■オーストラリアの小さな島の固有種「ブランブル・ケイ・メロミス」

オーストラリア沖のある1つの島にしか生息していない、固有種のネズミ「ブランブル・ケイ・メロミス(Melomys rubicola)」が絶滅したと、2019年2月18日、オーストラリア政府が正式に認定した。このネズミは、哺乳類としては世界で初めて気候変動の犠牲になった可能性が高いと、2016年に報告されていた。

 ブランブル・ケイ・メロミスの唯一の生息地は、グレート・バリア・リーフ北部、トレス海峡の東に浮かぶブランブル・ケイ島。しかし、2009年に漁師によって確認されたのを最後に、目撃例がなかった。2014年後半、罠を仕掛けて捕獲を試みたがすべて失敗に終わり、絶滅した可能性が高いと報告された。

 ブランブル・ケイ島は、海抜3メートルほどの小さな島だ。ヨーロッパ人がこの島でネズミを発見したのは1845年。1978年の時点では、数百匹が確認されていた。しかし1998年以降、満潮時の島の面積は4万平方メートルから2万5000平方メートルに縮小した。これにより、島の植生が減少し、ブランブル・ケイ・メロミスの生息地の約97%が失われた。

「絶滅の主な原因は、この海抜の低い小島が過去10年にわたり何度も浸水したことと考えられる。これにより、生息地が劇的に減少しただけでなく、おそらく直接の死因にもなった」とクイーンズランド州環境遺産保護省のイアン・ギンザー氏が率いる研究チームは2016年の報告書に書いている。

「ブランブル・ケイ島のような海抜の低い島では、気候変動による海面上昇のうえに極端な気象現象が重なると、壊滅的な被害が出る」

 地球の海面は、1901年から2010年の間に20センチ近く上昇した。過去6000年で見ても圧倒的な速度だ。しかも、トレス海峡周辺では、1993年から2014年の間に世界平均のほぼ2倍の速さで上昇していた。

 したがって、ブランブル・ケイ・メロミスは、地球温暖化の最初の犠牲者に過ぎず、多くの種が重大な危機に直面している、とギンザー氏らは警告していた。

「何かが最初にならざるを得ないことはわかっていましたが、とても衝撃的なニュースです」と自然保護団体「コンサベーション・インターナショナル」の気候変動生物学の上級研究員リー・ハンナ氏は話す。

 ハンナ氏の研究によれば、生物は5種に1種の割合で気候変動による危機に瀕しているという。小島や山に生息する種は、環境が変わっても逃げる場所がほとんどないため、危険度が最も高いと同氏は指摘する。

「気候変動の恩恵を受ける種ももちろんいるでしょう。しかし、ほとんどの種にとっては、生息域が狭くなります」

 それでも、変化しつつある気候に順応できる保護区を設定し、必要に応じて野生生物を移し、温室効果ガスの排出を減らすことで、最悪の結果を回避できるとハンナ氏は言う。

「ブランブルケイ・メロミスは、救えるはずだったのです」

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ナショナルジオグラフィック日本版サイト
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