■戦車は敵と戦う前に故障と戦う

 日常使うクルマはエンジンキーを回しさえすれば、すぐにエンジンが掛かって走らせることができます。日本の国産車は年1回の定期点検程度で十分、故障することもほとんどありません。一方戦車は違います。カタログデーター通りの性能をいつも発揮できるのはゲーム上だけのお話で、この戦車は動くけど砲が撃てない。こっちは照準装置が不調。あっちは無線機の調子が悪い。などというのが戦車部隊の実情です。

普通のクルマを運転する時、アクセルは精々踏み込んでも半分ぐらいで、いっぱいまで踏み込むことはほとんどないと思います。しかし戦車の場合は常に8割ほど踏み込んでおり、フルアクセルもしょっちゅうです。くるまが旋回するときは遠心力を抑えるためアクセルを緩めますが、戦車は覆帯の抵抗が大きくなるので逆にアクセルを踏み込みます。つねにエンジンやトランスミッション、覆帯には大きなストレスが掛かっています。

そもそも戦車は走り回るのは苦手です。重い鋼鉄の塊を大馬力のエンジンで、走行抵抗の大きな覆帯(いわゆるキャタピラー)を回して無理やり動かしているのです。動けば動くだけ壊れるのが戦車で、普通のクルマとは故障頻度の桁が違います。戦車は敵と戦う前に故障と戦わなければならないのです。

■WW2の戦車大国、独ソではどうだった?

 第二次大戦初期のドイツ軍戦車部隊といえば「電撃戦」でさっそうと進撃したイメージがありますが、実際はそうでもありません。たとえば1938(昭和13)年のオーストリア進駐時、ドイツ軍戦車部隊は700kmを行軍して30%近くが故障して落伍しています。まだ開戦前であり戦闘を交えず舗装道路をただ走っただけです。進撃路脇には故障して立ち往生しているドイツ戦車が点々といたのです。

 優秀なT-34戦車を生み出したソ連も「負けていません」。ドイツとの戦端が開かれた1941(昭和16)年6月22日からのバルバロッサ作戦で、もっとも装備が充実していたとされるソ連第32戦車師団は、最初の1ヶ月で配備していたKV-1重戦車49両の内37両、T-34中戦車173両の内146両を失っています。ほぼ全滅ですが戦闘損失は3割に過ぎず、5割が行軍途中の燃料切れと故障、2割が戦車兵の未熟な操縦による事故による損失と記録されています。

ある研究では、戦車は走行距離300kmで1回故障すると見なされており、これを1個戦車師団に当てはめると1時間の行軍で2%から20%の戦車が故障で落伍することになるとされています。戦車を万全な状態に保つには1日約8時間マンアワーの労力が必要と言われ、戦車兵の仕事は戦車に乗っているより、工具を握っている時間の方が長いといっても過言ではありません。

■稼働率100%は無理

 部隊が持っているどれだけの戦車がまともに走って撃てるかを表す「稼働率」という管理指標があります。エンジンキーをひねればすぐ動く普通のクルマは稼働率100%ということになります。

湾岸戦争でアメリカ軍戦車の稼働率は70%以上をキープしましたが、この数字さえ驚異的で、これこそ何も無い砂漠のまんなかに補給基地を作ってしまうようなアメリカの後方支援部隊による不眠不休の働きと物量の賜物です。アメリカ軍戦車部隊の指揮官は敵イラク軍の動きよりも、味方の後方支援部隊がどこまで付いてこられるかを気にして作戦を立てたといいます。フランス陸軍は予算の制約でパーツ供給が滞り、戦車の稼働率が約4割まで低下し問題になったこともあります。現代戦車はカタログデーターこそ高性能ですが、この高性能はつねに発揮されるという保証はありません。

続きはソースで

https://contents.trafficnews.jp/image/000/023/980/large_181116_tank_06.jpg

乗りものニュース
https://trafficnews.jp/post/82110