水道水にせよミネラルウォーターにせよ、生活に不可欠なものとしてあまりにも身近な存在であるために、普段あまり顧みることがない“水”だが、実は極めて不思議な液体なのだという――。


■水のまま凍る“アモルファス氷”とは?

 どこにでも売っている酒をどこで飲もうと同じ味のはずだが、家で飲むのと外で飲むのとでは違いがあり、その理由は“氷”にあるとよくいわれる。それなりのバーで飲むウィスキーのオンザロックは、形も質もいい氷のおかげで、お酒の風味がいっそう引き立つのだろう。そして実際、凍らせ方の違いで、分子レベルで異なる氷が存在することがわかっている。

 基本的に水は0度以下になることで凍りはじめるが、極めてゆっくり凍らせることで、0度以下でもすぐには凍らず、液体の特徴を持ったまま凍る現象が知られている。これはアモルファス氷(amorphous ice)と呼ばれており、分子構造レベルで液体の水の状態のままで凍っているのだ。

 普通、液体(水)から固体(氷)へと状態が移行する際には、液体の流動的な分子構造は徐々に“しっかりとした”規則性を持った分子構造の固体になる。冷蔵庫の冷凍室で作った氷なども分子構造は規則性を備えているのだが、このアモルファス氷は水のように不規則な分子構造のまま氷になっているのだ。なぜ水にこんなことが起こっているのか、驚くべきことに実はあまりよくわかっていないのだ。

 我々にとって最もありふれた身近な“液体”である水だが、実は液体として例外的な特徴を数多く備えており、謎が多い存在だったのである。例えば、水銀は除外するとして、水の持つ非常に強い表面張力についてもよくわかっておらず、また氷になったときに体積が増すというのも液体としては例外的であるという。

 さらに摂氏100度という高い沸点も、その分子サイズからみてもかなり例外的な特徴であるということだ。こうした、水ならではの特徴は70にものぼっているというから驚きだ。水素水や波動水などの何かと話題の飲料水が人々の購買欲を刺激するのも、まだまだ水が謎に満ちた存在であるからかもしれない。

 そして通常の氷とアモルファス氷があるように、水そのものにもどうやら2つの異なる状態があることが最新の研究で指摘されている。同じ水でも2種類の状態があるというのである。

2017.07.08
http://tocana.jp/2017/07/post_13700_entry.html
http://tocana.jp/2017/07/post_13700_entry_2.html

■水には2つの異なる状態がある!?

 スウェーデン・ストックホルム大学の研究チームが先ごろ発表した研究では、X線を使って水の分子を調べる実験を行っている。実験の結果、水には異なる2種類の状態があることわかったということだ。

 通常の氷とアモルファス氷があるように、水にも異なる2つの状態があるのではないかと研究員たちが考えたことが実験の発端だ。X線を使った実験の結果、ある数値を境に分子密度の高い水と、分子密度の低い水に変化するということだ。この2つは同じ水とはいえ別の液体といっていいほど異なっているという。そしてこの変化の間には局所的な揺らぎを引き起こすいくつもの段階があるということだ。

「この新たな研究結果を手短に言えば、水は複雑な液体ではありませんが、2つのシンプルな液体が複雑に混ざり合ったものなのです」と、研究チームのラルス・ペッテルソン氏は説明する。つまり水は1種類の液体ではなく、2つの液体が混ざったものであるということになる。

 実験では2つの異なるタイプのX線イメージング技術を使って、水が非結晶質、ガラス状、凍結液体状態から粘性液体に移行する際の分子間の移動および距離を追跡し、さらに密度の低い粘性液体になるまでの過程も追っている。そして分析の結果、水には2つの異なる状態があることを突き止めたのだ。

 これに先行する昨年の英オックスフォード大学の研究報告では、水は摂氏40度から60度の間で質的な変化を遂げていることが指摘されている。つまり“お冷”と“お湯(白湯)”はまったく別の液体であるということになる。

 今回の研究がこのオックスフォード大学の研究とどう整合性を築き上げられるかは今後の研究を待つことになるが、身近でありながらもミステリアスな水、まさにエイチツゥ〜Oh!とでもいうべきその本質の一端に、迫りつつあることは間違いないようだ。
(文=仲田しんじ)


参考:「Science Alert」、ほか