■人類の火星移住計画に立ちふさがる大問題――宇宙放射線が降り注ぐ火星では地下に住むのが最も望ましい

イーロン・マスクは、人口爆発や気候変動、人工知能(AI)の進化など地球規模の脅威を常に真剣に受け止めている起業家。
人類の破滅を避けるには、地球外に人間の居住地を建設しなくてはならないと考えている。

マスクは宇宙開発会社スペースXのCEOとして、「人類を多くの惑星で繁栄する種にする」という野心的な目標を掲げ、
火星移住計画に取り組んでいる。今年3月には、その具体的な内容を発表した。

火星到達の目標は2022年。まずスペースXが開発中の世界最大のビッグ・ファルコン・ロケット(BFR)2基で、
火星に物資や建設資材を運び込む。

2年後の24年に、BFR2基で貨物、2基で人間を火星に送り出す。

全部でロケット6基を火星に送り出せば、小さなコロニーを作り、都市の建設に着手できるとマスクは考えている。
「火星を快適な場所にする」ための住まいづくりだと、彼は言う。

その第1段階は、人間の居住施設と太陽光発電施設の建設。その次が惑星の改造だ。
火星の大気中にある二酸化炭素と、地表や地下の水を使ってロケットの推進剤を作り、その後に鉱物の発掘を行う。

人間が火星で長く暮らすためには、地下深くに居住地を造ることが最も実現可能な選択肢の1つかもしれない。
スペースXは、系列企業のトンネル掘削会社ボーリング・カンパニーの掘削機で地下トンネルのネットワークを構築し、
そこに居住施設を造ることが最もいい方法だと考えている。

科学ニュースサイト「フューチャリズム」のインタビューで、スペースXの社長兼COO(最高執行責任者)を務めるグウィン・ショットウェルは、ボーリング・カンパニーが現在、火星におけるトンネル掘削を真剣に検討していると語った。「私たちが掘ったトンネルに、火星の住民を収容することができると思う」と、ショットウェルは言う。

マスクも以前、火星での居住環境の構築について同様の発言をした。国際宇宙ステーション研究開発(ISSR&D)会議で、
「望むなら都市全体を丸ごと地下に建設することもできる」と、彼は語っている。

「人はそれでも、ときどき地表に出たいと思うだろう。でも、火星で掘削技術を正しく使えば、
地下にたくさんの施設を造ることができる」

なぜ火星では、地下に住むほうがいいのか。フューチャリズムの記事によれば、現在は火星到達後に暮らす最初の住まいとして、人々が想像しやすいガラスのドームやテントに似た施設が試されている。しかしこうした居住施設では、人命が危険にさらされる可能性がある。

火星の大気濃度は地球の100分の1しかない。従って、太陽や太陽系外の宇宙から、
人体に害を与える宇宙放射線がほとんど遮られず地表に降り注ぐことになる。

しかも地球と違って、火星には放射線を防御する磁場もない。

気密性が高く、放射線を吸収する巨大なドームの建設にはかなりのコストがかかる。
宇宙船の外装と同じ材料を使わなくてはならないからだ。

だから地下トンネルを掘ることが、火星に住む上で最も望ましい方法となり得る。
閉所恐怖症の人にはあまりおすすめできないが。

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ニューズウィーク日本版
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