>>92
それと君の次の点に関しても一言述べておきたい。

> 3極目が中国になると、今でも多分にそうだけど、日本は研究分野は隙間産業でやっていくしかなさそうで、
> 将来もっときついような気がするんだよね。

これは事実だが、その点からしても純理論としての素粒子論はともかく、そのための実験科学としての高エネルギー物理学で日本が今後も競争し続けようとするのは得策でない。
その理由は高エネルギー物理学での競争は、加速エネルギーの大小つまり大雑把に言えば建設できる加速器の大小つまり経済力で検証可能な仮説の範囲の相当部分が決まってしまうという
実に単純明快な勝負という側面が極めて強い。即ち、高エネルギー物理学は貧乏人が金持ちと勝負して勝てる分野ではない、と言い切っても間違いではない。

裏を返せば、前のレスで書いたような新加速技術の研究などを別にすれば、素粒子論の仮説の検証としての高エネルギー物理学の競争は、金持ち必勝・貧乏人必敗であり、
貧乏人には逃げ場としてのニッチに乏しい。(もちろん、華やかなノーベル賞級の新粒子の発見を放棄すれば、Bファクトリーとか既知の粒子の性質の精密測定とかはあるが、
これらは一般国民や他の分野の研究者からすれば、投入する莫大な予算(ランク落ちの加速器だってその運転経費は他の自然科学研究の予算と比べれば莫大な額)に見合った成果とは言い難いという
不満が出るだろう(端的に言えば、例えば、それだけの巨額を毎年投資するならノーベル物理学賞をもっと獲ってしかるべき、とかね)。

この「貧乏人には逃げ場としてのニッチに乏しい」というのは巨大加速器を御本尊とする高エネルギー物理学が典型的だが、いわゆる巨額の研究投資を不可欠とするビッグサイエンス全般に共通の性質だ。

だが、普通の研究予算(つまり1テーマ当り年間数百万〜数億円の規模)で行えるスモールサイエンスの場合は全く違う。
例えば生命科学や材料科学や情報科学など、、これらは典型的なスモールサイエンスだが、これら何れの分野にも学術的に見ても応用的に見ても膨大な数のテーマが存在しており、
上に書いた額の研究費さえ得られれば後は研究者のアイデアが優れているか否か(と勤勉と少しばかりの運)が勝負の分かれ道になる。

そういう意味では、本当の貧乏人では無理でも、日本ぐらいの小金持ちでもチャイナやアメリカやヨーロッパ連合のような大金持ちと充分に勝負できるし、
それら大金持ちと真正面の対決が不利となれば逃げ場としてのニッチも無数にある。
そしてそれらのニッチが実は応用的にも学術的にもとても重要だと後で分かるケースが決して珍しくない、というのがここ10年ほどの日本人のノーベル賞受賞者数人の業績が実証していることだ。

だから、経済的にチャイナに大きく抜かれて今後も差が広がる一方の日本は、経済力の強弱で勝負がほぼ決するビッグサイエンスで真向勝負するのは賢明でない。
前から「生命科学や材料科学や量子情報で」と書いてきたように、スモールサイエンスでこそ日本は勝負すべきなのだ。
そしてその勝負に高い勝率で勝つには、若い才能が安心して基礎研究に専念できる環境と場を整えて提供してあげて安定した研究予算を支給し続けることだ。
今の40代になるまで時限ポストを転々とせねばならないような状況では、どれほど才能があろうと若い人の大半は疲労困憊し擦り減って潰されてしまう。