スマートフォンや電気自動車(EV)ブームを背景に、新興経済国の企業が設備投資に力を入れている。投資回復の旗振り役が米国、日本など主要先進工業国から今やアジアを中心とした新興国へ広がりつつあり、好調な世界の経済成長に対する一段の追い風となっている。

米モルガン・スタンレーの世界経済共同責任者、チェタン・アーヤ氏は「同時成長に始まり、同時設備投資に移っている」と指摘する。

半導体需要伸びる

韓国の資産運用最大手のミレーアセット・グローバル・インベストメンツのシニア投資アナリスト、ジョアン・セーザル氏によると、昨年設備投資を増やしたアジア企業の割合は全体の約69%と、2016年の48%から増えた。

こうした設備投資の大半は、スマホやEVの増産を受けたものになりそうだ。アップルの新型スマホ「iPhone(アイフォーン)X(テン)」の顔認証機能用のレーザー部品を生産する台湾の穩懋半導体(ウィン・セミコンダクターズ)は今年、設備投資額を17年の40億台湾元(約145億円)から70億台湾元に増額する方針だ。携帯電話向けの光センサーを生産し、アップル、サムスン両社に供給するオーストリアのAMSは、シンガポールでの能力増強投資を中心に、17年の設備投資額を前年の9170万ユーロ(約120億円)から5億8200万ユーロに大幅に増額。今年はさらに6億ドル(約640億円)を投じる。

ブルームバーグ・インテリジェンス(BI)によれば、米アップル、韓国のサムスン電子などによる相次ぐ新型スマホの発表が半導体業界の需要を喚起し、同業界の全世界での投資は今後1年に3割増が見込まれる。日本や韓国、台湾といったハイテク重視のアジアの輸出業者にとっては朗報だ。

また、市況商品価格の上昇や財政支出の拡大、内需の回復といった要因も、アジア各地の設備投資を押し上げている。ナティクシスのシニアエコノミスト、トリン・グエン氏は、中・長期的にその恩恵を受ける国々の中に、インドネシア、フィリピン、インドを挙げている。

自動車関連の投資についてBIは、欧州、日本、中国の自動車メーカーが今後1年に設備投資をそれぞれ40%、23%、21%増やすと予想。ドイツのフォルクスワーゲン(VW)は運転手なしで走るEV版「ロボットタクシー」時代に向けた技術開発のために、今後5年で340億ユーロ余りを投じる予定だ。

ただ米国と主要貿易相手国の間の緊張が続く中、世界中の至る所で設備投資が回復しているというわけではない。南米の雄、ブラジルのリセッション(景気後退)や長引く北米自由貿易協定(NAFTA)再交渉で金融市場の値動きが不安定化しているメキシコなど、域内大国の影響を受ける中南米地域では、力強い投資回復の動きはみられない。

ブルームバーグのデータによると、中南米の大手20社による設備投資は16年に21%減の518億ドル、同地域最大の設備投資額を誇ってきたブラジル国営石油会社ペトロブラスによる同年の設備投資は75億ドル減の142億3000万ドルだった。17年初めの暫定値からも、広範な投資低迷が続いていることが示され、「中核国の投資は芳しくない」(スタンダード・チャータードの米州経済調査部責任者、マイケル・モラン氏)状態だ。

中南米でも上向く

それでも18年年初には期待が持てるようになった。メキシコの大手通信会社、アメリカ・モビルが今年の設備投資を80億ドルと、17年から5億ドルの増額を発表するなど、複数の企業が投資計画を明らかにしている。モラン氏は、市況商品価格の上昇と国内借り入れコストの低下の組み合わせが中南米地域の巨大経済国の一部で見受けられ、それが企業による設備投資増額につながっていると分析する。

ウェルスファーゴ証券のグローバルエコノミスト、ジェイ・ブライソン氏は「世界中で増加している需要がすぐになくなることはなさそうだ。世界で金利が上がり始めても、今年の投資の重しになるほど急には上昇しないだろう。設備投資の回復はかなり持続する」との見方を示した。(ブルームバーグ Enda Curran、Vivianne Rodrigues)
2018.3.17 06:02
https://www.sankeibiz.jp/macro/news/180317/mcb1803170500003-n1.htm