「今回の気象庁のコメントはとんでもないと思います」。

記者に届いた深夜のメールは、これまでにない怒りがにじむものだった。差出人は火山研究の第一人者で噴火予知連絡会の元会長、東京大学の藤井敏嗣名誉教授。怒りをあらわにしたのは、桜島で大きな噴石=火山弾が集落近くに落下したことが判明したあとの気象庁の対応についてだ。何が温厚な火山学者を怒らせたのか。問題を探る中で見えてきたのは火山防災をめぐる科学の限界だった。

■集落の近くに出現した“クレーター”

このクレーターが見つかったのは海岸沿いに点在する集落からわずか100メートルほどの林の中。火口から放出された推定50センチ〜1メートルの火山弾が深く地面をえぐった穴を見て「もし住宅を直撃していたら…」と身震いを抑えられずにいた。

爆発が起きたのは6月4日午前2時59分。高感度カメラの映像では、赤く熱せられた多数の噴石が山の斜面に次々と落下。
鹿児島地方気象台は映像などをもとに「大きな噴石が飛んだ距離は火口から2キロ以内」と発表。噴火警戒レベルは住民の避難を必要としない「3」が維持された。この時はまだ、事態が一転するとは誰も思っていなかった。
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200619/K10012475181_2006191316_2006191544_01_06.jpg

<4時間後>
爆発から4時間後の朝7時。桜島はいつもと変わらない朝を迎えた。島内の建設会社の社長、松元勝起さんは、従業員3人とともに資材置き場に集合していた。
そのとき、屋根にあいた穴に目がとまった。大きさは20センチほどで鉄骨の骨組みの一部もへこんでいる。
「いたずらにしてはおかしい」。
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200619/K10012475181_2006191814_2006191816_01_06.jpg

松元さんの脳裏には、噴石が飛んできたのか?という考えもよぎったが、ここは南岳の火口から南南西に約3キロ。噴石が飛んできたことはなく、半信半疑のままその日を過ごした。

<翌日>
翌5日昼。屋根の穴が気になっていた松元さんが周辺を調べたところ、資材置き場にほど近い林の中に、ぽっかりとあいた大きな穴を見つけた。あたりには石が転がり、かすかに焦げたようなにおいもする。「噴石か」と疑ったが、人為的に掘られたものかもしれないと自信が持てずにいた。

■命に関わる火山弾 34年ぶりの事態

<4日後>
事態が動いたのは爆発から4日後の6月8日。島内の別の地域でも直径5センチほどの噴石(火山れき)が飛んでいたことを知った松元さんの疑いは確信へと変化。鹿児島市に写真を送信すると、すぐに市や気象台の職員と専門家が現地にやってきた。
クレーターは桜島から飛んできた噴石によるものと断定。推定で50センチ〜1メートルの火山弾は衝撃でバラバラになっていた。直撃していれば命に関わる。
気象台は大きな噴石の飛んだ距離は火口から3キロを超えていたと訂正。この距離まで火山弾が飛んだのは34年前の1986年11月以来の事態だ。

活発な噴火活動を続ける火山島に暮らす高齢者の中には「いつものこと」と話す人もいた。一方で「雷みたいな音がして揺れ、普通の爆発ではないと思った」と答えた男性や「夫と『命の確保をしなければ』と話した」と証言した女性など、強い危機感を抱いた人もいた。

気象庁の「噴火警戒レベル」が導入されて10年あまり。桜島では初めて、住民の避難が必要な「レベル5」にあたる事態だったが、実際には5に引き上げられることはなかった。

■気象庁「見逃しではない」

同じ頃、東京・大手町の気象庁。
社会部の担当記者(老久保)は3キロを超えて噴石が見つかったという情報を聞きつけ、詳しい情報を得ようと取材にあたっていた。
しかし幹部たちは協議を繰り返し、正式な発表は午後9時半までずれ込んだ。地元の鹿児島放送局では夜のニュースで事態の概要をすでに放送していた。

「レベル5の見逃しにあたる事態ではないのか」。

見解を求めた記者は、火山課幹部の回答に耳を疑った

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NHKニュース
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200619/k10012475181000.html