2020年1月1日 朝刊
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ノーベル賞受賞者の天野浩・名古屋大教授らの研究グループが、窒化ガリウム(GaN)のパワー半導体を使い、ワイヤレス(無線)で電気を送る新システムを開発した。豊田合成との共同研究で、十センチ離れたドローンのプロペラを回転させており、数年以内の実用化を目指す。この半導体により、遠くに飛ぶ高周波の電気をつくりやすくなっており、電気自動車(EV)への送電を視野に入れる。

 EVへのワイヤレス送電は、この十年ほど世界中で開発が進んでいる。欧州では道路の下に金属の大きな送電用コイルを埋め、停車中のEVに送電する実験も始まっている。

 コイル式の送電に対し、天野教授らの開発した新システムは、送電用にアルミ板を用いる。部材が安く抑えられるためコストはコイル式の六割程度に抑えられ、小型化も可能。道路のような大規模インフラへの整備には有利となる。

 またコイル式では、EVをコイルのほぼ真上に置かないと受電できないが、電気を遠くに飛ばせる新システムの特性により、EVが多少、ずれた位置にいても受電できる。

 電気を遠くに飛ばす秘訣(ひけつ)は、青色発光ダイオード(LED)の素材であるGaNを使ったパワー半導体。電力ロスが少ない上、高周波の電気をつくる性能に優れる。

 この半導体を用いた電気回路を、牛田泰久特任准教授らが製作。コンセントから取り込んだ電気を、回路を通して高周波にし、送電用アルミ板から無線で電気を飛ばした。十センチ上に、受電用アルミ板を付けたドローンを固定したところ、ドローンのプロペラが回転し送電に成功した。

 国の規制があるため、今回は五十ワットの電力を無線で送っただけだが、計算上は、現在普及しているEVの充電器並みの数キロワットの電力を送れる。EVへの送電では、EVの車体の鋼板で受電することも考えられるという。天野教授は「将来的には走行中のEVにワイヤレス送電できるようにしたい」と意気込んでいる。

 (芦原千晶)