気温上昇で急激に増加する水蒸気量
―降水がより激しくなる可能性を指摘―

1.概要

国立研究開発法人海洋研究開発機構(理事長 平 朝彦、以下「JAMSTEC」という。)シームレス環境予測研究分野の藤田実季子技術研究員、北海道大学大学院地球環境科学研究院の佐藤友徳准教授らは、GPS衛星電波の大気中の水蒸気による遅れから推定した日本各地における過去15年間の大気全体の水蒸気量(可降水量、※1)と日平均地上気温(以下「地上気温」という。)との関係を解析したところ、これまでに予想されていたよりも大きい変化率で気温上昇に対して可降水量が増加していることを明らかにしました。

一般的に大気中の水蒸気量は、気温上昇とともに特定の変化率で増加する性質を持っています。ところが、現実の大気では地上気温が上昇すると、上空の気温と水蒸気の分布も変化するため(図1)、地上観測のデータから上空の水蒸気量(※2)を含めた増加率を正確に見積もることは困難です。特に、豪雨の原因となる極端に湿った大気状態を調べるにはデータ量が不十分なため、統計的な解析が難しい状況でした。

そこで本研究では、多数のGPS衛星の電波データから大気中の水蒸気による遅れを抽出したのちに可降水量を推定し、気温上昇に対する増加率を求めました。理論的な手法も取り入れ上空の水蒸気量の変化を考慮した結果、地上気温°C上昇に対する可降水量の増加率は、従来考えられていた7%よりも大きい場合があり、11〜14%にのぼることがわかりました。この値は上空の水蒸気量および気温変動の重要性を示すものです。

上空の水蒸気量と地上で観測される降水量は密接な関係にあり、地球温暖化に伴う地上気温の上昇により大気中の水蒸気量が増加することで、一定時間内に観測される降水量(降水強度)が増す可能性が指摘されています。今回の結果は水蒸気量の観測結果ですが、降水についても想定より強くなる可能性を示しており、将来の降水強度の変化を理解する上で大いに役立てられます。

なお、本研究は環境省環境研究総合推進費(研究代表者:いずれも藤田実季子、課題番号RFa11-01、2RF-1304)、JSPS科研費の若手研究B(研究代表者:藤田実季子、課題番号15K16316)、若手研究A(研究代表者:佐藤友徳、課題番号15H05464)、文部科学省気候変動適応技術社会実装プログラムの支援を受けて行われました。

本成果は、英科学誌「Scientific Reports」に7月6日付け(日本時間)で掲載される予定です。

タイトル:Observed behaviours of precipitable water vapour and precipitation intensity in response to upper air profiles estimated from surface air temperature
著者:藤田実季子1、佐藤友徳2
1. JAMSTECシームレス環境予測研究分野、2. 北海道大学大学院地球環境科学研究院
--- 引用ここまで 全文は引用元参照 ---

▽引用元:JAMSTEC海洋研究開発機構 2017年 7月6日
http://www.jamstec.go.jp/j/about/press_release/20170706/