国家的プロジェクトというと、東京オリンピックや大阪万博ばかりが注目されがちだが、実は岩手県で、それらを凌ぐスケールの超巨大プロジェクトが持ち上がっているのを、ご存じだろうか。

 岩手・北上山地の地下100メートルに、全長20キロに及ぶ直線状の「加速器」を建設。全世界から膨大な数の科学者たちが集い、ヒッグス粒子や、宇宙を構成するダークマター(暗黒物質)などを解明しようという「国際リニアコライダー」(International Linear Collider 以下、ILC)計画があるのだ。

 「ちょっと、何言ってるのか分からない」という人のために簡単に説明をすると、「加速器」とは、原子よりも小さな「素粒子」を光の速さで正面衝突させる研究施設(ILCの場合は電子と陽電子を衝突させる)のこと。人も地球も宇宙もすべては素粒子からできているので、ここの謎を解くことで、宇宙の成り立ちはもちろん、まだ解明されていない物資、現象などこの世界のさまざまな謎に光を当てられる、というわけなのだ。

 この素粒子については、『アイアンマン』『アントマン』というマーベル映画や、『エヴァンゲリオン』などのSFアニメにもちょこちょこ登場するので、ファンの方ならば聞いたことがあるのではないだろうか。ちなみに、世界中で興行記録を塗り替えた大ヒット作『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』の続編が来春公開されるが、そこでも素粒子が物語の重要なカギを握るとされている。

 そんな幼稚な話は興味ゼロだね、という人でも、スイスのジュネーブにある「CERN」(欧州原子核研究機構)の名は聞いたことがあるだろう。

 世界中の研究者が情報にアクセスできることを目的としたWWW(ワールドワイドウェブ)が考案されたことから、「インターネット発祥の地」として有名なこの施設にも円形の加速器があって、「ブラックホール発生装置だ!」「研究を進めると宇宙が崩壊する」なんて『月刊ムー』のような超自然科学系サイトでもちょこちょこ取り上げられているので、一度や二度は耳にしたことがあるはずだ。

そんな世界的な研究所を上回る施設を日本に造ろうじゃないの、というのがILC計画だ。

 「なぜわざわざ日本で?」と首をかしげる方も多いかもしれないが、推進している方たちのお話を聞いてみると、いくつか大きな理由が見えてくる。

 まず、日本は、中間子理論を提唱した湯川秀樹から、近年のニュートリノ天文学の小柴昌俊氏、6つ以上のクォークが存在を予測した益川敏英氏、小林誠氏まで、多くのノーベル物理学賞受賞者を生むなど、世界の素粒子物理学をリードしてきた。また、加速器に関する技術も世界一と評され、茨城県つくば市にあるKEKB加速器は現時点で世界でも最も密度の高い電子ビームをつくることができる。

 そんな“素粒子研究先進国”である日本の競争力をILCでさらに確固たるものにしようというのが、まず1つなのだ。

そして、もう1つ重要なのが、経済効果だ。

 世界中から優秀な頭脳が集結してくるわけなのだから、経済効果を期待する声が出るのは当然だ。事実、CERN周辺には世界中の科学者が家族を連れて定住したことで、消費や観光など地域振興が成功している。しかも、ILCが優れているのは、その効果が続く「期間」だ。どんなに「頑張れ、ニッポン!」「万博で大阪を元気に!」と叫んだどころで、五輪や万博というイベントは数週間から半年ほどで閉店ガラガラとなって、後には莫大な維持費がかかる「負の遺産」が残ってしまう。事実、東京五輪で新たに建設されている競技施設も既に大赤字が試算されている。

 が、ILCは違う。世界中からさまざまな研究者が訪れ、入れ替わり立ち替わり30年近く研究が続けられるという。設立から60年を経たCERNが活況していることや、素粒子物理研究の性格からしても、極めて息の長い研究施設になる見込みなのだ。

 そのような意味では、ILC計画とは、日本の東北で「科学のオリンピック」を30年間ぶっ続けで開催をするようなものと言っていいかもしれない。

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