3月30日に開幕したプロ野球の公式戦。その視聴をめぐり、通信・放送各社が割安なプランや豊富なコンテンツを打ち出し、利用者獲得に向けて“熱戦”を繰り広げている。地上波のテレビ中継は減少しているが、ひいきの球団の試合を見逃したくない熱心なファンは多い。利用者が増えても安定した画質で見られる衛星放送など「既存勢力」が、手軽さで台頭するインターネット動画配信サービスを手がける通信など「新興勢力」を迎え撃つ構図だ。

「DAZN(ダ・ゾーン)フォー ドコモ」は、スポーツメディア企業である英パフォーム・グループとNTTドコモが組んだネットのスポーツ動画配信サービスだ。今季のプロ野球は、巨人を除くセ・パ両リーグ11球団の公式戦を一部を除き配信する。広島と横浜のセ・リーグ2球団のみだった昨季から大幅増となった。スマートフォンやタブレット端末のほか、専用機器を使うとテレビでも視聴可能だ。

月額料金は1750円(税別)で、ドコモ利用者なら980円(同)。他のスポーツも見放題だ。

楽天が運営する動画配信サービス「楽天TV」は、これまで楽天の試合しか配信していなかったが、今季は月額690円の「Rakutenパ・リーグスペシャル」をスタートする。パ・リーグの全公式戦を配信し、録画も見られる。野球中継に絞ったサービスのため割安なのが特徴だ。

パ・リーグの共同事業会社「パシフィックリーグマーケティング」(PLM)が手がける動画配信サービス「パ・リーグTV」は、パ・リーグ全公式戦のほか2軍公式戦も配信し、月額料金は1450円(税別)となっている。

いずれもスマホさえ持っていれば工事不要で、どこでも視聴できる利便性と月額2000円を切るプランで手軽さをアピールする。

これに対し、衛星放送のスカパーJSATと、ケーブルテレビのジュピターテレコム(JCOM)は、いずれも昨季に続き、全12球団の公式戦を全試合生中継する。「スカパー!プロ野球セット」は月額3980円で、「JCOMTVスタンダード」は5280円(税別)だ。

ネット動画配信と比べて割高な料金設定だが、いずれもテレビで録画でき、サービス契約者は専用アプリを通してスマホやタブレットでも視聴できる。さらに、スカパーは中継以外にも解説者による野球関連番組を用意したり、JCOMの場合は、プランに映画など80チャンネル以上も含まれる。

スカパーJSATの小牧次郎取締役は取材に対し、ネット動画配信だと野球1試合を見るだけで通信容量が膨大になることや、多数の人が視聴すると、画質が落ちたり、映像が止まったりするデメリットがあると指摘。放送なら数秒の遅延がネットの場合は1分程度にもなると説明した上で、「安定度は放送の方が高いのは物理的な事実で、ネットは生放送には向いてない」と語った。

もともとスカパーはJリーグの全試合を放送していたが、DAZNが昨季から10年間の独占放映権を総額約2100億円で獲得。スカパーは人気コンテンツの1つを失い、今年2月末時点の契約は322万件と1年前から約2%減少した。

さらに、ソフトバンクは2月、スポーツ動画配信サービス「スポナビライブ」を5月末で終了すると発表。DAZNへのコンテンツ移管も発表された。

一方、昨年2月に提供を始めたDAZNフォー ドコモは3月18日に契約100万件を突破。6日に記者会見したドコモの吉沢和弘社長は「好きなチームや選手をフォローしたり、ダウンロードしたりできる機能を追加する。新エンタメ(エンターテインメント)体験を革新する」とサービス拡充を宣言した。

低価格か高画質か−。スポーツ中継をめぐる通信・放送各社の社運をかけた顧客争奪戦は今シーズン、ますます激化しそうだ。
2018年04月09日 06時58分
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1804/09/news038.html