大手チェーンのチーズバーガー単品に、ボトル1本500円弱のワイン。消費者物価指数(CPI)がカバーする商品やサービスは大衆向けが中心だ。平均的な国民の物価事情を測る目安にはなるが「プチぜいたく」消費や富裕層の購買行動などは見えてこない。物価指標の限界が浮かび上がる。

23日の午後1時すぎ。昼休み後も東京・有楽町のハンバーガー店「シェイクシャック」の行列は消えない。パティが2枚入ったハンバーガーは単品で1010円(税抜き)。4月に30円値上げしたが客足は衰えない。

ところがCPIはこうした値上げやブームを拾えない。CPIではハンバーガーは169円。小売店の日本酒は、2リットルパック入りの1000円弱の普通酒で物価が測られる。日本中のあらゆる物価を集計できればいいが調査コストには限界がある。総務省は消費量の多い代表的な商品を選び、継続的に調査している。

無印良品は今秋から冬に靴下など約200点を値下げする。「靴下やタオルなど購入頻度の高い物への価格の目線は厳しい」(良品計画の松崎暁社長)。昨年10月に1品280円から298円に値上げした鳥貴族は客離れが起こり、今年6月の既存店売上高は1年前より9%減った。

しかし失業率は歴史的な低水準で、賃金も緩やかながら上がっている。財布のひもはかたいが、嗜好品は多少高くてもお金を惜しまない。無印良品が昨年3万2千円で発売したコーヒーメーカーは「高額なのに記録的に売れた」(松崎社長)。

富裕層は金融緩和の恩恵が大きい。株価はこの6年で3倍になり、企業収益も過去最高で経営者の手取りは増えている。

森ビルでは富裕層向け賃貸マンションの契約価格が10年前と比べて3割近く上昇。食事代が1人3万円もする東京・銀座の高級寿司店「すきやばし次郎」には予約客が増え、対応しきれず断ることも増えた。和牛など高級食材の市場価格はこの5年で5割ほど値上がりした。

金融緩和でまず潤うのは企業や富裕層だ。大衆品の上がらぬ物価を尻目に富裕層需要の強い高額品は価格が高まり、バブルの様相すら漂う。CPIが映す「実相」に疑問符が付く。

この企画は馬場燃、後藤達也、福岡幸太郎が担当した。

2018年7月26日 12:00 日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO33402630V20C18A7SHA000/?nf=1