2030年、IT人材は80万人不足
村上憲郎氏の2030年予測:進化する農業、経済を回す小売、そして消える自動車と“労働”
 この先、日本のIT人材不足はますます深刻化すると見られている。経済産業省が2016年6月に発表した「IT人材の最新動向と将来推計に関する調査結果」によると、マクロ推計の2015年時点で約17万人のIT人材が不足している状態だった。

 しかも、少子高齢化社会の進展による労働人口減少で今後IT人材の供給力が低下するにもかかわらず、ITニーズは拡大を続けると見込まれるため、IT人材不足は今後ますます深刻化。2030年には、最も高位のシナリオで約79万人、最も低位のシナリオでも41万人程度、IT人材が不足すると推計されている。

この調査では、ビッグデータ、IoT、人工知能などの先端IT技術のサービス化や活用を担う人材を「先端IT人材」と名づけ、その不足状況についても把握を試みている。

 それによると、調査時点での先端IT人材は約9.7万人存在し、不足数は約1.5万人。2020年までには当該人材が12.9万人まで増えるが、不足数も4.8万人にまで拡大すると試算している。この調査結果を山口氏はどう見るか。

「IT人材=プログラミング能力を持っている人であるとすると、日本ではプログラマーという言葉に妙に工事仕事的なイメージがついてしまっています。“仕様書通りにプログラムを組めればいい”といった意識が、教育する側、雇用する側にあって、待遇もそれほど良くありません」(山口氏)

山口氏によると、たとえば銀行業務のオンライン化など事前に仕様がきっちり決められるシステムが主流だったときには、“仕様書通り”は有効だったという。

 しかし、現在のITはもっと複雑化・高度化していて、ソフトウェアがますます重要になり、今までになかったまったく新しいシステムやサービスを創り出すケースが増えている。

「こうした状況に対応するには“トッププログラマー”が必要です。それなのに、大学など教育機関を含めて社会が時代の変化についてきていません。調査結果の背景には、求められている人材と生み出される人材の間のギャップが広がっていることがあると思います」(山口氏)

「トッププログラマー」と「そうでないプログラマー」
 それでは、トッププログラマーは工事仕事プログラマーと何が違うのだろうか。

「トッププログラマーとそうでないプログラマーを分けるのは、情報技術の本質である数理的な理屈のきちんとした理解です。私が運営委員として関わっているACM-ICPC 国際大学対抗プログラミングコンテストでは、『素数pが与えられたとき、それが何番目の素数か』などといった問題が出たりするんですが、トップチームが1分で回答を完成させる一方で、そうでないチームは2時間かかったりします。トッププログラマーとそうでないプログラマーはそのぐらい違うのです」(山口氏)

なぜトップチームは1分で回答できたのか。もちろん、彼らのセンスや訓練が功を奏したというものあるが、山口氏は「数理的な理屈を理解してプログラムを書いているということが大きい」と語る。

 大学の情報教育も多くは、表面的なテクニックの習得に力点が置かれているケースが多く、情報技術の本質に迫る教育プログラムを構成しているところは少ない。学生自身も、学士でも修士でも日本ではそれほど企業での待遇が変わらず、学びに時間をかけるとかえって入社が遅れる分だけ生涯賃金が減ってしまったりするので、情報工学系は長く深く学ぶことに対するモチベーションが小さくなる。

 一方、米国に目を転じると、IT系トップ企業では学士、修士の待遇がはっきり異なり、後者を尊重する傾向が見られるという。

AIでは“IT人材不足”に対処できない
 とにかくIT人材が足りない。ならば何か対策を講じなければならない。たとえば、AIにトッププログラマー能力を補完してもらうというのはどうか。

「今のAIは、何か教師モデルが存在して、それに似たものをうまく作ることができます。たとえていうと、ユニクロや無印良品というような規格がすでにあって、この範囲の中で何か考えて、というのならAI活用は有効でしょう。しかし、今までにない斬新なハイブランドを創造して、といってもそれは無理なんです。今日のIT人材に求められている能力はまさに後者で、AIは助けにならないのです」(山口氏)
https://www.sbbit.jp/article/cont1/35252