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(2017.06.01)
「脳年齢」の予測で認知障害や早期死亡の危険性がわかるという、画期的な研究が進められている。

世界中の科学者が、血液や髪のサンプルなど、年齢の測定に使用できる信頼性の高いバイオマーカーの特定に取り組んでいるなか、インペリアル・カレッジ・ロンドンとエジンバラ大学の研究者は、科学誌「Molecular Psychiatry」 で、 神経画像によるアプローチを老年学に追加した最新の研究を発表した。

「我々は、脳のMRIスキャンに基づいて脳の年齢を予測する方法を考え出した」と、この研究を主導するインペリアル・カレッジ・ロンドン医学部のJames Cole博士は説明する。


Brain age predicts mortality Figure1

「我々のアプローチでは、実年齢と脳年齢の間の差を、加齢性の退化のマーカーとして使用している。脳年齢が実年齢よりも高いと予測される場合、何か良からぬことが起こったか起ころうとしていることを示すもので、加齢性の脳疾患や認知障害の危険にさらされている恐れがある」

このアプローチの中心となるのは、脳の容積を測定し、機械学習により、脳の老化の特徴である灰白質と白質の全体的な損失を推定するという、2010年に開発された技術だ。

Cole博士は、2000人以上の健常者の脳のMRIスキャンの公開データを用いて、その人の年齢を正確に予測する、標準化されたマップを作成。73歳の時点でMRIスキャンを受けた1936年生まれの成人669人のデータに適用し、脳年齢の予測スコアを出した。


Brain age predicts mortality Figure2

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分析によれば、実年齢よりも脳年齢の高い人は、握力、肺容量、歩行速度など、老化を測る標準的な身体的尺度において悪化していることが明らかとなった。

より「老けた」脳を持つ人は、80歳までに死亡する確率が統計的に高く、その実年齢と脳年齢の差は平均して男性で8年、女性で2年となっている。


Brain age predicts mortality Figure3

しかし、この技術は臨床現場での使用にはまだ遠い。大きな可能性を秘める技術ではあるが誤差の幅は比較的広く、脳年齢を決定する際の絶対誤差は5年におよぶという。

「いずれは医者のところで脳スキャンをしてもらい、脳が10歳ばかり老けすぎているからダイエットや生活習慣の修正、治療を始めるように、とアドバイスしてもらえるようになるかもしれないが、現時点では、個人レベルで使えるほど十分に正確とはいえない」とCole博士は研究の現状を語っている。

研究チームは現在、スクリーニングの精度を向上させるため、拡散MRIスキャンなど、さまざまなタイプの画像技術を組み込んで、技術のさらなる改良を模索している。

MRIスキャンにともなう高いコストも今のところは難点だが、50万人分の高度な医療データを収集・追跡する大規模なプロジェクト「英国バイオバンク(UK Biobank)」は、将来的にはスケールメリットによりコストを削減できると論証している。

「人は健康について話すとき、常に臓器の「年齢」を語る」と、Cole博士は説明する。 「喫煙者の肺は20歳以上老けていると言われているし、運動や食事に関するオンラインアンケートに答えるだけで「心臓の歳」がわかる。この技術も、最終的にはそうなるかもしれない」

体重指数(BMI)と同じレベルで、脳年齢の健康の指標としてこの技術が使えるようになることを期待したい。

■関連情報

インペリアル・カレッジ・ロンドンの公式サイト
http://www3.imperial.ac.uk/newsandeventspggrp/imperialcollege/newssummary/news_24-4-2017-17-42-52

Molecular Psychiatry誌の研究発表
http://www.nature.com/mp/journal/vaop/ncurrent/full/mp201762a.html?WT.feed_name=subjects_genetics

文/三崎由美子