トランプ米政権は12日、2019会計年度(18年10月〜19年9月)の予算教書を議会に提出した。財政赤字は7年ぶりの大きさとなる9840億ドルに悪化すると見込んだが、同試算は経済成長率を甘めに見積もった楽観シナリオだ。赤字幅は1兆1500億ドルに達するとの民間試算もあり、金融市場の財政不安は日に日に強まっている。

「財政赤字は1兆ドルを超えてはいけないというメッセージだ」。米行政管理予算局(OMB)のマルバニー局長は12日、ホワイトハウスでの記者会見でそう力説した。金融市場では米国債の大増発懸念が浮かぶ。予算教書では19年度の財政赤字を何とか1兆ドル未満にとどめ、28年度には3630億ドルまで圧縮するプランも提示した。

 米財政は08年のリーマン・ショック直後に急激に悪化。09年度の赤字幅は1.4兆ドルと国内総生産(GDP)比で10%弱に膨らんだ。その後は財政再建が進んだが、トランプ政権の大型減税と歳出増で、財政不安が再び台頭。市場は健全化の道筋を注視している。

 トランプ政権が12日に提示したシナリオは、極めて楽観的だ。米経済の潜在成長率は2%弱だが、実質成長率が19年には3.2%に高まり、24年まで3%を維持するとした。巨額減税を決めたにもかかわらず、高成長が続いて1年間の歳入は10年後に2.5兆ドルも増えると試算した。

 歳出削減も具体策に乏しい。連邦政府予算の構成は、社会保障費など「義務的経費」が6割を占め、国防費や公共事業費などの「裁量的経費」は3割ある。トランプ政権はその裁量的経費のうち1年間の国防予算を10年後に3割も増やし、一方で非国防費は3割も減らす極端な予算を組んだ。

 「2ペニー計画」。非国防費の削減で盛り込んだのは、予算1ドルあたり2セントを削るという漠然とした策だ。同計画と連邦政府の組織再編だけで、10年間で合計1.5兆ドルもの歳出カットを見込む。生活保護など社会保障費でも1.8兆ドルの歳出減を実現するという。

 トランプ政権は18年度の予算教書でも、「裁量的経費」のうち非国防費を540億ドル減らすとしていた。それが米議会は9日、非国防費も630億ドル増やす巨額の歳出引き上げ策を一転して決めた。政権の歳出カット策は、議会審議の面でも実現可能性に乏しい。

 超党派の調査機関「責任ある連邦予算委員会」は、17年度に6657億ドルだった財政赤字が、19年度には1兆1500億ドルに拡大すると試算する。GDP比では5%を超え、金融危機時を除けば「双子の赤字」が懸念された1980年代以来の水準に悪化する。

 予算教書では社会保障費の圧縮計画を盛ったが、それでも1年間の関連歳出は10年で1.6倍に膨らむ。楽観シナリオを置いても、高齢化による医療費などの自然増は避けられない。予算は雪だるま式に膨らみ、日本などと同様に簡単には緊縮予算に転じられない。

 「雇用が好調な経済環境で、財政赤字がこれほど膨らむのは極めて異例だ」。ゴールドマン・サックスのヤン・ハチウス氏は危惧する。米経済は財政刺激よりも財政再建の好機にみえるが、中間選挙を控える米政権と米議会にその機運はない。

 米債務の膨張は、債券安と株安の連鎖を招いた。財政懸念がさらに強まれば、長期的には基軸通貨ドルの信認をも傷つけ、世界経済の大きな不安要素となる。
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO26835540T10C18A2EA1000/