東日本大震災の被災地で、津波災害や福島第1原子力発電所事故の教訓を学ぶ訪日外国人向けのツアーや観光が盛んになっている。震災から9年目に入り、復興が進みつつある被災地への関心は海外でも高まっており、国や自治体も呼び込みに力を入れている。

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「あれが復興住宅ですか」「放射線の影響は今もあるのか教えてください」。2月上旬、福島県内で、同県観光物産交流協会(福島市)が企画した外国人向けの2泊3日のツアーが行われた。米国や中国出身の5人がJR郡山駅(郡山市)をバスで出発。津波や原発事故の影響を受けた沿岸部の町を巡った。

富岡町の東京電力廃炉資料館では廃炉や除染の進捗状況を学び、震災後に開館した公民館を訪れて地元の人たちと交流。桜並木やブドウ畑、学校や公園なども回った。

広野町ではNPO法人による桜並木の整備に参加し、草刈りもした。最終日の解散前の振り返りの時間には「世界中の人に支援に関わってほしい」「友人に伝えたい」といった感想が漏れた。

参加した1人で米国人のシンクタンク職員、カート・ハンソンさんは「素早い復興に驚いた。人々が忍耐強く、活気ある様子で故郷に戻っている姿が見られた」と感激した様子だった。

県観光物産交流協会によると、「(福島第1)原発について知りたい」という外国人旅行者は増えつつある。一方で旅行者が許可なく帰還困難区域に入ったり、風評被害を広めてしまったりする問題が浮上。県は2016年度に始めた教育旅行「ホープツーリズム」の一環として外国人向けツアーを考案した。

県認定の「福島地域通訳案内士」としてガイドを務めた貝沼実千代さんは「『福島には誰も住めない』などの誤解を持ったままの外国人は少なくない。百聞は一見にしかず。町の現状を見てもらい、また来てもらえるよう名所や食べ物の話もしている」と話す。

復興庁によると、17年の東北3県(岩手、宮城、福島)の外国人宿泊客は約51万人で、震災前の10年比56%増。東北6県では約94万人で同87%増えた。11年に落ち込んだ後は伸び続けている。国は20年に東北の外国人宿泊者数を150万人にしようと、キャンペーンや民間ビジネスの支援を進める。

宿泊施設も外国人を呼び込む。岩手県宮古市で18年8月に開業したゲストハウス「3710(みなと)」は宿泊者の約半数が外国人。通訳案内士の資格を持つスタッフが被害が大きかった田老地区で英語の防災ツアーを行っており、目当てに訪れる客も多い。

スタッフの佐山春さん(26)は「ツナミという日本語の知名度が高く、被災地を見たいと訪れる訪日リピーターの外国人が増えてきた」。これまでに約100人の外国人が泊まり、8割が欧州から。「ツアーの種類を増やすなど外国人のニーズに合わせながら被災地のことを伝えたい」と言う。

情報を英語で伝える動きも広がっている。宮城県は18年6月、沿岸で被害が大きかった15市町の復興状況や魅力を発信する名刺サイズの「みやぎ復興まちづくりカード」を作成。役場などで配っている。被災地や名所の写真とともに地名や復興の取り組みを英語で説明した。県の担当者は「海外の人が復興を知る一助になれば」と期待する。

2019/3/18 11:16
日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO42474040U9A310C1CC0000/