超強力なスーパーコンピューターの処理能力をはるかに凌ぎ、産業界全体に変革をもたらす可能性があるとして、量子コンピューターの研究・開発に多額の資金が投入されている。日々報じられる関連ニュースを読み解くために押さえておきたい基礎知識を説明する。

子コンピューターは、ほとんど神秘的といえる量子力学の現象を利用して、処理能力を飛躍的に向上させる。現在、そして将来のもっとも高性能なスーパー・コンピューターの処理能力さえもはるかに凌ぐことが期待されている。

量子コンピューターは従来のコンピューター(古典的コンピューター)を完全に置き換えるものではない。古典的コンピューターは今後も、ほとんどの問題に対処するためのもっとも簡単で経済的な解決策として使われ続けるだろう。だが、量子コンピューターは、材料科学から医薬品研究に至るまで、さまざまな分野に胸躍る進歩をもたらすことが期待されている。すでに、量子コンピューターを用いて、電気自動車用のより軽く強力な電池を開発しようとしたり、新薬開発に役立てたりしようとしている企業もある。

量子コンピューターが持つ力の秘密は、量子ビット(キュービット)を生成し、操作する能力にある。

■「キュービット」とは何か?

現在のコンピューターは、1か0を表す一連の電気パルスまたは光パルスであるビットを用いて演算をする。ツイッターのツイートからメール、iTunesの楽曲、YouTubeの動画に至るまで、さまざまなものが本質的にはこの2進数の長い文字列でできている。

一方、量子コンピューターは演算の単位として通常、電子や光子といった素粒子である「キュービット」を用いる。キュービットを生成し、操作することは科学的・工学的に困難な課題となっている。IBM、グーグル、リゲッティ・コンピューティング(Rigetti Computing)といったいくつかの企業は、深宇宙よりも低温に冷却された超伝導回路を用いている。イオンQ(IonQ)などの他の企業は、超高真空チャンバー内のシリコンチップ上の電磁場に個々の原子を閉じ込める手法を用いている。どちらの場合も、制御された量子状態にあるキュービットを、外部環境から隔絶することを目指している。

キュービットは、いくつかの奇妙な量子的性質を持つ。その結果、相互につながった一連のキュービットは、同数のバイナリー・ビットよりはるかに強力な処理能力を持つことになる。キュービットの不可思議な量子的性質には、「重ね合わせ」として知られる性質や「量子もつれ」と呼ばれる性質がある。

■「重ね合わせ」とは何か?

キュービットは、1と0の数多くの取り得る組み合わせを同時に表せる。このような、同時に複数の状態で存在できる能力を「重ね合わせ」と呼ぶ。研究者は、精密レーザーやマイクロ波ビームを用いてキュービットを操作し、キュービットを重ね合わせ状態にする。

直感に反するこの現象により、重ね合わせ状態にあるいくつかのキュービットを備えた量子コンピューターは、膨大な数の起こり得る結果を同時に並列して処理できる。最終的な計算結果は、キュービットを測定して初めて得られる。測定するとキュービットの量子状態は直ちに1または0に「崩壊」する。

https://cdn.technologyreview.jp/wp-content/uploads/sites/2/2019/02/18140458/062118rigetti0584finalsquare-cropped.jpg
https://www.technologyreview.jp/s/127139/explainer-what-is-a-quantum-computer/
続く)