安倍晋三首相が退陣を表明したが、アベノミクスの期間に日本経済は停滞したため、日本の国際的地位が顕著に低下した。

企業の利益は増加し、株価が上昇したが、非正規就業者を増やして人件費の伸びを抑制したため、実質賃金は下落した。

 その結果、「放置された低生産性と、不安定化した労働市場」という負の遺産がもたらされた。

● 日本経済の国際的な地位低下が 物語るアベノミクスの“幻想”

 アベノミクスとは何だったのかを考えるにあたって、一番簡単なのは、アベノミクスが始まった2012年と19年を比較してみることだ。

 第1に見られる変化は、世界経済における日本の地位が顕著に低下し続けたことだ。

 12年では中国のGDP(国内総生産)は、日本の1.4倍だった。ところが、19年、中国のGDPは日本の2.9倍になった。つまり、乖離が2倍以上に拡大した。

 アベノミクスの期間に、日本経済が停滞する半面で中国が成長したから、こうなったのだ。

 成長したのは中国だけでない。12年のアメリカのGDPは、日本の2.6倍だった。ところが19年には、アメリカのGDPは日本の4.0倍になった。このように、アメリカとの乖離も拡大した。

 同様の傾向は、世界のさまざまな国との間で生じている。

 つまり、12年から19年までの間に、日本は世界の趨勢に立ち遅れ、相対的な地位を低下させたのだ。

 アベノミクスが何をもたらしたかについて、こうした数字ほど雄弁なものはない。

 さまざまな国際比較ランキングでも、日本の地位は低下し続けている。

 12年の国際経営開発研究所(IMD)の世界競争力ランキングで、日本は27位だった。これでも決して高いランキングとはいえないのだが、20年版では、日本は過去最低の34位にまで低下した。

 デジタル技術では、日本は62位だった。対象は63の国・地域だから、最後から2番目ということになる。

● 実質賃金は4.4%下落 増えたのは非正規雇用

 つぎに、国内の経済を見よう。

 毎月勤労統計調査によれば、2012年の実質賃金指数は104.5だった。これが19年には99.9となった。7年間で4.4%の下落だ。

 GDPは低率とはいえ増加したが、実質賃金は、このように低下したのだ。

 名目賃金は上がっている。しかし、この間に消費税率の引き上げがあったので、それに応じて名目賃金が上昇するのは当然のことだ。だから、賃金の動向は、実質値で見る必要がある。

 ところで、安倍内閣は、春闘に介入した。

 それによって、14年以降、毎年2%を超える賃上げが実現した。

 なぜこれが日本全体の賃金上昇につながらなかったのか?

 その理由は、春闘が対象とするのは、労働者全体の中のごく一部にすぎないことだ。

 「春闘賃上げ率」で集計される対象は、資本金10億円以上かつ従業員1000人以上の労働組合がある企業だ。

 しかし、これは経済全体の一部でしかない。実際、製造業の資本金10億円以上の企業の従業員数は、法人企業統計が対象とする全企業の従業員総数の6.9%でしかない。

 だから、春闘に介入することによって経済全体の賃金を引き上げようというのは、まったくの見当違いということになる。

 賃金の伸びを抑えた基本的要因は、非正規雇用者を増やしたことだ。
以下ソース
https://news.yahoo.co.jp/articles/8e336c78058cdea8958bbe10c3f9600a6e0358cc