深層学習分野で、NVIDIAの名を知らない者は潜りと言われても仕方がないでしょう。かつて日本の新聞社で、NVIDIAを「謎の半導体メーカー」と呼んで赤っ恥を書いた人がいますが、NVIDIAなくして深層学習の研究はままならないことは間違いありません。

 というのも、深層学習に不可欠な積和演算機能に優れた半導体とAPIを提供しているのが、事実上世界にNVIDIA一社しかないからです。

 Intelやその他のメーカーも頑張って入るのですが、NVIDIAが持つ多数の知的財産権の前に、後塵を廃しています。

 それはそれで、NVIDIAという会社が素晴らしい発明をしたのだから、儲かるのは良いことだとも考えられます。ところが最近、諸手を挙げては喜べない事態が置きています。

 NVIDIAはもともと、ゲーム用GPUの開発で有名になった会社です。ゲーム用にはGeForceシリーズ、そしてハイエンドサーバー用にはTeslaシリーズという製品ラインナップを持っています。

 ゲーム用のGeForceシリーズとハイエンドサーバー用のTeslaシリーズは、基本的には同じものですが、Teslaシリーズの方がより大規模な計算が可能になっていたり、信頼性が高いという特徴があります。

 問題は価格です。性能そのものはほとんど変わらないのに、GeForceシリーズが10万円台であるのに対し、Teslaシリーズは10倍近い価格設定がされています。

 常時GPUをぶん回すようなサービスをするのならば、或いは10倍の価格であるTeslaを採用するというのはそれほど悪い考え方ではありません。

 しかし、実際には深層学習はまだ研究段階のものが多く、現実的には安価なGeForceでいろいろな大学や企業の研究所が様々な実験を行いたい、というのが現状です。

 これまで、商用サービスでGPUを使う場合にはTeslaをつかうように、という要請がNVIDIAからなされていました。落とし所としては、確かに商用サービスにつかうなら信頼性の高いTelsaをつかうというのは筋が通っています。

 しかし数週間前、NVIDIAは予告なしにデバイスドライバの利用規約(EULA;End User License Agreement)を変更しました。
 その変更点の中でも最大のものは、「GeForceをデータセンターで運用することを禁じる」という条項の追加です。

 これで、日本を含む世界中の企業はもちろん、大学など教育機関も全て、安価なGeForceではなく、高価なTeslaを購入しなければ、データセンターでの深層学習の実験をすることが不可能になります。

 これはNVIDIAの独占的地位を利用した、明らかな地位の濫用と言えます。

 考えてみて下さい。
 商用サービスでもない、単なる学生実験や企業内の実験をするのに、なぜ10倍ものコストを払うことを余儀なくされるのでしょう。実際にはゲーム用として売られているチップと、ほとんど同じものを、データセンターに置くだけで価格体系が変わるというのです。極めておかしな話だと思います。

 残念ながら、悔しいことに、Intelを含め今NVIDIAに対抗できる勢力は世界のどこにもありません。唯一目に見える対NVIDIAの希望の光だった、PEZYの斎藤さん率いるDeepInsightsも今回の事件でどうなるかわかりません。

 スターウォーズ エピソード8を見た直後の筆者には、まるでNVIDIAがファースト・オーダーのように見えます。
 
 そういえばカイロ・レンも黒い服を好みますね。

 この措置は、いち私企業の利益のみを優先した、独占的地位を利用したもので、傍目には極めて邪悪に見えます。そもそもNVIDIAは深層学習コミュニティに支持されることで過去最高益を達成しました。

 しかし、貢献してきた開発者コミュニティにこの仕打ちです。
 簡単に言えば、これまでのように深層学習の研究を続けたければ、これまでの10倍のお金を払え、ということになります。

 もちろん個人用のGeForceはこれまでと同じように使うことができますが、データセンターの中にマシンを設置する場合は全てTeslaしか認めないということになります。

 学内で予算取りをしている先生がいたら、一夜にして目論見が崩れることになります。

以下ソース
https://wirelesswire.jp/2017/12/62658/