージの言葉が来てしまって「爆」の字を使ってしまったのはなんとなく わからないでもないです > スクリーマー、ビッグバンって2ストNSR時代には言われていたが 海外のジャーナリストは今でも頻繁に使いますよ (私は日本語記事よりも英語記事を読むほうが多いのです) ただ古澤氏やホンダの人の定義によると「ビッグバン」は複数気筒の同時点火を指すので、現在のエンジンは全て古澤氏 の言うところの「ロングバン」です シリンダー内での燃焼の良い動画があったので貼っておきます How Engines Work - (See Through Engine in Slow Motion) https://www.youtube.com/watch?v=xflY5uS-nnw& ;t=334s さてドゥカティの70度クランクV型4気筒を含んだグラフを再掲します https://i.imgur.com/s4t7b31.png gnuplotではこんな感じ set angles degrees set samples 500 set xrange[0:720] set grid set xtics 45 set dummy theta a1(theta)=cos(theta)+cos(2*theta)/(lambda*(1-sin(theta)**2/lambda**2)**(1/2.))+sin(2*theta)**2/(4.*lambda**3*(1-sin(theta)**2/lambda**2)**(3/2.)) v1(theta)=sin(theta)+sin(2*theta)/(2.*lambda*(1-sin(theta)**2/lambda**2)**(1/2.)) Ti1(theta)=-a1(theta)*v1(theta) lambda=4 plot Ti1(theta)+Ti1(theta-180)+Ti1(theta-360)+Ti1(theta-540) replot Ti1(theta)+Ti1(theta-90)+Ti1(theta-90-270)+Ti1(theta-90-270-90) replot Ti1(theta)+Ti1(theta-90)+Ti1(theta-290)+Ti1(theta-380) replot Ti1(theta)+Ti1(theta-270)+Ti1(theta-270-180)+Ti1(theta-270-180-90) # (dummy comment) ここまで考察したことをまとめると、70度クランクは 「360度クランクより慣性トルクを小さくでき、180度クランクのような排気系の問題がない」 という特色があるといえるかと思います ここで360度クランク・180度クランク・70度クランク以外で慣性トルクの変動幅はどうなるのか? ということを見てみましょう クランクピンのオフセット角度をβとして0度(360度)から180度まで変化させた場合の慣性トルクの変動幅 をプロットすると以下のようになります https://i.imgur.com/CK1WZ7Z.png 見ての通りβ=60度弱(連桿比λ=4で計算すると約57度)のあたりに慣性トルクが約8%まで小さくなる特徴的な点があります この角度で慣性トルクが小さくなる理由は、90度V型2気筒で残っていた慣性トルクの3次成分が角度60度(π/3 ラジアン) の場合に https://i.imgur.com/3ebvLhs.jpg と打ち消されるからと考えるとわかりやすいでしょう (1次と4次の成分は残るので60度ちょうどからは少しズレるわけです) 逆に角度120度(2π/3 ラジアン)の場合には https://i.imgur.com/kUHMx7L.jpg と足し合わせになるためグラフのβ=120度付近が山となっています というわけでβ=57度の場合のグラフを70度クランクの場合と比べてみましょう https://i.imgur.com/WlgSPie.png 単純に慣性トルクの振幅が小さいほど良い、と仮定すれば57度あるいはキリの良いところで60度にでもしてしまえば 良さそうなものですが(というか私はそう結論付けて1年間ほど放置していたのですが)、実際にはドゥカティは70度の クランク角としています というわけで慣性トルクを積分したエネルギーのやりとりからなんとかその理由をひねり出してみたのですが、とりあえず 今日はここまで ここから先どのように続けるか悩ましい、というか私の説明力では多分なにを言いたいのやら伝わらない 気もしますが続けていきます まずピストンとクランクシャフトだけ、つまりエンジン単体で考えた場合クランクシャフトに慣性トルクが 作用することでクランクシャフトには回転角加速度の変動が生じることになります 実際の走行時にはクラッチが繋がり車体全体で考えるわけですが、クランクシャフトのトルク変動はギヤ 輪列とスプロケットによる減速により後軸でのトルク変動になり、これをリアタイヤ半径で割ることで タイヤ面に働く駆動力の変動となります (バイクの場合チェーンという考えるのがややこしそうなものがありますが理想的な機械要素であるとして無視します) 駆動力Fが変動するということは車体の加速度aが変動するということになり、その結果車体の速度vが変動します 例えば普通のシングルプレーン直列4気筒の場合慣性トルクの変動は2次、つまりクランク1回転に2回の 変動で12000rpmの場合1秒間に12000/60*2=400回も車速が正負にブレるということになり、体感的には 「本当にそんな変動あるんかいな?」