中略
米テレビドラマ「Lie to me 嘘は真実を語る」では主人公役のティム・ロスが乗っている車がプリウスだったが、劇中で主人公が悪漢に捕まったときに「クルマは何に乗っているんだ」と聞かれ「プリウスだ」と答えると悪者たちは苦笑いする。それに対して主人公は「いい車なんだぜ」と吐き捨てるのだが、要するにちっともセクシーじゃない非力なクルマで、悪者の嗜好にはまったく合わない、インテリのためのクルマ、という位置づけであった。

ところが、その事情も変わってきている。3代目プリウスのモデル末期だった2015年、プリウスのアメリカでの販売は約18万5000台と4年ぶりに20万台を下回っただけでなく、4代目プリウスへ全面的に切り替わった2016年は約13万7000台、2017年は約10万9000台と人気低下に歯止めがかかっていない。

日本でも4代目プリウスは3代目ほど売れてはいない。トヨタ自身のハイブリッド車ラインナップ拡大や競合社のエコカー攻勢などもあるが、奇抜なデザインも理由の1つに挙げられている。4代目プリウスをトヨタの豊田章男社長が“カッコワルイ”と評したのは雑誌でも取り上げられた。それはアメリカでも同じなのか。

4代目プリウスのスタイルが奇抜に感じる理由の一つは、ノーズの長さがある。それには技術的な理由がある。ハイブリッド車にはさまざまな機構が必要でそれを限られた空間に収めなければならない。昨今は歩行者保護や衝突安全性能に対する要求もますます厳しくなる中で、クラッシャブルゾーンも十分に取らなければならない。

さらに4代目プリウスは走行状態やエンジンの暖機状態に合わせて、自動開閉するグリルシャッターを装着している。「冷却系に必要な走行風が過剰な走行シーンではシャッターを閉じ、その流れを積極的に床下に導くことにより、床下の整流効果を向上。エンジンの暖機を促進しながら空気抵抗の低減も図る、賢い装備」(トヨタHPより)なのだが、これもまたノーズが伸びる原因になっている。

そもそもこれほどまでに冒険をしてでもスタイルを変えたのは何故か。その理由はタクシーやレンタカーなど法人向けのフリート販売にある。

プリウスは日本でも米国でもタクシーに多く使われている。都市部に需要の多いタクシーには、加減速の多い状況で燃費がいいハイブリッド車がピッタリなのだ。また、販売台数が減少する中で、トヨタが意図的にレンタカーやタクシーに卸して台数を稼いだともいえる。このタクシーイメージを払拭するためにも、デザインを大幅に変える必要があった。

しかし、それだけが不振の原因ではないと筆者は考えている。

不振の原因
米国の最大市場カリフォルニアの高速道路の通勤時の渋滞はひどい。片道5車線から7車線もあるのに渋滞が頻繁に起こる。渋滞による大気汚染緩和のために、カリフォルニアの高速道路にはHOVレーン、またはCar Pool(乗り合い)レーンと呼ばれるレーンが設けられているところが多い。2人以上乗っている車はこのレーンを通れるのだ。複数が乗り合い通勤をすることで、車の数を減らして大気汚染減少につなげる狙いだ。

通勤時は1人乗りが圧倒的に多いため、乗り合いレーンは通常レーンより空いている。大気汚染減少の観点から、2005年に排気ガスの少ないハイブリッド車には、1人乗りでも乗り合いレーンを走っていいという恩典が与えられることになった。申し込むと抽選で8万5000人に黄色のステッカーが発行され、これを貼っていると1人乗車でも乗り合いレーンが走れるのだ。

この施策は受け、このステッカーの貼ってあるプリウスは、中古でも新車より高い値段で取引されるほどで、プリウスをカリフォルニアのベストセラーカーに押し上げる1つの要因になった。

しかし、あまりにもプリウスが売れまくったため、乗り合いレーンが渋滞するようになり、2011年7月にハイブリッド車はこの恩典対象から外されてしまい、前後してEV(電気自動車)やFCV(燃料電池車)、天然ガス車用の白ステッカーや、プラグインハイブリッド用の緑ステッカーに取って代わられてしまった。

また、消費者には直接関係ないが、アメリカのZEV法という、量産メーカーに特定の割合でFC、EV、ハイブリッド車などのエコカーを販売することを義務付ける法律から、プラグインではない普通のハイブリッド車が外された。
以下ソース
https://toyokeizai.net/articles/-/226964