リモートワークの普及により、アジア諸国への移住希望者が増えている。温暖で快適なレジャー環境や物価の安さが魅力的な一方で、物価の上昇やキャリアの停滞を不安視する声も。移住希望者には気がかりな調査結果も明らかとなっている。

■アジアへの移住希望者が急増 充実したレジャー環境と物価の安さが魅力に

 旅行予約サイト『Booking.com』が行った、2万人のリモートワーカーを対象にしたグローバル調査によると、回答者の3分の1以上が、別の地域への移住や長期滞在を検討しているという。希望の移住先として多くの支持を得たのが、タイ (60%)、ベトナム(52%)、シンガポール(50%)、中国(45%)、香港(39%)などのアジア諸国だ。

 シンガポールのワークスペース予約サイト『MillionSpaces』の共同創設者兼COO、エイドリアン・ピアソン氏は、アジア人気の理由として、「充実したレジャーと仕事の環境が整っている」「新しいビジネスチャンスがある」「地理的なアクセスが良い」ことなどを上げた。

 ピアソン氏は、「リモートワークは、定年後の人々だけでなく、現役世代が自分の好きな地域に住むことができるため、今後もさらに広がっていくだろう」と予測している。

 一方で米メディア『CNBC』のインタビューに応じたアメリカ人女性、マルタ・グルトカ氏は、アジア移住の“リアル”を語った。

 バリでのリモートワーク経験があるというグルトカ氏は、「昔バリに住んでいて、パソコンで仕事をしていた。国境の壁がない仕事をしているなら、働く拠点にバリを選ぶことは非現実的なことではない」と述べている。

 しかし同氏は「バリに住んで働くのは、旅行で行くのとは違った体験になる」と警告している。バリへの移住理由は、“物価の安さ”と“生活の質の良さ”だったそうだが、「バリへの外国人移住者は増加し続けており、物価は劇的に上昇している。知り合いの事業主たちは、より費用対効果が高く異国情緒を楽しめるバンコクに移転した」という。

 物価の安さをあてにしてやってきた移住者によって、物価が上がってしまう現象が起きているようだ。

■安い地域への移住で給与・ボーナス減額の可能性も……

 人事部の幹部を対象にした調査でも、移住希望者にとって気がかりな結果が出ている。

 ロンドンを拠点とするリサーチ会社、Leathwaite(リースウェイト)は、1月に発表したグローバル人事調査の結果について、「リモートワークによって物価の安い地域に移住した社員のキャリアは、限定的なものになる可能性が高い」と結論付けている。

 同調査によると、人事部の幹部の45%が「社員がフルリモートで業務を行う場合、給与とボーナスに影響がある」と回答し、39%は「リモートワークによって昇進に影響がある」と回答している。

 Leathwaiteのマネージングパートナー、アンドリュー・ウォレス氏は、「現代の職場の特徴として、より競争力のある、リモートワークをベースにしたグローバル人材の活用が増えている」と述べた。また各国の主要な上場企業での経歴をもつ幹部らは、「リモートワーカーたちは、より熾烈な世界のライバルたちとの競争に巻き込まれることになる」と考えているという。

 フルタイムでのリモートワークの実現には、世界中のリモートワーカーたちと戦っていく覚悟が必要なようだ。

 これまでのところアジアのどの国も、リモートワーカーの移住に対する見解を示しておらず、今後どのような対応がとられるかも不明だ。それでも、『Booking.com』の地域ディレクター、ヌーノ・ゲレイロ氏は、各国が海外からのリモートワーカーを受け入れるだろうと予測している。
https://news.yahoo.co.jp/articles/b8a10a9ee521affd75749d4ff9551d3aa68b42eb