6月に米ベインキャピタルなど日米韓連合の傘下に入った東芝メモリは19日、主力の四日市工場(三重県四日市市)で約2年ぶりとなる新製造棟の竣工式を開いた。最先端の製造装置を備え、投資額は四日市工場で過去最大級の5000億円超に達した。売却をめぐる混乱が続いた東芝メモリだが、新製造棟で世界最大容量となるメモリーの量産を2019年に始める計画。韓国サムスン電子などライバルとの開発競争に本格復帰する。

19日午前、成毛康雄社長ら東芝メモリ幹部が今回竣工した第6製造棟でテープカットに臨んだ。協業先の米ウエスタンデジタル(WD)からはスティーブ・ミリガン最高経営責任者(CEO)が来日、両社が17年12月に和解して以来、初めて東芝メモリの幹部と並んで公の場に出た。

 四日市工場は、スマートフォン(スマホ)やパソコンのデータ保存に使うNAND型フラッシュメモリーで世界シェア2位の東芝メモリと3位のWDが共同運営。世界生産の約4割を担う。第6製造棟の稼働で生産能力は2割以上増える見通しだ。総投資額は5000億円超と、1992年設立の四日市工場で過去最大級の投資となる。

 あらゆるモノがネットにつながる「IoT」を背景に大量のデータを記憶できるメモリーが求められるなか、メモリー各社はNANDの記憶素子を縦に積み重ねて大容量化する積層化の技術を競っている。第6製造棟で生産するのは記憶素子を96層積み重ねた最先端の製品だ。東芝メモリはこの技術を使って世界最大容量のNANDを7月に開発済み。19年の量産開始を計画する。

 第6製造棟は東芝が経営危機のさなかにあった17年2月に着工し、苦難の道を歩んできた。事業売却をめぐり東芝とWDが訴訟合戦を繰り広げるなか、東芝側は17年8月に四日市工場への単独投資を発表した。両社は12月に和解して共同投資に戻ったが、一時は協業の継続が危ぶまれた。

 世界シェア首位の韓国サムスン電子はその17年に東芝メモリの2倍を超える1兆円以上の投資を実施。18年7月には90層以上を積層したNANDを世界で初めて量産開始した。東芝メモリも96層品の量産を9月に始めたが、サムスンに一歩遅れた形だ。90層世代の量産をめぐっては米マイクロン・テクノロジーも投資を進めており、三つどもえの競争となっている。

 足元では懸念も浮上している。NANDの需要家であるスマホの販売が頭打ち。データセンターのサーバー向けも伸びてはいるが「17年ほどの勢いはない」(海外半導体メーカーの幹部)。17年に高止まりしていたメモリーの取引価格は18年に入って月を追うごとに下落。各社が軒並み高収益を確保できた17年とは様相が変わってきている。積層化を進めれば記憶容量当たりの製造コストを下げられるため、収益を確保するためにも最先端品の開発が急務だ。

 協調路線に戻った東芝メモリとWDだが、20年の量産開始に向け建設中の北上工場(岩手県北上市)への共同投資は、事業売却手続きの遅れでいまだ正式合意に至っていない。WDのミリガンCEOはメモリー市況の悪化を受け、7月に「パートナー(の東芝メモリ)と協議して短期の投資計画を見直す」と言及した。今後も市況見通しや投資計画を巡って両社がすれ違う可能性は残る。

 主導する米ベインキャピタルは3年後をめどに東芝メモリの新規株式公開(IPO)をめざす。ただ、NANDの収益環境が悪化すれば東芝メモリが自前でまかなえる資金は減り、ベインなどに追加出資が求められる可能性がある。東芝メモリの業績は、同社に40.2%を出資する東芝本体の連結業績にも持ち分法損益を通して引き続き影響する。
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO35511430Z10C18A9000000/