衆院選で与党が優勢に戦いを進めた背景にはアベノミクスがある。与党側は雇用の改善といった成果を強調し、有権者から一定の支持を得た。安倍首相は自身の経済政策は正しかったとして、「再加速」しようとしている。だが、成果は“まやかし”だと指摘する専門家は多い。広がる格差、増えない家計所得……。その“後始末”はこれから始まる。

「アベノミクスの『3本の矢』を放つことで日本経済の停滞を打破し、マイナスからプラス成長へと大きく転換することができました」

 安倍首相は、衆院解散を表明した9月25日の会見でこう発言。数値を挙げて、実績をアピールした。

 国内総生産(GDP)は11年ぶりに6四半期連続でプラス成長を続けている。雇用者数は200万人増加し、正社員の有効求人倍率は1倍を超えた。大学新卒者の就職率は過去最高を更新している。

 確かにアベノミクスにはそれなりの効果はあった。大幅な金融緩和や積極的な財政支出、規制緩和などによる成長戦略という「3本の矢」は、不況時にやるべき経済政策で、何も目新しいものではない。やるべきことをやれば、ある程度効果が出てくるのは当然だ。

 問題は、効果があったとしても負の側面は必ずあるのに、それを政権が直視していないことだ。例えば株価の上昇は、経済全体で見ればプラスの面が多い。だが、株式などに積極的に投資している世帯は2〜3割程度。大半の人にとって、株価上昇の恩恵は直接的には感じられない。株価が上がれば上がるほど、株式を持つ人と持たざる人との資産格差は広がっていく。

 安倍首相の選挙中の主張では、こうした負の側面に触れず、「アベノミクスの加速で所得が向上する」といったバラ色の未来ばかり訴えているように見える。

 経済評論家の斎藤満氏はこう批判する。

「アベノミクスによって潤っているのは企業だけ。企業の業績が良くなれば社員の給料も上がり、所得や消費に回すお金も増えていくと主張する『トリクルダウン』なんてまやかしです」

財務省の法人企業統計によると、金融、保険を除く全産業の経常利益は、直近の2017年4〜6月期に過去最高の22兆3900億円に達した。第2次安倍政権が発足した12年10〜12月期の12兆7901億円から約10兆円増えたことになる。企業はもうかっているのだ。

 これに対し、企業の人件費は44兆3692億円から43兆447億円へと、横ばいにとどまっている。

 経常利益は、売り上げから営業活動に必要な経費を差し引いたものだ。人件費も必要経費に含まれる。企業は従業員の給料を抑えつつ、もうけを増やしてきた。

 この期間に、企業が手元にため込んだ「内部留保」(利益剰余金)は、12年度の304兆円から16年度に406兆円に増えている。

 企業ばかりもうかり、そのお金は使われないまま社内に積み上がっていく。一方で給料は増えず、家計は苦しい。こうした構図が見て取れる。

「給与が増えなければ消費に回すお金もなかなか増えていきません」(斎藤氏)

 安倍首相が選挙戦でしきりにアピールした「雇用の改善」についても、課題は多い。
以下ソース
https://dot.asahi.com/wa/2017102500010.html?page=1