中略
投資物件のため空室が目立つ
11本のタワーマンションの総戸数は6497戸。1戸に3人の家族が住むと仮定すると、満室の場合、単純計算で約2万人。わずか10年でこれだけ増えれば、朝の通勤・通学時に改札待ちの行列ができるのも想像に難くない。

しかし、現地で街の人々に話を聞いてみると、現実は多少異なることがわかってきた。毎月納品のためにタワーマンションを訪ねるという洋品店の店主が語る。

「入居者の方から聞いた話なので、正確な現状はわからないのですが、満室どころか、けっこう空き部屋が多いみたいなんです。新築からこの10年のあいだに早くも売りに出した方もいれば、初めから投資目的で買われた外国人の方々も多いようで、お部屋を訪ねたときに地下の駐車場を何度か見ましたが、確かに空きが目立ちますね」

日本国内の大手不動産サイトを覗いてみると、確かにどのタワーマンションも売りに出ている部屋が少なからずある。外国人投資家の売買はこうしたサイトからは見えてこないことも考えると、この店主の証言はある程度正しいのだろう。

タワーマンションの入居者については、その数だけでなく、エリア内での動きも限定的なようだ。駅至近のイトーヨーカドーの買い物客がこんなことを教えてくれた。

「グランツリー武蔵小杉には百貨店『西武・そごう』の小型店舗が入居していたのですが、3年持たずに閉店。タワマンの富裕層を狙ったと言われていましたが、アテが外れたようです。かと言って、地元の戸建てや低層マンションに住んでいる人たちは、そもそもタワマンが並ぶエリアの商業施設でほとんど買い物をしないので、どうにもならなかったんでしょう」

「タワマン住民とは生活圏が違う」
通行者に話を聞いているうち、タワマン入居者とそれ以外の地元住民のあいだには、けっこうな距離があることがわかってきた。駅南西に伸びる「法政通り商店街」の老舗店主が語る。

「タワマンなど再開発事業を推進する側も、当初は地元との調和を図ろうと、努力していました。地元商店街の各店舗に個別にデザインされたスタンプを持たせ、いっぽうでタワマン入居者にスタンプカードを配り、商店街で買い物をしてスタンプがたまると特典が得られる。タワマン入居者がどの店でどのくらい買い物をしたか、調査するのが狙いでした」

「結果はさんざんなもの。30個ほどでいっぱいになるカードですが、多い人でも5、6個。ウチの店なんか、2年の調査期間中、一度もスタンプを押しませんでした(笑)。結局、タワマン住民とは生活圏が全然違うんですよね」

また、同じ商店街の居酒屋店主はこう指摘する。

「タワマンが建ち始めてから10年ほど過ぎ、タワマンに住んでいるという常連さんとはほとんど出会えていません。あえて口にしないだけかもしれませんが。にもかかわらず、土日にこの古い商店街にやたらと人が歩くようになったのが驚きです」

「ウチも女性二人とか若いお客さんが増えたので、ときどき話を聞いてみるんです。何で武蔵小杉に来たの、と。たいていの答えは、おしゃれな買い物の街だと聞いて遊びにきたけれども、駅直結の商業施設の中は都内にもあるお店ばかりだったので、ぶらぶら歩いてみたらいい感じの商店街あるじゃん! ということで飲みに来てるんですよね。他の商店主からも同じような話をよく聞きます」

武蔵小杉駅の構内は、平日の昼間から人出が多い。駅直結の商業施設もすでに述べたように、おしゃれな女性が目立つ。ただ、駅周辺ではそれと同じくらい、自転車で移動する人たちの姿を多く見かける。前出のイトーヨーカドー武蔵小杉駅前店もかなり混んでいる。駅から離れたところに住んでいる人がかなり多いことの証左だろう。

法政通り商店街の出口にある飲食店の女性店主が、こんなふうに説明してくれた。

「ウチの客は、この商店街より駅から離れた住宅街に住んでいる人たちがほとんど。ここ数年、低層マンションの新築や、既存マンションのリノベーションが増えているようで、最近引っ越してきたというお客さんがよく来てくれます。お子さんを連れてくるお父さん、お母さんも多いですね」

「子育てという面では、保育園が全然足りてないんだけれど、東京と横浜のどちらにもそれなりに近くて、タワーマンション以外は家賃もそんなに高くないので、『通勤、子育て、どちらもそこそこ便利』というのが理由で引っ越してくる人が多い感じがします。武蔵小杉だけにしぼって部屋を探した、という話はあんまり聞きません」
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/54853?page=3