・アメリカが経済戦争の最強武器を捨てようとしている「愚かな事態」
リブラ叩き、一体どうなるのか…:野口 悠紀雄

アメリカのSNS提供企業であるFacebookが発表した仮想通貨(暗号資産)「リブラ(Libra)」に対して、当初から批判が続き、規制が必要だとの大合唱が起きている。

しかし、本来は、アメリカはリブラを対中経済戦争の強力な武器に使うことができる。それだけでなく、未来社会を中国型管理社会にしないための重要な手段となしうる。

リブラ叩きは愚かな選択だ。
リブラ叩きが始まった

リブラの発表直後に、アメリカ連邦準備理事会(FRB)のジェローム・パウエル議長は、上院委員会で、「リスクを慎重に審査する必要があり、それが1年以内に完了するとは思わない」と述べた。

アメリカの上下両院は、7月16日、17日にリブラに関する公聴会を開いた。ここでは、個人のプライバシーを繰り返し侵害したFacebookへの批判が挙がった。「不祥事を起こしたFacebookは信用できない」、「新しいビジネスを始める前に居住まいを正すべきだ」など、Facebookの資質を問う声が相次いだ。

他方で、Facebookは、規制当局の承認を受けるまでリブラは提供しないとした。このため、リブラの発行を2020年前半とする当初の計画は遅れる可能性が強まった。

国際機関も批判している。国際決済銀行(BIS)は、6月23日、年次経済報告書の「金融におけるIT大手に関する章」を公表した。そこで、リブラが、規制当局や中央銀行の注目を集めていると指摘し、協調して規制上の対応を取る必要があるとした。

国際通貨基金(IMF)は、7月15日、「デジタルマネーの台頭」と題したレポートを公表した。一気に普及する可能性があるとする半面で、個人のプライバシーや金融の安定性で問題があるとし、国際的な規制が必要だとした。

さらに、物価上昇が激しい国では現地通貨がリブラに置き換えられ、中央銀行が金融政策の制御を失う可能性があると警告した。同時に、「いくつかの銀行が間違いなく取り残される。他の銀行も急速に進化しなければいけない」とした。

7月17日に開かれた主要7カ国(G7)財務相・中央銀行総裁会議は、リブラに対して早急な規制の対応をとる必要があるとの認識で一致した。作業部会を設置し、10月に最終報告書をまとめる。

こうした批判の中には、誤解に基づくものも多い。以下では、この問題が未来社会に関する重要な選択であることを指摘したい。
既存の金融体制に大きな影響

リブラは、巨大な通貨圏を形成し、既存の金融機関や中央銀行の金融政策への影響など、さまざまな問題を引き起こす可能性がある。

Facebookの利用者は全世界で24億人とか27億人と言われている。仮にこれらの人々がすべてリブラを使えば、現存するあらゆる通貨圏より大きなものが誕生する。日本銀行券のそれの20倍程度の大きさの通貨圏が形成されるわけだ。

議会や中央銀行がリブラの取り潰しに躍起になるのは、リブラが、潜在的には国家による管理体制に対する本格的な挑戦であるからだ。そして、既得権益を侵すからである。

リブラは、ドルなどに対して価値を安定化させるとしている。それが実現すれば、価値が不安定な弱小通貨国からの資本流出が生じる可能性がある。

日本もその例外ではありえない。日本人にとっても、日銀券よりリブラのほうが、便利であるばかりでなく、長期的円安傾向から免れる、価値が安定した支払い手段になる。日銀は金融緩和政策をいつまでも続けられなくなるだろう。

実は、中国人民元も資本流出の危機に直面する。これは、アメリカと中国の関係で重要な意味を持つ。これについては、本稿の最後で述べよう。

>>2

※全文はリンク先へ(全4P)

2019/07/22 現代ビジネス
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/65997