2017年7月、衝撃のニュースがマンボウ界を駆け巡った。

 ある研究者は喜びのあまりインターネット上で暴れ回り、ある研究者はこんなの認められないと怒り狂ったメールを送ってきた。渦中の論文の執筆者の一人である私は、その時悲しくも電波の届かない海の上にいた。

 陸地に戻った後にニュースは世界中を盛り上がらせたことを知るが、マンボウ好きが多いはずの日本ではテレビで大々的に取り上げられるまでには至らなかった。く、悔しい……あれから2年8か月。マンボウ研究で飯を食いたい、日本産ポスドクの闇に抗う私は、謎多き新種「カクレマンボウ」の魅力を皆にとことんお伝えしたいのである!

■新種とは何なのか?

 カクレマンボウ(フグ目マンボウ科マンボウ属)の名を初めて知る人も多いだろう。何せこの種はまだ日本では確認されていない。水族館・博物館が秘密裏に標本を入手しようと狙っている新種のお魚だ。

 マンボウ科魚類は1種と思われがちだが、標準和名と学名(1つの生物に1つしか与えられない世界共通の名前)を併記して紹介すると、マンボウMola mola、ウシマンボウMola alexandrini、ヤリマンボウMasturus lanceolatus、クサビフグRanzania laevisがこれまでに知られ、新参者のカクレマンボウMola tectaを合わせた計5種が現在科学的に認められている。

 今まで見たこともない生物が発見されても、学術論文に記載して公表されなければ、いきなり「新種」としては扱えない。発見されているのに科学的に存在を認められていない状態の種は「未記載種」と呼ばれる。未記載種を新種として公表するには、標本を多数調査し、近縁種との遺伝的・形態的差異を明確にしなければならない。また過去に提唱された関連する種の学名を再度調べ直し、世界基準となるタイプ標本を博物館に登録しなければならない……そう、結構大変なのだ。

文献や標本調査のために世界中を飛び回るはめになり、最初の発見から新種として論文を公表するまでに長いタイムラグが生じるのは、分類学者あるあるの悲しい話。カクレマンボウの場合は新種の証明に至るまで12年もかかった。

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