国が緊急事態を宣言しコロナショックはさらに深刻になっている。外出自粛で消費は止まり、かつてない経済危機がそこまで来ている。私たちはどう乗り越えればいいのか。そのヒントを紹介しよう。

 国内外の銀行で活躍し「金融界のレジェンド」とも評された藤巻健史さん。本誌でコラム「虎穴に入らずんばフジマキに聞け」を長年連載していたことでもおなじみだ。日本経済の構造的な問題を訴え、『日本・破綻寸前 自分のお金はこうして守れ!』を3月に出した。

 朝日新聞の原真人編集委員は、いち早く「アベノミクス」の危険性を指摘。日本銀行の株価底上げ策などに警鐘を鳴らしてきた。

 2人は2019年12月13日号で「Xデーに備えよ!」のテーマで対談。政府の財政や日銀の健全性が揺らぐなか、危機が現実化すると呼びかけていた。今回は新型コロナウイルスの感染拡大を受け、日本経済の未来を予測した。

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■藤巻健史

 コロナショックは経済的にすごい状況になっている。外国人は日本人より危機感がある。海外金融機関のトップの意識と比べると、日本はまだ危機感がないのかなと思う。

 これから倒産や失業がかなり出てくる。企業の売り上げが止まることで、資金繰り倒産が相次ぐだろう。大手電機メーカーに勤め約30年前に亡くなった私の父が、「売り上げが10%減れば資金繰りが苦しくなるんだよ」と言っていたことを思い出した。

 日本の株価はいったん下がったものの持ち直し、1割5分くらいしか落ちていない。この株価が持続すれば逆資産効果が働かず、経済は当初予想ほどには悲惨にはならないかもしれない。しかし2番底、3番底を招くようだと、戦後最悪の経済状態が見込まれ、ひょっとすると1929年の世界恐慌以来になるかもしれない。

 経済が回復するにはコロナウイルスを抑える必要がある。ワクチンや薬がすぐに開発されない限り、自粛は長引く。倒産や失業が増えこれから株価は下がる。株価下落の「逆資産効果」で消費はさらに落ち込む。

 政府は大規模な財政出動で経済の悪化を食い止めようとしており、個人も企業もお金をもらうことを考えている。国債を発行して財政出動をするなら、本来は将来の増税を考えないといけない。国債は将来の税収を前借りする「借用書」で、政府が税金で絶対元本を返すから信用される。借金を返さないのであれば、誰も貸してくれなくなる。東日本大震災を受けて復興増税が導入されたが、今回はもっと大きい負担増があるはずだ。増税は景気の足を引っ張るので、V字回復はより難しくなる。

 民間の金融機関や企業はいまは手持ち資金を厚くしたいので、国債を買う余力はない。国債は日銀が買うことになり、財務の健全性が一層危うくなる。

私は日銀がいつかは債務超過になり、日本経済が大混乱すると訴えてきた。それが現実になろうとしている。ほかの国も景気が悪化し株価は暴落するが、日本は中央銀行が危なくなる。金融市場で株式、円、債券の「トリプル安」になり、第2次大戦直後のような混乱が生じかねない。お札(日本銀行券)が事実上“紙くず”になり、新しいお札が登場することも想定される。

 経済が悲惨なことになっても、コロナウイルスはきっかけに過ぎない。財政の規律を緩め通貨の価値を危うくさせる政策のつけが回ってきたのだ。国債を日銀が直接引き受ける「財政ファイナンス」は禁じ手なのに、なし崩し的に行われてきた。

 危機が避けられないのなら、なぜこうなったのかを記録し分析すべきだ。そうしないと将来また同じ間違いが起きる。国は個人を助ける余裕はないので、まず自分で自分の身を守ろう。

 そのためにも世界最悪の赤字国家という日本の窮状を理解しておく。国の借金は約1100兆円で、経済規模を示すGDP比で見ると約240%。財政が悪化している米国でも約110%。日本の経済規模では借金を返すのは無理だ。
以下ソース
https://dot.asahi.com/wa/2020051000023.html?page=1