日本経済新聞 2018/5/14付
https://www.nikkei.com/article/DGXKZO3044466013052018PE8000/

 日本は世界でも資金決済に占める現金の比率が高い国だ。現金の決済をカードや電子マネーなど
電子決済に変えていくキャッシュレス化に関心が集まり、政府も推進の旗を振っている。

 経済産業省の推計では、日本のキャッシュレス決済の比率は2015年で2割弱にとどまり、9割弱の韓国、
6割の中国、40〜50%台の欧米諸国に比べても低い。政府は昨年、この比率を27年に4割に上げる目標を掲げた。

 政府がキャッシュレス化を推進する一つの理由は、インバウンド消費の促進だ。外国人観光客の訪問先は
東京、大阪など大都市だけでなく地方圏にも広がっている。

 ところが地方の小さな飲食店や土産物屋では、クレジットカードが使えないところが多く、
潜在的な外国人の消費需要を取りこぼしているという問題がある。

 キャッシュレス決済と一口に言ってもその手段は多様化している。クレジットカードのほか、
即時に銀行口座からお金が引き落とされるデビットカード、運輸・流通業界などが発行する電子マネー、
中国で急速に普及するQRコードを使った決済などがある。

 零細な飲食店や小売店でキャッシュレス決済が進まない一因に、クレジットカードなどを扱うのに
必要な専用端末と加盟店手数料など費用の問題がある。業界は手数料の引き下げや、専用端末の要らない
QRコード決済の普及などに知恵を絞る必要がある。

 キャッシュレス化の推進は、企業の生産性向上や働き方の改革にもつながる。外食大手
ロイヤルホールディングスは昨年11月、現金の使えないキャッシュレス店舗の実験を始めた。

 東京都中央区のその店舗では、従来は40分かけていた終業時の売り上げ管理作業を、タブレット端末を通じて
瞬時で終えられるようになった。1日1回の店舗を回る現金輸送の仕事もなくなり、店舗運営コストの削減や
従業員の働き方の効率化にもつながるという。

 キャッシュレス化は、企業側の論理だけでは進まない。今の現金決済で不自由を感じていない利用者には、
サービス向上が伴わなければ普及しないだろう。

 政府が補助金を使って関連機器の普及を促すといった政策は、莫大なコストがかかるし、民間の
創意工夫を阻みかねない。キャッシュレス化は利用者本位、民間の競争と革新を通じ進めるべきだ。