と思えますが実際に古澤氏がホイール速度センサーを用いて 周波数解析するとちゃんと2次の速度変動があらわれている、としています https://i.imgur.com/cEWj0Od.jpg 図のオレンジの丸は私が付け加えたものですが、ここは減速時でスロットルを閉じているのに派手に変動が 生じていますからエンジンブレーキでエンジン回転数が上昇していることによるものかと思います このような順序でトルク変動からタイヤ面での駆動力変動を求め、さらに車体の加速度変動を求めて それを積分することで速度変動を求めるという手順があるわけですが、物理の世界では力やトルクで なく運動エネルギーで物事を考えたほうがスッキリする場合も多いのでそちらで考えてみましょう 車体の速度が変動しているということは車体全体の運動エネルギー(前後輪などの回転要素の運動エネルギー 含む)が変動しているということですが、エネルギーの保存則というものがある以上その変動に相当する 他の運動エネルギーの変動源があるはずです で、そのような運動エネルギーの変動源というのはピストン(往復質量)しかありませんから、結局 往復質量の運動エネルギー1/2mv^2だけを見れば車体の速度変動が評価できる、ということになります 一応慣性トルクと運動エネルギーがどう関係するのかも見ておきましょう (ここは読み飛ばして大丈夫です) >>46 に挙げたWikipediaのテンプレートによると、トルク(力のモーメント)をTとすると仕事(エネルギーの変化)Wは https://i.imgur.com/SvDGL2t.jpg ですから、慣性トルクTiをを角度θで積分することで慣性トルクTiによってクランクシャフトになされる仕事が求められます ここで慣性トルクの近似式 https://i.imgur.com/P6a9GcC.jpg の三角関数部分をf(θ)と置くと https://i.imgur.com/s5LNfx1.jpg f(θ)の不定積分F(θ)は https://i.imgur.com/Jp4nKek.jpg よって慣性トルクTiが角度0から角度θまでにクランクシャフトになす仕事は、 https://i.imgur.com/2RVDVcU.jpg …などと式ばかり書いても意味がわからないのでグラフを描くと https://i.imgur.com/eOoqIeI.png となります グラフが0から始まってマイナスになりθ=180度や360度では0に戻るということは、θ=0度を基準とすると慣性トルクが 作用することでクランクシャフト以降から運動エネルギーが奪われ、下死点や上死点でまた戻ってくるということを意味 しています これに対し往復質量の運動エネルギーKrecを計算してみます 往復質量の速度v https://i.imgur.com/5QJj8fw.jpg から往復質量の運動エネルギーKrec=1/2*mv^2を計算すると https://i.imgur.com/AEOeOB5.jpg で、これは先に計算したクランクシャフト以降のエネルギー変化Wに対して符号が反対となった式です グラフに描くと https://i.imgur.com/cOCHalP.png というわけで慣性トルクが働くということは往復質量の運動エネルギーの分クランクシャフト以降の運動エネルギーが 変動するという現象をを微積分を通じて別の形で表現していることになります ちなみに>>112 の三角関数の計算にはMaximaを使っています 興味のある方は以下のコマンドをMaximaのウィンドウに貼り付けShift+Enterキーを押してみてください (今日はここまで) /* Maximaの状態をリセット */ kill(all)$ /* 速度vを入力(係数rw除く) */ v:sin(%theta)+sin(2*%theta)/(2*%lambda); /* 係数mを省略した運動エネルギー1/2*v^2を求め、三角関数を整理 */ trigrat(1/2*v^2); /* 式の展開 */ expand(%); さていろいろゴチャゴチャ書いてきましたが要するに各気筒の往復質量の運動エネルギーを計算して 足し合わせたものを考えればよいわけで、実際グラフに描くとこんな感じになります https://i.imgur.com/L2BZtMq.png シングルプレーン直列4気筒では2気筒が上死点、2気筒が下死点となって運動エネルギーが0になる瞬間が ありますから運動エネルギーの和の変動は大きくなります それに対しクロスプレーン直列4気筒や180度クランクV型4気筒では各気筒が運動エネルギーを補い合い その合計はあまり変動しない、つまりクランクシャフト以降の運動エネルギーもほとんど変化しないことが わかります こういった意味でヤマハのサイトのクロスプレーンの説明にある https://www.yamaha-motor.co.jp/mc/yamaha-motor-life/2011/11/post-76.html > そこで遅いクランク回転をする気筒と、速いクランク回転の気筒を互いに連結するのが「クロスプレーン型クランクシャフト」の仕組みです。 というのはある的を射た良い表現ではあるのですが、 > 減速から増速に移る90°と270°では遅くなります。 のあたりが説明を端折りすぎというか、そもそも理系の人間としてはいちいち文章で説明されるより計算式 を書いておいてくれたほうが助かるのに全く式を示してくれないのが困ったところです (なので自分で調べて計算することになった) ってまあ私はヤマハのバイクを買ったこともないのでヤマハに文句を言う資格も無いのですが >>115 のグラフのgnuplotのサンプルも示しておきます set angles degrees set samples 500 set xrange[0:720] set grid set xtics 45 set dummy theta v1(theta)=sin(theta)+sin(2*theta)/(2.