2021年11月16日 21時32分

PASMO、Suica、nanacoなど。国内の電子マネーに欠かせないのが、「フェリカ」と呼ばれる技術です。日本の“支払い”を一変させたとも言えるこの技術。開発責任者を務めていたのは、ソニーの元技術者、日下部進さんです。技術者として、いまも現場の最前線に立ち続ける日下部さん。フェリカはどのようにして生まれたのか。そして今、新たに何を生み出そうとしているのか、聞きました。(経済部記者 岡谷宏基)





あるエンジニアとの出会い

「天才的なエンジニアがいる。会ってみないか」

取材先にそう紹介され私が訪ねたのは、元ソニーの技術者、日下部進さんです。早速訪れた都内の自宅で、日下部さんが見せてくれたのは、中の構造が見える透明の「Suica」です。

「ここが1つのコンピューターシステムになっています」

日下部さんが指さしたのは、Suicaの中にはめ込まれた指先ほどの小さな丸い装置。電子マネーによる日々の決済を可能にする、まさに“心臓部”です。

日下部さんが中心となって開発した通信技術「フェリカ」。「Suica」「PASMO」「Apple Pay」など、いまやさまざまな電子マネーで使われています。





始まりは倉庫の無線ICタグ

フェリカのベースになる技術の開発が始まったのは1988年。ソニーで情報処理の研究をしていた、わずか数人のチームで始まりました。

しかし当初開発しようとしていたのは、電子マネーではなく、物流倉庫で商品の仕分けに使う「無線ICタグ」。できあがったICタグは、コスト面から採用されませんでしたが、これがフェリカの原型になります。

その後、日下部さんたちはこの技術をカードに搭載することに成功。1990年には社員証に搭載し、ビルの入退館の管理システムとして利用できるようになりました。

この技術に大きな可能性を感じていた日下部さん。

ただ当初は、電池が搭載されていて、電子マネーの機能も無く、思うように普及が進みませんでした。




転機は香港での挑戦

転機となったのは、香港で始まったある取り組みです。

当時香港では、世界に先駆けて、非接触型のICカードを電車の乗り降りや売店での決済などに導入しようとしていました。このプロジェクトに、技術を売り込むことにしたのです。

最初に仕様書を見た時の驚きを、日下部さんはこう語ります。

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日下部さん
「要求は当時のソニーが持っていない技術ばかりで、相当難しいと感じた」
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日下部さんたちが乗り越えなければならなかった壁。

その1つが、カードを電車の乗り降りだけでなく、売店での買い物など、複数の使い方に対応できるようにすることでした。
それまでのカードは、「乗車券」「ビルの入館証」など1つの用途しか想定していませんでした。複数の使い方に対応させるには、より高い処理能力を持つチップの開発が不可欠です。

その難しさを、日下部さんはこう表現していました。

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日下部さん
「数ミリの小さなコンピューターを作るようなもの」
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もう1つの壁。

それは、いつでもどこでも持ち歩けるよう、電池を内蔵しない、クレジットカードのようなコンパクトな形にすることです。しかし、チップを動かすには、電気が必要です。

電池なしにどうやって動かすのか。そこで思いついたのが、磁波の利用です。
改札機などから微弱な磁波を出し、それをカードに埋め込んだアンテナがキャッチ。コイルに電流が流れる仕組みを完成させたのです。

日下部さんたちは競争を勝ち抜き、ついに香港でフェリカの採用が決まりました。技術開発のスタートから、実に8年がたっていました。





Suicaに採用、国内に普及
     ===== 後略 =====
全文は下記URLで
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20211116/k10013349601000.html