課徴金減免制度(リーニエンシー)を見直す独占禁止法改正案が12日、閣議決定された。談合・カルテルを自主申告した企業に対し、調査への協力度に応じて減額幅を決めるのが柱で、現行のスピード勝負の申告とは大きく異なる。国際的な潮流に沿った内容といえ、企業への包囲網が一段と強まる可能性がある。一方で減額を認定する具体的な基準が示されておらず、運用面での課題は残る。

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「改正案は現行制度の弱点をカバーし、カルテルなどの調査に役立つ武器となる」。公取委幹部は、改正案の意義を強調する。

今回の目玉は、調査への協力度合いに応じて、課徴金の減免率を柔軟に変える「裁量型課徴金」を盛り込んだことにある。

現行制度は先着順で最大5社まで適用され、減免率は申告順に1位100%、2位50%、3位以下30%と自動的に決まる。1位の企業は刑事告発も免れるため、1秒の遅れが企業にとっては致命傷になりかねない。

改正案では従来、減免が認められなかった申請順位の下位も対象に加わる。実態解明に役立つ協力があった場合、課徴金を上乗せして減らす。

改正案の背景には、企業側の協力をさらに促す狙いがある。2006年の導入当初はこうした企業間の"密告合戦"を促すような制度は「日本になじまない」と言われた。だがふたを開けてみれば、効果は絶大だった。

同制度の申告件数はここ数年100件超を記録。18年3月末までに1165件に達した。名古屋市発注の地下鉄工事やリニア中央新幹線の建設工事など巨大工事での談合事件や、自動車輸出の海運カルテルなど課徴金総額が百億円を超える大規模な価格カルテルなどの摘発にもつながった。

一方で、現行制度には「先着順で減免率が決まった後、企業側が積極的に調査に協力する動機が弱まる。都合が悪い事実関係を否認するケースは少なくない」(別の公取委幹部)との声も出ていた。

海外では、競争当局が企業の実態解明への"貢献度"に応じて金銭的なペナルティーを決めているのが主流だ。例えば欧州連合(EU)の欧州委員会は、企業側が提出した証拠の価値や提出時期によって制裁金を減額する幅を変えているほか、米国、韓国など同様の運用をしている。日本でも公正な市場確保に向けた包囲網が一段と強まり、企業にとっては「ムチ」に映りそうだ。

今後の課題は減額幅を決める基準づくりとなる。改正案ではどの程度の協力で減免率が上乗せされるのかなどの基準が明確ではない。独禁法に詳しい弁護士事務所には、企業担当者から「裁量型課徴金の導入で今後、どうなるのか」などの戸惑いが寄せられているという。

土田和博・早稲田大教授は「企業の協力度合いがカギを握るだけに、公取委の調査にとって価値ある証拠を提出する必要がある」と指摘。公取委は適用の際に重視する事項のガイドラインを整備する方針を示しており、企業の混乱を防ぐ狙いがある。

一方、規制強化の「アメ」として、外部弁護士と相談した内容を保秘できる「秘匿特権制度」が導入される方向だ。これまで独禁法に基づく立ち入り調査を受けた企業は、公取委に押収される懸念から弁護士との相談内容を書面化しにくかったが、書面でやりとりしやすくなり、弁護士と意思疎通を図れるメリットがある。

元東京地検特捜部の検事で独禁法に詳しい木目田裕弁護士によると、秘匿特権は欧米では広く導入されており、海外の弁護士から日本は遅れていると指摘されてきた。

秘匿特権は「法体系全体に影響が及ぶ」(公取委幹部)として、法制化は見送られ、規則や指針にとどめることになった。木目田弁護士は「規則に盛り込まれ、実効性が確保され評価している。今後は、法制化に加え、独禁法以外の刑事事件や行政調査でも導入が望まれる」と提言する。

今回の秘匿特権は、適用の対象をカルテルなど「不当な取引制限」に絞っており、片山達弁護士は「独禁法の『優越的地位の乱用』などへの適用の可否も検討すべきだ」と指摘する。(江藤俊也 小西雄介 桜田優樹)

2019/3/12 8:21
日本経済新聞
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