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妊娠中の母親の血液から胎児と父親の親子関係をDNA鑑定する「出生前DNA鑑定」を行う業者が、昨年2月時点で少なくとも10社存在することが厚生労働省研究班(研究代表者=高田史男北里大教授)の調査で分かった。いずれの業者も人工中絶ができる妊娠22週前に結果が分かるとしており、生まれてくる子供の父親が誰かによって中絶を選ぶことが可能だ。研究班は「鑑定技術が生命の選択に関わる領域に進出し、規制を受けないまま事業を展開している」として、規制の必要性を訴えている。

料金は20万円前後
 研究班によると、業者が提供しているのは胎児のDNAが含まれる妊婦の血液と、父親と考えられる男性の口内の粘膜を送ってもらい、DNA検査で親子関係の有無を調べるサービス。料金は20万円前後で、一部の業者のホームページには「男性が使った歯ブラシやたばこの吸い殻からも鑑定可能」などと出ており、男性の同意なしに鑑定を行うこともできる。

 妊婦の採血は病院で行うが、採血のキットを送り近くの医療機関を紹介してくれる業者もあり、産婦人科以外で採取することが可能だ。研究班は「指先から自分で採った少量の血液で胎児の性別を調べる検査がすでに販売されており、今後は医療機関の関与がないまま採血し、親子鑑定できるようになる可能性もある」と指摘。鑑定結果がどこまで信頼できるかも不明だ。

学会の規制対象外−「誰が親かで命の選択」
 妊婦の血液から胎児のDNAを調べる検査としては、胎児の染色体異常を調べる「新型出生前診断」がある。しかし、安易な中絶を助長する可能性があり、遺伝カウンセリングで正しい情報を提供するなどの条件をつけて、限定的に行われている。

 日本産科婦人科学会は、法的に必要な場合を除き、「出生前親子鑑定など医療目的ではない遺伝子解析・検査を行ってはならない」と指針で定めている。しかし、今回のように産婦人科医が関与しないまま行われる鑑定では、指針の効力は及ばない。

 研究班は「母体血による親子鑑定は、誰が親であるかによって命の選択がなされることにつながる」として、遺伝学的検査の規制の必要性を訴えている。

ずさんな現状−ガイドライン順守は6割未満
 さらに、研究班の調査では親子鑑定に限らず、病気のなりやすさや太りやすさなどの体質、潜在能力などを遺伝子から判定する「遺伝子検査」全般をめぐるずさんな現状も明らかになった。研究班が「現在、遺伝子検査サービスを提供している」とした73業者を分析したところ、遺伝カウンセリングの体制整備などを定めた経済産業省の個人遺伝情報保護ガイドライン(指針)を順守していたのは41社と、6割に満たないことが分かったのだ。

検査の質についても不明な業者が多かった。73業者のうち3割が、「検体の分析を行っている委託業者などがどの指針に従った分析をしているかわからない」と回答。遺伝子検査では民族によって結果の読み取り方が異なることがあるが、日本人の遺伝子解析解釈結果で判断しているとした業者も4割に満たなかった。

 高田教授などによると、医療行為であれば厚労省が厳しく監督するが、医療機関で行われない遺伝子検査は経済産業省が監督しているという。高田教授は「医療なら厳しくビジネスなら緩いという国は他にない」として、遺伝子検査の一律の基準づくりや規制の必要性を訴えている。
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