良男が会社の先輩との飲み会から帰宅しました。先輩は間もなく定年ですが今後も再雇用で厚生年金に加入して働く予定だそう。「厚生年金は長く加入するほど受け取れる額が増えるんだ。俺は70歳まで働くぞ」と、酎ハイを右手に高らかに宣言したそうです。

筧(かけい)家の家族構成
筧幸子(48)良男の妻。ファイナンシャルプランナーの資格を持つ。
筧良男(52)機械メーカー勤務。家計や資産運用は基本的に妻任せ。
筧恵(25)娘。旅行会社に勤める社会人3年目。
筧満(15)息子。投資を勉強しながらジュニアNISAで運用中。

良男 厚生年金をもらいながら働き続けると、年金は毎月どんどん増えていくの?

幸子 毎月計算し直すと大変だから、節目ごとにまとめて増やすのが現在の仕組みよ。年金は原則65歳からだけど、生年月日によっては60代前半も「特別支給」という年金があるわ。これをもらいながら働き続けても64歳までは金額は変わらず、65歳になった節目でそれまで働いた分が一挙に上乗せされるの。

良男 なるほど。じゃあ65歳以降はどうなの?

幸子 そのまま働き続けたとすると、やっぱり69歳までは65歳の時点と同じ受給額が続いて、70歳になった時点でもう一度計算して、また一挙に増えるというわけ。

満 もし途中で働くのをやめちゃったらどうなるの。

幸子 辞めて1カ月がたったら、その時点で計算してそれ以降に増える仕組みよ。例えば63歳の11月末で退職すると、それまでの加入で増える分を反映して12月分から増額されるの。

良男 働き続けても、節目の年齢になるか、辞めるまでは年金が増えないのは残念だな。

幸子 確かにそうよね。だからそうした声に対応するために、65歳以降については、毎年1回計算し直して年金が増えていく「在職定時改定」という仕組みを導入する方向で法改正が検討されているの。来年の国会で審議して、早ければ2022年くらいから新方式になる可能性があるわ。社会保険労務士の内田健治さんは「働き続ける効果を早い段階で感じられる改正だ」と評価しているわ。

満 でも年金財政は厳しいと新聞に書いてあるよ。早くから増やすと負担が増えるよね。

幸子 だいたい年に800億円くらい給付が増えるわ。でも元気に働けるうちは働こうと考える人が増えているので、制度改正でそうした動きを後押しする狙いなのよ。働く人が増えれば長期的には年金財政にもプラスよ。複雑になりすぎるのを防ぐために、60歳代前半は現在の仕組みのままだけどね。

良男 60歳以降、厚生年金に加入して働くと、1カ月でどのぐらい年金が増えるんだい?

幸子 標準的な給与水準の人がざっくり計算するなら、賞与を12分の1した金額と給与を加えた報酬月額に0.005481をかければ1月分の増加額がわかるわ。

満 すごい数字だね。

幸子 年金計算のために国が定めた比率。ただの「決まり」と考えればいいわ。計算の道具として割り切って使うの。

満 えーと、さっそく電卓をたたいたよ。報酬月額が20万円なら受給額が月に約1100円増えるよ。この金額で1年働けば年に1万3000円強増える計算になるね。

良男 じゃあ報酬月額30万円で1年働くと……。

幸子 同じ計算をすると年に約2万円弱増えるわね。65歳以降この金額で5年働くと、現在の仕組みでは70歳以降、年に10万円弱受給額が増えるってこと。さっき話した在職定時改定の仕組みが導入された後は、年に2万円弱ずつ増えていって、70歳時点ではさっきと同じ10万円弱の増加になるわ。

良男 高い報酬で長く加入するほど効果が大きいな。

満 そもそも65歳以降働いている人って、どれくらいの厚生年金をもらっているの。

幸子 65歳以上で標準報酬額10万〜20万円で働いている人でみると、厚生年金受給額が10万円未満が85%よ。これに国民共通の基礎年金(40年加入で月約6万5000円)が加わるけど、十分とはいえないわ。少しでも上積みする方が安心よね。
以下ソース
https://style.nikkei.com/article/DGXMZO53170810Q9A211C1NZKP00