【5月19日 AFP】ロシアの新型コロナウイルスの感染者数は世界で2番目に多いが、報告されている死者数は、フランス、イタリア、スペインなどの10分の1にとどまっている。なぜ、ロシアの致死率はこんなにも低いのだろうか。

 ロシアの資金不足の医療システムが、米国や西欧諸国の医療システムよりも流行抑制に成功しているとは信じがたいため、ロシア当局が死者数を実際よりも少なく数えて、危機の規模を小さく見せようとしているとの批判もある。

 だが当局は、新型コロナウイルスが直接の死因となった死者のみを数えているとして、統計の改ざんを否定している。また、ロシアでは流行の波が遅れてきたため、西欧諸国の経験から教訓を学ぶことができたとも説明している。

 なぜ、ロシアは感染率が同程度の国に比べ報告されている死者数が少ないのだろうか。

■隠された死者?

 18日時点で、ロシアで確認された新型コロナウイルスの感染者は29万678人、死者数は2722人となっている。感染者数では米国に次ぎ世界第2位だが、累計死者数では世界第19位、人口100万人当たりの死者数では第65位にとどまっている。

 また統計によると、首都モスクワの4月の死者数は1万1846人で昨年同月よりも1841人多かったが、そのうち新型コロナウイルスによる死者は639人のみとなっている。

 モスクワ市保健当局は13日、「致死率を月単位で比較することは不適切であり、何らかの傾向を示す明白な証拠にはならない」とし、数字の操作を否定した。

 重要なのはモスクワ当局が、新型コロナウイルスによる死者の登録手法が他国の手法と異なるとしている点だ。

■ロシアの死者数の数え方

 死者数の数え方については、感染中に死亡した人をすべて新型コロナウイルスの死者としている国もあれば、ウイルスが主要な役割を果たしたと疑われる例のみとする国、ウイルス由来の合併症が直接の死の原因である場合のみを数える国などさまざまだ。

 ロシアは保守的な集計法を採用している国の一つで、死因が直接関連している場合(多くは肺炎)のみを新型コロナウイルスによる死者として数えている。

 例えば「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)と診断されていた患者が心臓発作で死亡した場合、公式の死因は心臓発作となる」と、モスクワの国立研究大学高等経済学院(National Research University Higher School of Economics)の人口統計学者セルゲイ・ティモニン(Sergei Timonin)氏は説明する。「言い換えれば、新型コロナウイルス感染者の死がすべて新型コロナウイルスによる死として記載されるわけではない」

■高い検査率

 ロシアは、新型コロナウイルスの検査率が世界で最も高い国の一つだ。これまでに600万件の検査が実施されている。そのため確認された感染者数は非常に多いが、うちほぼ半分の46.5%は無症状感染者だった。

■少ない高齢者

 ロシアでは旧ソ連崩壊後に平均寿命が急激に低下し、他の国で新型ウイルスの打撃を最も受けた世代がほとんどいなくなっていた。全人口に対する65歳以上の割合は、イタリアが23%、スペインが19.3%であるのに対し、ロシアはわずか14.6%だ。

 イタリアでは70歳以上の高齢者が確認された感染者の39%、死者の79%を、スペインでは入院患者の50%、死者の86%をそれぞれ占めていた。

 ロシアはまだ同様の全国統計を発表していないが、モスクワで5月1日以降に確認された感染者のうち65歳以上は16%にとどまっている。

 また多くの国では感染者や死者が介護施設に入居している高齢者に集中しているが、ロシアでは介護施設に入居している高齢者ははるかに少ない。

■病院再編

 ロシアは致死率が低いもう一つの理由として、感染が急拡大する前に他国の状況を見て、ウイルスの拡大前に病院の態勢を整えることができたことを挙げている。

 当局は病院や診療所を早急に新型ウイルス感染症治療施設に変えることで、新型コロナウイルス感染者用の病床数を数週間で2万9000床から14万床以上に増やすことができた。13日現在、病床数にはまだ3割の余裕がある。

 一方、医療従事者らは防護具不足や、サンクトペテルブルク(St. Petersburg)やモスクワの病院での致命的な火災の原因となった新しい人工呼吸器などの装備について懸念を表明している。(c)AFP

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