英ヴァージングループのリチャード・ブランソン氏が率いる米宇宙旅行会社ヴァージン・ギャラクティックは22日、乗客を搭乗した状態で初めて宇宙飛行に成功したと発表した。有人宇宙船「スペースシップ2」が米国では宇宙空間と見なされる高度80キロメートル以上に達し、数分間飛行した。夢の宇宙旅行に向けた大きな前進で、競争も一段と激しくなりそうだ。

スペースシップ2は米カリフォルニア州モハベ砂漠の宇宙港から乗客1人を乗せ、空へ飛び立った。弾道飛行(サブオービタル)と呼ばれる方式で宇宙飛行。出発時は母船となる航空機「ホワイトナイト2」の胴体の下に取り付けられた状態で離陸し、高度1万5000メートルで空中発射され、ロケットエンジンで一気に宇宙空間へ向かった。

マッハ3の速度で高度89.9キロメートルまで上昇した。国際航空連盟(FAI)は宇宙と地球の大気圏の境界線(カーマン・ライン)を高度100キロメートルとしているが、米国では高度80キロメートル以上を宇宙空間とみなしている。米国基準でスペース・シップ2は宇宙空間に達した。

乗客は数分間の無重量状態を体験したという。スターシップ2は大気圏に再び入り、グライダー飛行で宇宙港に無事に着陸した。ヴァージン社はパイロット以外の乗客が宇宙船に乗って宇宙空間を飛行したのは世界で初めてとしている。ブランソン氏は「今後数カ月の間には最もスリルを感じられるだろう」とコメントし、さらなる挑戦を示唆した。

日本でヴァージン社の宇宙旅行の販売代理店を担うクラブツーリズム・スペースツアーズ(東京・新宿)によると、宇宙旅行の料金は1人当たり25万ドル(2750万円)。旅行代金のほか、米国での3日間の準備訓練の費用も含む。現時点で日本では19人の予約があり、申込者の平均年齢は約60歳という。

乗客が搭乗して初の宇宙飛行には成功したものの「消費者からの反響はまだない」(同社)。「安全性の検証を進め、具体的なスケジュールが見えてくれば、営業活動を強化したい」とさらに先を見据えている。

世界では宇宙旅行を巡る争いは激しくなっている。米アマゾン・ドット・コム創業者のジェフ・ベゾス氏が率いる米ブルーオリジンは、ロケット式で宇宙船カプセルによる宇宙旅行を計画している。2019年にも宇宙旅行のチケットを販売するという。

日本では宇宙スタートアップのPDエアロスペース(名古屋市)が有人宇宙飛行機を開発している。スターシップ2と同じサブオービタル式で、さらに高い高度110キロメートルまで上昇する。5分間の無重量状態を体験し、眼下に青く輝く地球の眺望を楽しめるという。

PDエアロには旅行大手のエイチ・アイ・エスやANAホールディングスが出資しているほか、宇宙航空研究開発機構(JAXA)や東北大学とも連携する。19年中にジェット式とロケット式の燃焼モードを切り替えられる新型エンジンを搭載した無人機で、高度100キロメートルへの到達と帰還を目指す実証実験を行う計画だ。さらに有人宇宙飛行機が離着陸できる宇宙港の開港に向け、準備も進めている。

(星正道)

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2019/2/26 11:30
日本経済新聞
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