■道具を使い、厳しい海を渡ったアジアの初期人類、どこがすごい?

人類の系統樹に、新たな枝が加わった。4月10日、フィリピンの研究者が新種の原人を発見したと発表した。

「ホモ・ルゾネンシス(Homo luzonensis、ルソン原人)」と命名された未知の小型人類は、少なくとも6万7000年前から5万年前には、現在のフィリピンのルソン島で暮らしていた。全部で7本の歯と6本の小さな骨がルソン原人と同定された。

 これらの骨では不思議なことに、数百万年前の猿人(アウストラロピテクス)と、もっと進化した人類に見られる特徴が混在していた。この画期的な発見は、4月10日付けの学術誌「ネイチャー」に発表された。東南アジアの島で古人類の証拠が見つかるのは、過去15年間で3件目だ。

(中略)

■見たことのない組み合わせ

2011年と2015年に再び行ったカラオ洞窟の発掘調査で、幸運にも、足の指の骨を2本、歯を7本、手の指の骨2本、そして大腿骨の一部をミハレス氏らは発見した。少なくとも3人分以上の骨だった。

 これらの小さな化石では、意外なことに、とても古い人類とかなり新しい人類の両方の特徴が見られた。例えば、歯は小さく比較的単純な形でより「近代的」だが、上の小臼歯には歯根が3つあった。これは、現生人類では3%未満にしか見られない特徴だ。一方、足の骨はアウストラロピテクスのものと似ている。およそ300万年前、アフリカを歩いていた人類で、かの有名なルーシーも、アウストラロピテクスの仲間である。

「これまで見たこともないような特徴の組み合わせについては、著者と同じ意見です」と、スペイン国立人類進化研究センターの所長マリア・マルティノン=トレス氏は話す。

 古代の歯の専門家で米ニューヨーク大学の人類学者シャラ・ベイリー氏は、南アフリカで見つかったホモ・ナレディ(Homo naledi)にも、古代と近代の両方の特徴があったと述べる。ベイリー氏は、この2種の初期人類の発見を、人類の「モザイク」的な進化が一般的に起こっていた証だと捉えている。

 さらに、マルティノン=トレス氏は、歯の特徴の混じり方が、中国南部の独山県で見つかった1万5000年前の人類の化石と多少似ていると述べる。同氏の研究チームは、この独山の人類化石に関する論文を2月20日付けの学術誌「Scientific Reports」に発表した。これら最近の相次ぐ発見により、アジアの人類は、更新世が幕を下ろす1万2000年前にはすでに驚くほど多様だったことがうかがえる。
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■DNAは見つからず

多くの科学者が今回の徹底した研究を称賛しているものの、わずか13個の小さな骨と歯から種を定義するのは難しい。DNAを抽出しようとしたが、熱帯の暑さと湿度に何千年もさらされたサンプルでよくあるように、うまくいかなかった。

また、ルソン原人が小さいことも、一部の骨の特徴が実際よりも原始的に見える原因となり得る、と米ウィスコンシン大学マディソン校の古人類学者ジョン・ホークス氏は言う。なお同氏は、今回の研究には関わっていない。これが、他の既知の人類との比較を難しくしているという。否定しがたい特徴があり、新種とするのが合理的だと同氏は考えているが、何はともあれ「もっと骨が見つかることを心から望みます」

 ルソン原人は新種であると強く確信している研究者もいる。

「新たに発見した化石について、研究チームはきわめて慎重かつ実に素晴らしい仕事をしています。個人的には、新種の命名は妥当だと思います」とフローレス原人の専門家でオーストラリア、グリフィス大学の考古学者アダム・ブラム氏はメールで述べた。「本当にセンセーショナルな発見です」。なお同氏は、今回の研究には関わっていない。

 今回の論文の筆頭著者で、フランス国立自然史博物館講師のフローラン・デトロワ氏は、そもそも「種」とは、進化の歴史をはっきりさせることを目的に人が作った分類に過ぎず、必ずしも厳然とした生物学的な真実ではない、と付け加える。

「将来、今回の化石は既知の人類の種に分類できることが示され、私たちが間違っていたことがわかったとしても、1つの種に統合して忘れられるだけです。しかしそれまでは、新種に分類すべきだったのだと私は確信していることでしょう」と同氏はメールで述べた。

ナショナルジオグラフィック日本版サイト
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続く)