首都圏の鉄道各社が相次いで通勤客向けの有料座席指定サービスを導入している。
改善の兆しが見えない通勤ラッシュを緩和する手段として一部から注目されているが、鉄道会社側にはもっと切実な事情がある。
人口減少の本格化という厳しい現実が目前に迫っており、各社は有料サービスの拡充によって収益低下に備えようとしているのだ。

足元では利用客の増加で通勤ラッシュが激化しているが、一方では人口減少の足音が近づく。
相反する状況に直面する鉄道会社の現状は、今の日本を象徴しているといってよいだろう。

中略

近い将来、鉄道会社は乗客確保に苦労するようになる

だが、こうした通勤ラッシュが今後も半永久的に続くのかというとそうではない。

日本はこれから人口減少が本格化する見込みとなっており、近い将来、通勤人口も大幅に減少することが予想されている。
鉄道会社としては、人口減少時代にどう備えるかで頭を抱えているというのが現実なのだ。

日本が人口減少問題に直面していることは多くの人が理解している。
だが、実際、どの程度のペースで人口が減っているのか具体的にイメージできている人は意外と少ない。

総務省統計局による概算値では、2016年12月1日時点での日本の総人口は1億2692万人となっており、前年比で約16万人減少した。
これは率にすると0.13%減ということになる。
人口減少という言葉が一人歩きしているので、急激に人口が減っているとイメージする人もいるが実際はそうでもない。

2000年の人口は約1億2693万人だったことを考えると、日本の総人口そのものはあまり変化していないのだ。
つまりこれまでは「人口減少社会」というよりは「人口横ばい社会」だったということになる。
だが、これは人口問題がもたらす影響が軽微であることを意味しているわけではない。
総人口が変わらなくても高齢化が進み、若年層人口の比率が減少することで、社会のあちこちに歪みが生じるからである。

過去15年間で34歳以下の人口は約22%減少したが、一方、60歳以上の人口は43%も増加した。
長期にわたって不景気が続いているにもかかわらず、企業では人手不足が深刻な状況だが、その主な理由は、若年層の労働人口が急激に減っているからである。

これまでは人口は横ばいで、高齢化が進むことが大きな問題だったが、とうとうその局面に大きな変化が訪れようとしている。今後は総人口の減少が本格化するからである。

人口減少が本格化するのは実はこれから

2040年の総人口は1億728万人と現在より15%ほど減少する見込みである。
しかし、60歳以上の人口はまだまだ増加が続き、2040年には今より374万人多い4646万人になる。
一方で、企業の労働力の中核となっている35歳から59歳までの人口は、現在との比較で何と26%も減少してしまう。

今後20年間で、日本社会は中核となる労働者の人口が激減するのだ。
当然のことながら、これは鉄道を利用する通勤客が大幅に減ることを意味している。
鉄道会社が有料サービスを拡充しているのは、利用客減少時代を見据えた収益確保への取り組みなのである。

現在の日本は、多くの問題が複合的に絡み合った状態にあり、顕在化した社会問題と、背景にある構造的な変化に食い違いが生じがちである。
通勤ラッシュの深刻化で多くの社会問題が発生しているように見えて、実は人口減少の波が押し寄せてくる。

最近何かと話題になっているヤマト運輸の値上げも同じである。
一見すると、アマゾンに代表される便利なサービスを利用者が求め過ぎた結果であるとの結論に陥りがちだが、現実はもっと複雑だ。
慢性的な人手不足から、ヤマト側がギリギリのオペレーションをしていた可能性も指摘されており、もしそうだとすると、これは運送業界だけの問題ではない。

さらにいえば、足元では配送要員の過重労働問題が表面化する一方、AI(人工知能)技術の発達という別の動きも進んでいる。
AIの技術をフル活用すれば、運送業務の多くを無人化することも不可能ではなく、数年後には過重労働どころか大量失業の問題が持ち上がっている可能性すらある。

これからの時代を生き抜くためには、表面的に見えている問題と、背後で動く構造的な変化の両方に目を配る必要がある。これまで以上に複眼的な思考が求められるだろう。

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/49674