スティーブ・ジョブズとウォルト・ディズニーは、人生の目標を明確に持った、偉大なリーダーだった。彼らの目的、熱意そしてビジョンの明快さは、周囲にも影響を与えてきた。一方、私たち一般人の多くは、仕事に意味を見いだすことに苦労している。朝起きてやらなければならないことを粛々とやるが、心ここにあらずの状態の人は少なくない。

人生を、のどかで晴れた郊外を走る乗客ととらえる人もいれば、日陰を走り続けているバスの乗客だと考える残念な人もいる。が、こうした人生観は変えることが可能だ。

6年間不満だらけの仕事に耐えた

それを体現したのが、日本でエグゼクティブ・コーチとして活躍するフィリップ・グロル氏だ。ブルトン人である彼は30歳のとき、2000年に日本へ移り住んだ。西洋哲学と仏教が混在する文化に対する興味が移住するモチベーションとなった。それ以前にも、仕事を探すために、日本を13回訪れていたが、いずれのときも「日本語ができない外国人には仕事はない」と失敗に終わっていた。

度重なる挑戦の結果、なんとか日本のあるメーカーのIT部門で働けるようになったのも束の間、その仕事はグロル氏にとって満足のできるものではなかった。もともと彼はクリエーティブな性格で、自己啓発者としてキャリアを積みたいと考えていたのだが、上司から与えられたのは設計の仕事。毎週のように上司に「この部門から異動したい。もう我慢できない」と訴え続けたものの、結局、この仕事に6年間耐えた。

2006年にはようやく、人々を助けることを目的としたエグゼクティブ・コーチング・プロジェクト、「?quilibre 」(エキリーブレ、フランス語で「バランス」の意)を無資本で立ち上げることができた。

これに先駆けグロル氏は、米カリフォルニア大学サンタ・クルーズ校で、最新の自己啓発技術について学び、日本で働く一般の従業員や管理職を対象としたコーチング事業を開始した。

が、しばらく経ってある「傾向」に気が付いた。コーチングを受けた多くの人が、「私はもう大丈夫だが、自分の上司が問題を抱えている」と言うのだ。そして、その上司をコーチングすると、今度は「自分はもう大丈夫だが、CEOが問題を抱えている」と話す。

そこで、グロル氏はまずCEOから働きかけ、その後、その下で働く中間管理職にも同じ指導をする形式を取るようになった。この過程で、グロル氏は東洋哲学や西洋の習慣、そして自身の経験から得たアイデアを融合させ、独自のコーチング・プログラムを作り上げた。

が、コーチング事業を始めた当初は資金的な苦労が絶えず、2年後には断念しようと考えた。それでも、受講した人たちから「このプロジェクトには価値があるからあきらめないでほしい」と背中を押され、踏ん張り続けた。

多くの人は自分が誰だかわかっていない

こうした中、同氏に目を付けたのが、ドイツの食器メーカーであるビレロイ&ボッホの日本法人だった。同社と初の企業契約を結んだのを皮切りに、同社の元CEOや顧客の口コミで、グロル氏のコーチングは徐々に知られるように。現在では、シャネル、ヴァンクリーフ&アーペル、ゴディバ、ペルノ・リカール、そしてシュウウエムラなど、40以上の有名ブランドの幹部がグロル氏の指導を受けるほどになった。

日本にあこがれてやってきたものの、日本でようやく得た仕事で満足感を得られなかったグロル氏。その後、紆余曲折はあったものの、現在では自分の仕事から充足感を得ている。そのグロル氏が、日本の顧客を通じて感じている「問題」とは何だろうか。

同氏によると、多くの人は自分が誰なのかよくわかっていないという。自分を探すには、恐怖や他人の意見に左右されない空間で、誰かに話を聞いてもらう必要がある。グロル氏は、こうした空間を提供することによって、ビジネスリーダーたちのライフワークを見つける手助けをしているという。

グロル氏は、「リーダーシップとは単に他者を導くだけでなく、自分自身について、そして自分の強みや方向性を知っていて、自分の人生の舵を切ることだ」と話す。「ジョブズのような人は、目的を先に話す。なぜだろうか??先に個人の目標をのべ、その次にそれを成し得る方法、そこに(それを可能にする)モノが続く。自分の中にある『なぜ』に対する答えを持っていれば、いきいきと過ごせるようになる」。
http://toyokeizai.net/articles/-/181507