「あ、僕は慶應の経済なんだけどね」

「やっぱり、俺のいた早稲田の政経ではさぁ」

「ワタシ、SFC出身なんです〜」

こちらから聞いたわけではないのに、会話の中に自分の出身学部を挟みこんでくる、いい年齢を重ねた人びとがいる。それは早稲田大学と慶應義塾大学の卒業生に多い印象である。

というのも同じ大学といえども、学内にはエラかったり、エラくなかったりの「学部ヒエラルキー」があるからだ。今は、昔ほどあからさまではなく、半分ネタとして語られているようなところもあるが、早慶の学生たちの中に学部ごとの階級意識は確実に存在する。

慶應の法学部は「あほう学部」と呼ばれていた

この学部ヒエラルキー、昔と今でずいぶん順番が変わった。まず、慶應から。医学部はずっと別格だが、それ以外の一般学部の中で今、もっともエライとされているのは、法学部政治学科である。

30年ほど前は、「経済学部→法学部法律学科→法学部政治学科→商学部→文学部」の順番であった。とりわけ慶應の「看板」として経済学部は、絶対王者のような地位に君臨していた。

それが、今の慶大生たちの中では、「法学部政治学科→法学部法律学科→経済学部→商学部→文学部」という階級意識になっている(SFC[湘南藤沢キャンパス]の2学部と看護医療、理工、薬学は「別大学」扱い)。

「法律学科のほうが政治学科より上」とする学生もいるが、法学部がトップであることには変わりない。法学部が「あほう学部」、政治学科が「お世辞学科」などと揶揄されていた時代とは、隔世の感がある。

入試も法学部のほうが難関だとされている。河合塾公表の「2018年度入試予想ランキング表(私立大)」では、慶應の「経済学部・経済B方式(地理歴史を使う入試)」は偏差値70.0、「経済学部・経済A方式(数学を使う入試)」は67.5。対して、法学部政治学科と法学部法律学科は共に70.0だ。経済学部と違って一般入試の方式がひとつなので、偏差値はこれのみ。僅差ではあるが、偏差値でも法学部のほうが同格以上になっている。?

法学部の入試が難関であるのにはカラクリがある。毎年820人ほどの募集人員のうち、2学科それぞれ最大160人、計320人は、「FIT入試(AO入試)」「指定校推薦」による選考で受け入れることを約束している。

対する経済学部の募集人員は約770人で、AOや推薦入試制度を採用していない。「PEARL入試」と呼ばれる入試はあり、書類審査に加え、IB(国際バカロレア)、SAT(大学進学適性試験)、ACT、TOEFL、IELTSといった外部試験の結果が選考基準となっている。ただ、その募集人員は100人程度だ。

つまり、慶應の法学部は一般入試以外の枠が広い(約39%。経済学部は約13%)ため、一般入試が難関になりやすいわけである。

もちろん、この程度のことは学生たちも重々承知しており、その上で「いちばんエライのは法学部政治学科」と感じている。なぜだろうか??また、同じ学部で同じ偏差値なのに、どうして法律学科より政治学科のほうがエライのか?

その理由は、「内部生の進学人気順がそうだから」なのである。それが大学全体の階級意識を牽引しているのだ。

今の内部生が、法学部を志望するのは「偏差値がいちばん高いから」で、中でも政治学科を好むのは「法律学科より、単位取りがラクだから」。この内部生の志向と、それに伴う学部ヒエラルキーの変化は、10年ほど前から見られるものである。

慶大生は、良くも悪くも内部生のことを強く意識している。他大では内部生を"下"に見る学生も多いが、慶應は違う。本当の金持ちがいる、図抜けた才能の持ち主が混じっている、といったことから、昔も今もむしろ"上"に見ている。よって、内部生の意識が大学全体の意識に影響を与えることも少なくない。

バカにされていた早稲田の社学に急変

早稲田の学部ヒエラルキーは、慶應よりも大きな変化がある。

かつて、早大生の中で「誰でも入れる学部」と下に見られていたのが、第二文学部(略称・二文)と社会科学部(略称・社学)だ。親世代の頃だって、もちろん受験では不合格者をたくさん出しており、MARCH(明大・青学・立教・中大・法政)並みに高い入試難度だったのだが、学内ではそんな位置づけにあった。

20年以上前に早大生だった人なら、どなたもご存じの替え歌がある。早大仏文科中退の野坂昭如氏が作詞した「おもちゃのチャチャチャ」をモチーフに、「♪シャシャシャ社学のシャッシャッシャッ〜」と社学生を思いきり揶揄した歌詞だ。諸説あるが5番まで存在する。
https://toyokeizai.net/articles/-/224693