欧州経済の拡大にブレーキが掛かり、欧州中央銀行(ECB)の金融政策に影を落とし始めた。
米国の保護主義の高まりやイタリアの財政悪化への警戒感も広がり、
ECBは量的緩和政策終了の是非の判断を当初有力だった6月から7月に先送りするとの観測が強まっている。
緩和縮小の方針を掲げているECBに迷いが生じている。

 「先行きの不確実が明らかに高まっている」「データを注意深く見守ることが必要だ」――。
ECBが24日発表した4月理事会の議事録では「しっかりと幅広い成長が今後も続く」という公式見解とは裏腹に、
景気の先行きを警戒する議論が繰り広げられていた実態が明らかになった。

 減速をはっきり示すのが、景気をいち早く映すとされるユーロ圏の購買担当者景気指数(PMI)だ。
23日公表の5月速報値は54.1で4カ月連続の悪化となり、1年半ぶりの低い水準に沈んだ。
国内総生産(GDP)の成長率も1〜3月は前期比0.4%にとどまり、昨年10〜12月の0.7%を下回った。
ドイツなどでは輸出の落ち込みも目立ち始めている。

 なぜ景気が減速しているのか。昨年後半の急成長の反動が出たことに加え、
年初には悪天候やインフルエンザの流行、ストライキなどが重なった。
一時的な要因が大きく影響しているのは間違いない。ただ、5月になっても下げ止まらない背景には、
貿易摩擦や米国のイラン核合意からの離脱などによる
先行きの不透明感が輸出の減少などを通して景気に影を落とし始めた可能性がある。

 迷いはECBにも及んでいる。
ECBは当初、6月の次回理事会で9月末が期限の量的緩和政策の終了の是非について議論するとみられていた。
ところが、景気減速の原因がはっきりしないことなどから、もう1カ月だけ様子をみて、
7月の理事会で決定する可能性が高まってきた。

 量的緩和政策を年内にも終了し、半年ほど時間をおいて2019年半ばにも利上げを始めるというのが、
市場が描く基本シナリオだった。
ECBが緩和縮小のペースを緩め、利上げの時期も先送りになるとの見方も浮上している。

 ECBの姿勢を疑い始めた外国為替市場ではユーロ安が止まらない。
25日のロンドン市場では一時、1ユーロ=1.16ドル台半ばまで下げ、昨年11月以来の安値を付けた。
利上げを進める米国との金利差が広がり、投資家のユーロ離れが進んでいる。

 先行きの不透明感はさらに強まっている。
ECBのプラート専務理事は24日、足元の経済は悪くないが「雲」が垂れこめていると語った。

 最も大きなリスクが「保護主義の脅威」(ドラギ総裁)だ。
米トランプ政権は鉄鋼・アルミニウムの輸入制限に踏み切っただけでなく、
自動車への関税引き上げの検討に入った。

 自動車の関税が引き上げられれば、欧州への影響は鉄鋼・アルミと比べものにならない。
Ifo経済研究所によると、ドイツのGDPを50億ユーロ(約6400億円)引き下げる。
影響額は鉄・アルミの136倍だ。英国やイタリアのほか、ハンガリーなどの東欧諸国も打撃を免れない。

 イタリアでのポピュリズム(大衆迎合主義)政権誕生もリスク要因となっている。
失業者への最低所得保障の導入などで財政が一段と悪化するとの懸念からイタリアの長期金利は大きく上昇(債券価格は下落)。
投資家はイタリア債を売って健全財政のドイツ債を買う動きを強めている。

 イタリアの金利上昇は債券市場が財政に警鐘を鳴らす役割を果たしているともいえるが、
新政府がどう反応するかは読みづらい。
債券市場が大荒れとなれば、年内の量的緩和終了というシナリオにも黄信号がともる。

 政策の不確実性が高まれば高まるほど、企業は投資などに動きにくくなる。
実体経済にもボディーブローのように影響が広がり、せっかくの景気回復の好循環を壊しかねない。
混乱が欧州だけにとどまる保証もない。

関連ソース画像
https://www.nikkei.com/content/pic/20180527/96958A9F889DE1E3E2E0E1E6E3E2E0E5E2E7E0E2E3EA9494EAE2E2E2-DSXMZO2524802029122017FF8001-PN1-4.jpg

日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO31023410X20C18A5FF8000/