ヤフーニュース10/17(日) 18:03
https://news.yahoo.co.jp/byline/matsumotoatsushi/20211017-00263464

日本のアニメ作品は世界でも人気があり「日本アニメは世界一」というイメージを持っている人も少なくないのではないだろうか。しかし、拡大を続けていたアニメ制作業界の市場規模が2020年、縮小に転じた。背景には新型コロナウイルスの影響、そして海外のアニメ制作現場の成長を指摘する声もある。海外のアニメ制作現場の成長によって、日本アニメが他国に“負ける”日は来るのか。動画配信サービスの広がりによって変化する世界のアニメ市場と、成長する中韓アニメについて、外国人向けの日本アニメ関連サービスを運営する2社に聞いた。

●制作業界の市場規模縮小、向上する海外の技術
「『アニメ制作業界』動向調査」(帝国データバンク)によると、アニメ制作業界の市場規模(事業者売上高ベース)は、2019年まで9年連続で拡大していたが、2020年には2510億8100万円(前年比1.8%減)と縮小した。背景には新型コロナウイルスの影響による制作スケジュールや公開の遅延のほか、海外産アニメやその制作会社の成長を指摘する声もある。

コロナ禍で急速に広まった動画配信サービスでは、中国や韓国で制作されたアニメを見かけるようになってきた。同調査では「中国勢の台頭で『アニメバブル崩壊』再来の可能性、収益体質の改善急務」と分析する。

たしかに、近年、海外の技術は向上している。その背景には、日本の制作会社が中国など海外に制作の一部を外注することが当たり前になっていること、海外から日本の制作会社に来た人材が学んだ技術を本国へ持ち帰っていることなどもある。このような状況を受けて、「このままでは日本のアニメが中国に負けてしまう」というコラムなども散見されるが、アニメ産業の紆余曲折を見てきた筆者にはそのような指摘は的外れに映る。

●「日本風」アニメ作品を中韓が制作
はじめに確認したいのは、世界のアニメのトレンドはディズニー・ピクサーに代表されるようなCGを用いて写実的な表現を目指す「フォトリアル」という手法を用いたもので、線画で漫画のような表現を重視する日本で一般的な「セルルック」とも呼ばれるアニメはそもそも市場規模において世界のメインストリームとは言えないという点だ。ただ、そのような手法が特徴的な日本風アニメのファンは世界中におり、中国や韓国が日本風のアニメ作品を制作するなど、世界でも一つの「ジャンル」として確立されている。

昨年、コロナ禍で動画配信サービスが急速に広がり、韓国ドラマを視聴する機会も増えた。日本でも話題になった『梨泰院クラス』は、韓国漫画が原作だ。また、韓国漫画が原作のアニメ『神之塔 -Tower of God-』は、アニメの制作は日本のスタジオが担当し8言語で世界展開され、日本国内でも地上波放送された。中国アニメでは『羅小黒戦記』(シャオヘイセンキ)が日本でも劇場公開され、高い評価を受けた。いずれもフォトリアルではなく「セルルック」の作品だ。海外にいる従来の日本アニメファンは、このような中国や韓国由来の日本アニメ風作品をどう受け止めているのか。

海外でのアニメファンの受け皿の1つともなっている、世界最大級を謳う米国生まれの日本アニメ・漫画のコミュニティーサービス「MyAnimeList」の代表・溝口氏に聞いた。

「MyAnimeList」では、作品ごとに用意されたページに作品概要や最新ニュースを紹介し、SNSとしてコミュニティが活性化する働きかけを行っている。10月時点でMyAnimeListでの『羅小黒戦記』のコミュニティ(作品掲示板)のユーザーは1万2000人超とかなり限定的だ。「そもそも日本と中国以外で観られる環境がないので、これは仕方が無い。仮にNetflixなどで配信されれば様子が変わるかも知れないが、現状では中国出身者などアジア系の人しか認知していないはず」(溝口氏)

一方で『神之塔 -Tower of God-』は比較的人気が高い。これはタイミングもあるという。2020年の春、つまりコロナ禍のなか大作アニメが軒並み放送延期となるなかで、予定通り放送できたことが人気を底上げしたというわけだ。ただそれ以上に、韓国の原作マンガ(Webtoon)が45億回以上の閲覧数を持ち、すでに数多くのファンがいたという点が大きいと溝口氏はいう。

「『神之塔』は、明確に韓国のマンガが原作だと意識した上で、海外の日本風アニメファンから評価されています。MyAnimeListにいる人たちが求めているものって『日本製であること』というよりかは、日本の文化的なアニメーションの様式みたいなものがきっと好きなんですよね」

●一般層に拡大するアニメ市場
これまで海外では「アニメは子どもが見るもの」という受け止め方で、日本のアニメを熱心に見るのはいわゆるオタクというイメージが根強かった(長文の為以下リンク先で)。