*lambda*(1-sin(theta)**2/lambda**2)**(1/2.)) Krec1(theta)=1/2.*v1(theta)**2 lambda=4 plot 2*(Krec1(theta)+Krec1(theta-180)) replot 2*(Krec1(theta)+Krec1(theta-90)) replot Krec1(theta)+Krec1(theta-90)+Krec1(theta+70)+Krec1(theta+70-90) replot Krec1(theta)+Krec1(theta-90)+Krec1(theta-180)+Krec1(theta-270) # (dummy comment) >>115 のグラフでは上下の変動幅が分かりづらいので、それぞれのプロットから最小値を差し引いたものを描いてみます https://i.imgur.com/KMLuAUy.png この図の 360度クランク:36% 70度クランク:14% 180度クランク:2% に相当する値が、クランクピンオフセット角度βを変化させた場合にどう変化するかを見ると以下のようになります https://i.imgur.com/iLNJ1U7.png 図のように連桿比λ=4の場合にβ=約68度のところに特徴的な点があり、y軸の値は約13%となります この角度は実際のドゥカティのクランク角度70度に近い値ですから 「排気干渉の大きいβ=180度の側を除いた範囲で最も往復運動の運動のエネルギーの和の変動が小さい角度」 にすることで車体の速度変動を小さくするという、ヤマハの古澤氏のクロスプレーン直4と同様の思想で作られたのがドゥカティ の70度クランクではないか?というのが私の結論です さてどんな理屈があってもバイクは実際人が乗って走らせてみなければ良し悪しがわかりません 2004シーズンに向けヤマハで初めてクロスプレーン直列4気筒エンジンが製作されロッシによりシングルプレーン と比較テストが行われた際のエピソードは有名ですね https://global.yamaha-motor.com/jp/race/wgp-50th/column/vol31/ > 0WP3は、その後テスト走行を重ねて調整が施され、シェイクダウンから1ヵ月後の2004年1月末、 > マレーシアのセパンへ持ち込まれた。この時、初めてライディングしたバレンティーノ・ロッシは「Sweet」と絶賛。 ここで現在のドゥカティのボスのジジ・ダッリーニャの前任であったフィリッポ・プレツィオージ氏と古澤氏の関係性を 見てみましょう 古澤氏の退任直前の2011年2月のインタビューを読むと Masao Furusawa reflects on MotoGP career https://www.crash.net/motogp/interview/166485/1/furusawa-reflects-on-eve-of-yamaha-motogp-exit > You know Filippo [Preziosi, Ducati Corse general director] came to me and asked lots of questions. > The last question was 'will you come to Ducati?' [laughs]. > No, no, no. Anyway I gave him lots of hints to win and it looks like he copied my strategy. 「フィリッポは私のところへ来てたくさんの質問をしていった」 「彼には勝つためのたくさんのヒントを与え、彼は私の戦略をコピーしているようだ」 > Filippo did almost the same process as I did for Rossi in 2004. > He prepared maybe two or three types of bike in Valencia. > And Valentino selected the 'right' one. But from now on I don't want to say anything. 「フィリッポは私が2004年にロッシにしたこととほとんど同じプロセスをした」 「彼はバレンシアテストに2種類か3種類のバイクを用意し、ロッシは『正しい』バイクを選んだ」 「これ以上は言えませんが」 私にはこの内容はプレツィオージ氏と古澤氏が同じ考えを共有し、>>118 の2004年のエピソードと同様にロッシに いくつかのクランク角のV4エンジンを用意してその中から選ばせた、ということに思えます (いや、それとは全然関係ないシャシー側の話だったりする可能性もありますけど) 長いスレをほぼ私一人で埋め尽くしてきましたが、だいたいこれで話は終わりです なにか私の計算や説明で致命的におかしいぞ、というところがあればご指摘をいただければ幸いです (けっこう文章を書くのに疲れはてたので返答は遅れるかもしれませんが) >>122 いやまあ一通り説明すべきことは書き終えたので まだクロスプレーン直4の特許とかYZF-R1のクランクシャフトはなんであんなにカクカクしてるのかとか いろいろネタはあるのですが さてここから先はゆっくりネタを追加していきましょうか 2017年に自動車技術会(JSAE)のこのようなシンポジウムあありまして モータースポーツ技術と文化 ─進化し続ける開発手法の最前線─ 2017年3月1日(水) https://www.jsae.or.jp/sympo/2016/sympo_15-16.php