政府は5日、NHKがすべての番組を放送と同時にインターネット配信できるようにする放送法改正案を閣議決定した。スマートフォン(スマホ)で動画を楽しむ生活習慣の定着など、社会環境の変化に対応する。一方、番組素材の部外者への誤送信など不祥事の相次ぐ体質の改善に向けて、役員の忠実義務をはじめ民間企業並みのガバナンス(統治)強化の規定も盛り込む。

ネット常時同時配信の解禁について石田真敏総務相は閣議後の記者会見で「スマホなどを用いて様々な場所で放送番組を視聴したいという国民視聴者の期待に応える」と説明した。

NHKはネット常時同時配信を2019年度中にも始めたい考え。ただ放送法だけでなく、関係省令の改正手続きがあるほか、システムの準備や検証にも時間がかかることから、実際の業務開始は20年度にずれ込む可能性もある。

受信料に支えられる公共放送のNHKがネット業務を拡大することについては、日本民間放送連盟(民放連)などが民業圧迫として反発してきた経緯がある。総務省の有識者会議も(1)受信料の引き下げ(2)衛星放送などの既存業務の見直し(3)ガバナンス改革――などをNHKに求めていた。

受信料については10月の消費増税時の据え置きを含めた値下げをNHKが表明済みだ。今回の改正法案はガバナンス改革も柱とする。民間の会社法制にならい、役員に忠実義務を課すほか、監査委員が経営委員会を召集できるようにするなどチェック機能の強化を盛り込んでいる。

民業圧迫の懸念を巡っては、総務相の認可が必要なネット業務の「実施基準」が焦点になる。NHKの本来業務は放送であり、ネット業務の費用は受信料の2.5%までと定められている。ネット常時同時配信に取り組むと、費用はこの枠を上回る公算が大きい。

民放の動画配信サービスにどう協力するかなど、検討すべき論点はまだ多く残る。総務省は区分経理を厳格にするなど経営の透明性の確保を求める方針だ。

2019/3/5 6:30 (2019/3/5 9:29更新)
日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO42025360U9A300C1MM0000/