今年6月中旬、日産自動車が、独ダイムラー、
米フォード・モーターと共同開発している燃料電池車(FCV)の量産化計画を当面、見送るとの報道があった。
3社は2013年に共同開発を始め、17年にもFCVを発売する計画だった。
かつて、“水しか出さない究極のエコカー”ともてはやされたFCVから、なぜ、日産は手を引く決断をしたのか。
モータージャーナリストの御堀直嗣氏に解説してもらった。

■FCVとはどのような車か

FCVは、搭載している燃料電池(Fuel Cell)で発電し、
得られた電力でモーターを駆動する電気自動車の一種である。

 いわゆる電気自動車(EV)とFCVが異なるのは、外部から充電をしない点だ。FCVは燃料電池で発電するため、
水素を外部から補給して車載タンクに蓄える。

 また、燃料電池は、水素を燃料として、大気中の酸素と化学反応させ、電気を生み出す発電機である。
したがって、FCVは大量の水素を車載タンクに蓄えなければならず、
70メガパスカル(MPa=約700気圧)の高圧水素タンクを搭載する。

 燃料電池は、イオン交換膜という料理用のラップのように薄い高分子膜を数百枚も積層した構造になっている。
その製造には精密さが求められ、
トヨタのFCV「MIRAI(ミライ)」の生産台数が年間3000台(250台/月)程度に限られるのも、
量産工程における繊細さが不可欠だからである。

 70MPaという高圧の水素ガスを安全に車載するため、樹脂、炭素繊維、
ガラス繊維などを複合的に使った高度なボンベ製造技術も求められる。無駄なく成形するための優れた技術も必要だ。

 そればかりか、万一、水素ガスがタンクから漏れた際にも、重大な事故につながらないようにする安全性の確保が求められる。
可燃性の高いガソリンを利用するのと同様に、危険性が指摘されるエネルギーでも、
安全に使えるようにするのが人間の知恵であり、メーカーの責任である。

 では、日産がFCVの量産化から手を引いた要因はどこにあるのか。

【理由1】水素ステーションの問題

 精密で繊細な燃料電池を量産するには、高度な生産技術の構築と生産管理などに手間と多額の投資が必要となる。

 MIRAIをいちはやく市販したトヨタも、当初は年間700台(60台弱/月)の規模からはじめ、
ようやく年間3000台の水準に至った。
2014年の発売当初に数千台の注文を受けたが、納車されるまで数年待つという状況は、
一般のマイカー購入者にはちょっと考えにくいだろう。

 このような状況で、採算の見込みがない点は、
ホンダの量産型FCVのクラリティ・フューエルセルでの取り組みにも表れている。
ホンダは、FCV単独の採算性を危惧し、
同じ車体でEVとプラグインハイブリッド(PHV)の三つの電動パワートレインを採用した。

 こうした背景には、FCV普及へ向け、水素を充填じゅうてんするステーションの整備がなかなか進まず、
東京、大阪、名古屋、北九州などの都市圏でしかFCVの実用性がない状況にある。
これは、「鶏が先か、卵が先か」というジレンマでもあるが、
FCVの量産が進まなければ水素充填を必要とする利用者が増えず、
利用者が増えなければ水素ステーションの拡充もできない。

 その結果、水素充填は不便だから、FCVを買い控えるという循環に陥ってしまう。

続きはソースで

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読売新聞
https://www.yomiuri.co.jp/fukayomi/ichiran/20180706-OYT8T50008.html