HRCの人がこんな公演をしています MotoGP 開発における完成車シミュレーション技術 Simulation Technology Applied to Development of MotoGP Racing Machine https://tech.jsae.or.jp/paperinfo/ja/content/st201615.03/ 一部引用すると > 通常,完成車シミュレーションに用いられるエンジンモデルは,台上試験にて計測された定常トルクを用いて構築される場合が多い. > (略) 本稿では,クランク機構を有し,台上計測した各気筒の筒内圧力を入力とするエンジンモデルを構築した. > このモデルでは,各気筒の燃焼やクランク位相,ピストンなどの往復慣性力によってクランク機構が発生するトルク変動や並進運動が再現される. とあり、ホンダもこの時点で慣性トルクの影響について真面目に考えていることがわかります ホンダのRC213Vがいわゆるスクリーマー(実際には360度クランクのはずだが判断材料は排気音のみなので便宜的にこう記す) をやめて360度クランク以外のクランク角としたのは2017シーズンからですから、やはりその狙いは慣性トルクに関することであろう、 と個人的には考えています ただその場合のクランク角の候補としては、 A:クランクシャフトの角加速度、あるいは車体の加速度の変動が問題である場合(またはタイヤ面にかかる駆動力が問題である場合) →>>107 に示した約57度あたりのクランク角 B:クランクシャフトの角速度、あるいは車体の速度の変動が問題である場合 →>>117 に示した約68度あたりのクランク角 の2つの角度が候補として挙げられますが、正直まあライダーがこういった変動をどのように感覚としてとらえラップタイムに 影響しているのかなんてのは誰にも良くわからん話の気がします もちろんこの2つだけでなくいくつかの角度のクランク(とカムシャフト)を10度きざみくらいで試作して実走テストしてみても良い のでしょうけど、それぞれ排気系も最適化して設計製作しないといけないでしょうからまあまあ大変そうです ただ、Bの場合ドゥカティが10年も前の市販車デスモセディチRRで公表した70度クランクの猿真似でかっこ悪いので、自分が ホンダの技術者であれば60度付近のクランク角を選ぶかもしれません まあよー知らんけど >>124 変換ミス ×HRCの人がこんな公演をしています ○HRCの人がこんな講演をしています 慣性トルクの話からは少し外れますが、>>125 で引用した文章の > 往復慣性力によってクランク機構が発生するトルク変動や並進運動 にあるような往復慣性力による並進運動、つまり一般的な意味でのエンジンの振動についても触れておきましょう まず90度V型2気筒エンジンの1次慣性力、2次慣性力は以下のサイトの図のようになります https://www.sense.net/ ~blaine/twin/twin.html https://www.sense.net/ ~blaine/twin/Guzzi.gif ここで大きく回転する青色の矢印は1次慣性力で、これはクランクウェブに適切な質量のバランスウェイトを加える ことで打ち消すことができます 左右にひょこひょこ動く赤色の矢印が2次慣性力で、F1やフェラーリ市販車で用いられるフラットプレーンクランクV8 はこれが4スロー分重ね合わせとなるため大きな振動が問題となります (縦置きエンジンとすると車両を水平方向に左右に振動させる) さて、ここでホンダで数々のV4エンジン車両を手掛けた山中勲氏の手記を見てみましょう https://www.honda.co.jp/motor-roots/contents7/page2.html 180度クランクV4であるVFR750F(RC24)について、 > また90度V4エンジンは理論上一次振動がゼロとなるが、180度クランクに変更して二次振動も限りなく小さくした。 としていますが、前半の1次振動の部分は正しいのですが後半の2次振動の部分は明らかに間違いです 2次振動、つまりcos2θの振動ですから、180度の位相差で組み合わせたところで180×2=360度となり単純に重ね 合わせとなるだけです 例えば先に挙げた四輪のフラットプレーンクランクV8について考察してみると、このV8エンジンを中央で2つに切断 すると2基の180度クランクV4になると言えるわけで、逆に言えば180度クランクV4を2つ組み合わせたものが フラットプレーンクランクV8です ここで山中氏の言われるように「180度クランクに変更して二次振動も限りなく小さく」なるのであれば180度クランクV4 を2つ組み合わせたフラットプレーンクランクV8の2次振動なんてものは問題にならないわけですから、世の中の V8エンジンは全てフラットプレーンクランクとなるでしょうが、実際には2次振動を打ち消すためにほとんどの市販車は クロスプレーンクランクV8を積んでいます このあたり、興味のある方は大阪市立大学 坂上茂樹教授の 三菱航空発動機技術史 https://dlisv03.media.osaka-cu.ac.jp/contents/osakacu/kiyo/111C0000001-77.pdf のp..218〜 補論:90°V8 型発動機用クランク軸の進化 あたりも読んでみると良いでしょう ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています
read.cgi ver 07.5.4 2024/05/19 Walang Kapalit ★ | Donguri System Team 5ちゃんねる