トリクルダウン理論は「富める者が富めば、貧しい者も自然に豊かになる」という経済に関する仮説で、大企業や富裕層の支援政策を実施する際の論拠として引用されてきました。しかし、先進国で実施されたトリクルダウン関連政策を分析したところ「富裕層がさらに富む効果しかない」ことがわかったと、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスの研究チームが発表しました。

ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスのデヴィット・ホープ氏とジュリアン・リンバーグ氏が新たに公開した論文は、アメリカ・日本などの経済協力開発機構(OECD)加盟18カ国が1965年から2015年までの50年間に実施してきた富裕層に対する減税政策に関する分析です。

ホープ氏らは富裕層への課税の推移を考えるため、所得税・富裕税・相続税などから「富裕層にかかる課税の総合指標」を算出。この総合指標の推移を各国ごとに可視化したグラフを作成しました。このグラフ内の赤線は、各国の政権が実施した「富裕層に対する大幅な減税が実施された年度」を指しており、USA(アメリカ)においてはロナルド・レーガン政権がレーガノミクスの一環として実施した1982年と1987年の減税が、UK(イギリス)においてはサッチャー政権が実施した1979年と1988年の減税が挙げられています。
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一方、以下は「全資産のうち、上位1%が保有する資産の割合」を示したグラフ。ホープ氏らによると、この2つのグラフを比較すると、所得上位1%が保有する資産の割合が特に増加した時期は、富裕層への税を引き下げた時期に一致しているとのこと。
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ホープ氏らは、富裕層に対する大幅な減税政策を実施した国を調べ上げ、減税政策実施のタイミングで当該国とそれ以外の国の経済状況を比較するという調査を実施。その結果、大幅な減税を実施した国では、減税政策実施から5年間で所得上位1%が0.8%以上の所得シェアを伸ばした一方で、経済成長と失業率がほぼ横ばいだったことが判明しました。つまり、富裕層に対して大幅な減税政策を実施しても経済成長と失業率は変わらず、「富裕層の資産が増大するだけ」ということになります。

ホープ氏らは新型コロナウイルスパンデミックによって、税金引き上げを検討している政府は多いと述べて、富裕層に対する増税がパンデミック下に生じた政府支出と社会保障費の拡大に対する答えになる可能性があると主張。歴史的には戦争や大恐慌の際に富裕層への増税が実施されたという点を指摘して、富裕層に対する減税が経済効果を生み出さないという今回の研究結果を考慮に入れるように促しました。
https://gigazine.net/news/20210109-tax-cuts-rich-no-trickle-down/