理化学研究所は4月5日、今後7年間の中長期計画の策定に伴い記者会見を開いた。

「STAP細胞」の研究不正事件から4年。
京都大学総長を務めた松本紘氏が2015年に理事長に就任し改革に動き出した理研は2016年10月、
物質・材料研究機構、産業技術総合研究所とともに、特定国立研究開発法人の指定を受けた。

特定国立研究開発法人とは、
「科学技術イノベーションの基盤となる世界トップレベルの成果を生み出すことが期待される法人」のこと。
今回の中長期計画は、この特定国立研究開発法人の根拠法に基づき定められた。

■日本を代表する研究機関

理研は伝統のある研究機関だ。消化酵素剤タカジアスターゼを創製した高峰譲吉の提唱によって設立され、
ビタミンB1を発見した鈴木梅太郎、グルタミン酸ナトリウムを発見した池田菊苗、
日本の物理学の父といわれる長岡半太郎など、著名な科学者は初期から枚挙にいとまがない。
戦後は湯川秀樹、朝永振一郎、野依良治氏らノーベル賞受賞者が理事長を務めた。

だが、日本の科学研究の環境は厳しさを増す一方。
2016年にノーベル生理学・医学賞を受賞した大隅良典・東京工業大学栄誉教授をはじめ、
多くの科学者がこぞって日本の研究レベルの低下を警告している。
実際、研究論文の質・量ともに、伸び盛りの中国などとは対照的に、下降局面にあるとみられている。

国の科学研究費も総額が伸びない中で、iPS細胞をはじめとする大型プロジェクトに集中的に資金が投下され、
基礎研究を中心に研究費の回らない分野も多い。
国立大学の独立行政法人化によって教授、准教授といった無任期のポストが減少し、
若手博士が職に就けないポスドク問題なども起きている。

そんな中で理研は、日本の自然科学を牽引する役割を担わなければならないのだ。

確かに理研は国内で突出した存在といえる。世界的に見ても価値の高い論文の数で、
世界トップ10前後をキープしている。

人材も豊富。2009〜2017年にノーベル賞学者の利根川進氏が脳科学総合研究センター長を務めていたし、
iPS細胞による加齢黄斑変性治療法を開発した橋政代プロジェクトリーダーや、
113番元素「ニホニウム」を発見した森田浩介・超重元素研究開発部長なども在籍する。
スーパーコンピュータ「京」や、放射光によって物質を原子・分子レベルまで調べることができる
「SPring-8」「SACLA(さくら)」は理研の研究施設だ。

今回の中長期計画の目玉は3つある。筆頭格といえるのが、
「イノベーションデザイナー」の創設だ。100年後にあるべき社会の姿、
その実現に向けてどんな科学イノベーションが必要か。そのシナリオを描く松本理事長肝いりのプロジェクトだ。

「のろしのような原始的な通信手段から電気通信が生まれ、インターネット時代を迎えたように、
これから先どのような技術が求められるのかを考える」(小安重夫理事)。
その実現のため、東京中央区の拠点に未来戦略室を新設。高橋恒一氏(バイオコンピューティング研究者、理研)、
西村勇哉氏(NPO法人ミラツク代表)、
三ツ谷翔太氏(アーサー・D・リトル)らを中核とした若いメンバーで討議を重ねていく。

また、これまでの境界にとらわれない、横断的な新しい領域の創設を目指す開拓研究本部の設置や、
産学連携プラットフォームとしてイノベーション事業法人の創設なども検討されている。
イノベーション事業法人は、一般企業にとって近寄りがたいアカデミアの門戸を広げ、アクセスを容易にする。
いきなり研究者を訪ねるのは勇気がいるが、
間に立って相談に乗ってくれるリサーチアドミニストレーターを窓口として置く。
「単なるつなぎ役ではなく、求められるサイエンスに深く通じている点が特長になる」
(小寺秀俊・理事兼科技ハブ産連本部長)。

松本理事長は「(規模や研究内容が似通っている)
ドイツのマックス・プランク研究所と肩を並べる存在になりたい」と意気込む。
今後7年間の運営費交付金を中心とした総収入は6543億円を想定。
ここ数年、毎年1000億円前後の収入であることを考えたうえでのミニマムの想定だが、
いずれにせよ、海外のトップ研究所に追いつくにはかなり厳しい。
「マックス・プランクの予算は理研の3倍の規模」と松本理事長は言う。


関連ソース画像
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東洋経済オンライン
https://toyokeizai.net/articles/-/217216

続く)