「一部の政治家からは、全てを電気自動車にすればいいんだとか、製造業は時代遅れだという声を聞くこともあるが、違うと思う」。トヨタ自動車の豊田章男社長の発言が波紋を広げている。実態を踏まえない国の「脱炭素」方針を痛烈に批判、電気自動車(EV)偏重が続いた場合、日本の自動車産業の雇用が失われると懸念を示す。

 菅義偉政権は、2030年度の温室効果ガス排出量を13年度比で46%削減する目標を掲げるが、日本自動車工業会(自工会)会長として記者会見した豊田氏は「目標値を示すだけで、日本の実情を踏まえて決められたものではなく、欧州の流れに沿ったやり方だ」と指摘した。

 欧州連合(EU)は2035年にハイブリッド(HV)車を含むガソリン車の新車販売を事実上禁止する方針を打ち出した。米バイデン政権も30年に排ガスを出さない新車を50%に引き上げる目標を掲げるなどEVへの移行に前のめりだ。

 国内でも菅首相は1月、「35年までに、新車販売で電動車100%を実現する」と宣言、小池百合子都知事も昨年12月、「乗用車を30年までに『100%非ガソリン化』することを目指す」と述べている。

トヨタは30年のEVと燃料電池自動車(FCV)販売台数目標を200万台と発表。ハイブリッド車(HV)を含めて電動車全体の目標販売台数を800万台とする。ホンダは40年に全ての新車販売をEVとFCVにする方針を打ち出している。

 ただ、日本での自動車製造は火力発電などに依存している。欧米の動きに追随してHVが規制され、EV一辺倒となった場合、「日本の車は輸出できなくなる。雇用を失うことにもつながる」と豊田氏は危機感を示す。

 日本の自動車業界による二酸化炭素(CO2)の排出量が欧米諸国よりも圧倒的に減少していることに触れ、「私たちの敵は炭素であり、内燃機関(エンジン)ではない」ともクギを刺した。

 豊田氏の発言について自動車ジャーナリストの佐藤篤司氏は「業界全体が脱炭素に向けて努力しているなか、知識なく発言する政治家に勉強してほしいという思いなのだろう。自民党総裁選を控えているだけになおさら強調しておきたかったはずだ。またサプライチェーン(供給網)に安心感も与えたかったのだろう」との見方を示した。
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